5月30日、都内のコンサルティング会社の社長らが、雑誌や新聞の有料記事を無断でコピーし、社員らが閲覧できる社内通信システムやメールで共有したとして書類送検された。
報道によると、無断で共有した記事などの数は推定で約1万3000本にのぼった。
会社側は容疑を認めて捜査に全面協力しており、関係先との示談交渉も進めているという。
仕事に役立つ情報や業界ニュースを、同僚や部下にシェアした経験がある会社員も少なくないだろう。しかし、その何気ない行為は、違法なものとして法的責任を追及される可能性がある。

1本でも社内ネットに記事を複製したら著作権侵害

今回、上記行為が捜査対象となったのは、共有した記事が1万本以上という数の多さに悪質性が認められたからと考えられる。
一方、企業法務やコンプライアンスに詳しい折田忠仁弁護士は、雑誌や新聞の記事を複製(コピペ)して社内のイントラネットに保存して社員に閲覧できるようにする行為は、たとえ1本だけであっても複製権(著作権法21条)の侵害にあたる、と指摘する。
複製権の侵害は、民事上、権利者からの差し止めや損害賠償などを請求される可能性がある。さらに、刑罰として、10年以下の拘禁刑または1000万円以下の罰金、又はこれを併科することが規定されている(同119条)。
ただし複製権侵害は「親告罪」であるため、権利者からの告訴がなければ刑事事件として立件されることはない(同123条)。
なお、著作物の複製は、個人または家庭内や「これに準ずる限られた範囲内」で使用することを目的とする場合には、「私的使用」として複製することが認められている(同30条)。
しかし、企業内の業務に関連した複製行為は、一般的に「私的使用」とされる余地がないと理解されている、と折田弁護士は指摘する。
たとえば、数人しかいないチーム内で情報共有の目的で有料記事をコピペしシェアすることも「私的利用」とは認められず、厳密には違法行為である。

オンライン記事は本文のコピペではなくURLをシェア

では、業務に役立つ記事を同僚や部下に共有したい場合、あるいは業界の最新ニュースが書かれた記事を経営者が社員らに周知したい場合には、どうすればいいのだろうか。
まず検討すべきは、共有したい記事がオンラインのものなら、本文をコピペして複製するのではなく、URLをシェアすることだ。
ニュースサイトなどは時間がたてば記事が消えることがあるという難点も存在するが、共有されたURLから各自が元の記事を読むのであれば、違法にならない。

新聞記事や本を「要約」する際は「翻案権」侵害に注意!

では、オンライン記事ではなく、紙の新聞記事や本などの内容を共有したい場合にはどうすればいいのだろうか。
この場合は、記事や本の内容を自分で要約したうえで紹介する、という方法が考えられる。
しかし、著作物の要約や概要を作成することは翻案権(著作権法27条)の侵害にあたる可能性がある点に注意しなければならない。
ある裁判例では、「原著作物に依拠して作成され、かつ、その内容において、原著作物の内容の一部が省略され又は表現が短縮され、場合により叙述の順序が変更されてはいるが、その主要な部分を含み、原著作物の表現している思想、感情の主要な部分と同一の思想、感情を表現している」要約は、元の記事の翻案にあたると判示したうえで、このような要約は翻案権の侵害になる、と結論されている(東京地裁平成6年2月18日判決参照)。
「ただし、世の中には『長編小説のあらすじを紹介したい』などのニーズもあります。小説のあらすじを紹介するだけでも翻案権侵害になるというのは、われわれの社会通念に合致しません。
結局のところ、翻案権侵害の線引きになるのは、要約の内容が『(元となる)記事の主要な部分を含み、その記事の表現している思想、感情と主要な部分において同一の思想、感情を表現している』かどうかだと思います。
たとえば、あまりにも元の記事や本の構成と表現をそのままなぞっていて、記事や本が伝えようとしている考えや印象まで再現しているような要約を作成して共有することは、翻案権の侵害として違法となる可能性があるでしょう」(折田弁護士)
たとえ「役立つ情報を共有したい」という善意に基づいている場合や、業務上の必要がある場合であっても、著作物の扱いには慎重さが求められる。
「社内だから…」「少人数だから…」「営利目的ではないから…」などの理由があろうとも、著作権を侵害するなら違法行為となるからだ。
情報をシェアする際は、まずは「内容をコピペして配ることは原則NG」と認識したうえで、URLの共有にとどめたり、あくまで自分の言葉で要点をまとめた簡潔な紹介を行うように意識すべきだろう。


編集部おすすめ