数十年に一度クラスの大改正ともいわれるなか、とりわけ支払い能力のない女性客に、「売掛」などで多額の債務を負わせるなどが問題となったホスト業界に対する規制が厳しくなっており、同業界に激震が走った。
そもそもホストとはどんな業種・業態なのか。キャバクラとガールズバーはどう違うのか。実はこれらは法的には明確に区別されている。
日本最大の歓楽街、新宿・歌舞伎町。多様なナイトビジネスがひしめくこの地で「歌舞伎町弁護士」として信頼される若林翔氏が各業態について、法的観点から詳しく解説する。
※この記事は若林翔弁護士の書籍『歌舞伎町弁護士』(小学館新書)より一部抜粋・再構成しています。
そもそも「ナイトビジネス」とは
世間には昔から「夜の仕事」という言い方があり、最近では「夜職」という言葉もある。けれど「夜の仕事」や「夜職」が一般的にイメージさせるのは、キャバクラやクラブといったごく狭い範囲のビジネスにとどまっているように思われる。ナイト(夜)の括りからは少しはみ出してしまうが、私にとって「ナイトビジネス」とは、主に「風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)」の規制を受けるビジネスのことである。
「風俗営業」という表現はいわゆる「フーゾク」を想起させる。だが、それは実際には「風俗産業の中の性風俗」という限定されたビジネスであって、この法律の一面に過ぎない。
むしろ、風営法においては、「風俗営業」はキャバクラやホストクラブを指し、性風俗は「性風俗関連特殊営業」という名称で規定されている。我々が考え得るかぎりの遊興、娯楽を規制する影の主役こそ「風営法」なのである。
風営法とは
風営法は「許可」と「届出」によって、様々なビジネスを統制している。業種のカテゴリーは「風俗営業」、「特定遊興飲食店営業」、「深夜酒類提供飲食店営業」、「性風俗関連特殊営業」と大きく4つの業種が規定されている。まずは「風俗営業」の1号から見ていこう。この1号の営業許可を必要とするのは、客に対して飲食を提供するだけでなく、従業員による「接待」を伴うビジネスを行う店だ。代表的な存在としてはホストクラブ、キャバクラ、銀座などにあるクラブ、スナックなどがある。
キャバクラと居酒屋を分ける「接待」
この「接待」がホストクラブやキャバクラなどの「風俗営業」と、バーや居酒屋などの通常の飲食店とを分ける重要な要素となる。風営法でいう「接待」とは、歓楽的雰囲気を醸かもし出す方法により客をもてなすことと定義されている。「接待」の解釈基準としては、次の3つがある。
①客が会話や疑似恋愛などの飲食以外のサービスを期待して来店している状況において、
②キャストが「特定の」個人客や団体客に対して、
③積極的に飲食提供に通常伴う以上の会話などのサービスを提供する
ことだ。
- 客とカラオケのデュエットをする
- 客と一緒にゲームをする
- 客の隣に座ってお酒を作る
- 継続的に談笑する
- 必要以上に身体を密着、接触させる
そして1号許可のもとで運営される店舗は、風営法の規制によって営業時間も制限される。「午前0時(繁華街など特定の地域では午前1時)から午前6時」の営業を禁じられているため、ホストクラブやキャバクラ、スナックといった1号許可の店は、すべて午前0時(または1時)で閉店しなければならない。朝キャバの開店時間が早朝6時なのも同じ理由からだ。
ガールズバーがなぜ深夜営業しているのか
このカテゴリーについて、しばしば寄せられる相談がある。先に述べた「接待の定義」に基づけば、ガールズバーやコンセプトカフェ(コンカフェ)、メイド喫茶などにも1号許可が必要なはずだが、そこら中にあるガールズバーやコンカフェはバリバリの深夜まで営業しているじゃないか、と。
まさにおっしゃる通りである。法的な観点からみれば、ガールズバーやコンカフェ、メイド喫茶で、1号許可が必要な「接待」が行われているケースは少なくない。
深夜営業を行うガールズバーやコンカフェ、メイド喫茶は、風俗営業(接待飲食等営業)の1号許可を取得する代わりに、同じ風営法における別のカテゴリー「深夜酒類提供飲食店営業」の届出をしているケースが多い。
この「深夜酒類提供飲食店営業」は、午前0時から午前6時の時間帯に営業できない1号許可とは異なり、「許可ではなく、届出だけ」で24時間いつでも「酒を含む飲食」を提供することができる。
これらの店舗は「接待」をしない「深夜酒類提供飲食店営業」として営業している。キャバクラやホストクラブとは異なり、「接待」をしないバーや居酒屋と一緒だよ、という建前で営業をしているのだ。
これらの「深夜酒類提供飲食店営業」の届出で営業をしている店舗が、「接待」をした場合には、本来必要な風俗営業許可、1号営業許可を取得せずに営業をしていたとして、無許可営業となる。
たまにガールズバーやコンカフェが摘発されるニュースが流れるが、その理由のほとんどが「接待」をしたことによる無許可営業だ。
カウンター越しなら「接待でない」は都市伝説
ネット掲示板どころか、ナイトビジネスに関わる人たちでさえ勘違いしていることも多いが、「キャストを客の横に座らせなければ(カウンター越しであれば)、接待にはあたらない」などというのは都市伝説なのである。先ほどの「接待」の定義や解釈基準を思い出してほしい。客が飲食の提供以上のサービスを期待して来店し、キャストが特定の客に積極的に会話・談笑などのサービスを提供している場合には、「接待」に該当する。
多くのガールズバーやコンカフェの営業では、客はキャストとの会話やカラオケ、ゲームなどを求めて来店し、キャストも客と会話などのサービスをしている。アフターや同伴、ドリンクバックなどのキャバクラやホストクラブと類似のシステムがある店舗だってある。それゆえに、ガールズバーなどの摘発は止まないのである。
誤解を招かぬよう書き添えると、接待を提供しているガールズバーやコンカフェの中には、きちんと1号許可を得て営業している店もあり、これは適法だ。