一般社団法人「OSDよりそいネットワーク」はこのほど、ひきこもり状態の経験者・当事者を対象としたアンケートを実施。その結果を「ひきこもり経験者の居場所、社会参加に関する意識調査報告書」としてまとめ7月3日、都内で開いた会見で概要を伝えた。

アンケートの結果、精神疾患などさまざまな理由で自宅に引きこもっている当事者らのうち、およそ9割が「働きたい」と答えていることなどが明らかになった。(ライター・榎園哲哉)

ひきこもりの当事者173人から回答

「質素ながらも一人で生活できるくらいの収入を確保したい」――。
学校や職場に行きたくても行けない。自宅にとどまり続けている。そうした人たちから「声なき声」が寄せられた。
厚労省は、ひきこもりについて、さまざまな要因の結果として、「社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまりつづけている状態」と定義。
内閣府が2023年3月に公表した調査結果では、15~64歳の生産年齢(生産活動に就いている中核の労働力となる年齢)人口のうちおよそ146万人もの人がひきこもり状態にあると推計された。
こうした現状を受けて、ひきこもり問題に思い悩む親たちの声を受けて設立された「O(親が)S(死んだら)D(どうしよう)よりそいネットワーク」は、ひきこもり状態にある当事者を支える団体などの協力を得て、昨年9月から今年1月にかけて全国の約2000人にアンケート調査を打診。173人の当事者から回答を得た。

「対面で交流すると数日間は動けなくなる」

アンケートでは、ひきこもりの当事者たちの実情が明かされた。
回答者の性別は男性(47.4%)と女性(48%)、その他(4.6%)と男女がほぼ半数ずつとなった。
ひきこもりの状況はさまざま。長期にわたる場合と、短期・不定期で複数回にわたる場合がある。ひきこもりが始まった時期の平均年齢は20.4歳、最年少は8歳、最年長は73歳。
期間は平均7.9年(最短2か月、最長41年)だった。
最近2週間の生活の状態は、「家庭内で自由に行動」(56.1%)、「自室に閉じこもる」(27.7%)、「ネットでの交流をしている」(24.9%)、「対人交流が必要でない場所に行く」(24.3%)など(複数回答)。
「OSDよりそいネットワーク」をはじめとする各支援団体などでは、対人交流を苦手とする当事者らのために、「居場所」と呼ぶ交流会・サロンも実施しており、それについての質問も行った。
「居場所」を利用する目的としては、「必要な情報を得たい」(54.3%)を筆頭に「家以外のどこかへ出かけたい」(51.4%)、「何かを学びたい」(48.6%)と続いた(複数回答)。
一方、「居場所」を利用する上でネックとなることについての問いには、「開催場所までの距離が遠い」、「お金(参加費、交通費)がかかる」がそれぞれ70%となった。
また、自由回答では「なぜ選択肢に『リアルな居場所は利用したくない』がないのでしょうか」「緊張と過労でコミュニケーションをとる場に行くと数日間は動けなくなる」と、対面での交流の場に参加すること自体に抵抗を示す声も上がった。

当事者「オンラインで働きたい」希望も

「OSDよりそいネットワーク」の馬場佳子代表理事は、当事者らがひきこもり状態に至った理由について、「精神疾患がある、発達障害で社会に適合できない、(過去に)いじめに遭った、親が過干渉、など多種多様でさまざまです」と語る。
家計を支える手段についても、「親と一緒に住んでいる人、生活保護や障害年金を受けている人、(不定期に働き)いくらかの収入がある人などがいます」(馬場代表)と、一言で「ひきこもり」と言ってもその状態や生活には幅があると話す。
一方で、アンケートからはある一つの共通した「思い」も見えた。
「働きたいという思いがありますか」の問いに、ほぼ9割(86.5%)の当事者が「はい」と答え、就労への意欲を見せている。
「はい」と答えた人たちへの、対人関係が不得手なことも考慮した「オンラインやテレワークで働きたいという思いがありますか」の問いにも、9割近く(84.5%)が「はい」と答えている。
人や社会と接しない在宅、オンラインでの仕事への欲求。自由回答ではそれを求める明確な声も記された。

「障害のため、外での就労を目指すこと自体が厳しい。在宅状態でも就労可能になるような支援があればうれしい」
「毎日人と連絡を取ることや、ルーティンでの活動が苦しい。集団生活が苦手なためにひきこもっている人は多いのではないかと思う」

コミュニケーション少ない仕事の支援を

80代の親がひきこもりの50代の子どもの生活を経済的に支え、親子共倒れのリスクが危惧される「8050(はちぜろごーぜろ)問題」が報道されているが、当事者たちは就労への意欲を持っている。その“接点”をどう活用し、当事者らの社会参加につなげていけばいいのか。
今回のアンケートにも協力し、約1900人のひきこもり当事者が参加する支援団体「COMOLY(コモリー)」を運営する山田邦生さんは、「(対人恐怖症や強迫性障害などで)一般就労はかなり難しい。電車に乗れない、顔を合わせて話せないという人もいますが、たとえばオンラインでの仕事や、コミュニケーションをとることをあまり必要としない仕事であればできる人はいます。こうした仕事を用意し、周知して、就労までサポートするような支援が求められていくと思います」と語った。
「OSDよりそいネットワーク」では、今回の調査をまとめた動画を「ユーチューブ」でも配信(https://youtu.be/rTQwwC51Kg8)している。


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