引っ越しを検討し始めたのなら、ネットで熱心にリサーチし続けてみるといい。下がらないと思っていた家賃が思い過ごしだったと気づくはずだ。
固定観念にとらわれず、発想を転換する。それが納得の家賃で理想に近い住まい探しの近道といっていい。今回は、その実践法をフリーライターの日向咲嗣氏が解説する。
※この記事はフリーライター・日向咲嗣氏の書籍『家賃はいますぐ下げれます』(三五館シンシャ)より一部抜粋・再構成しています。
「東京は高家賃、地方は安い」は本当か?
賃貸住宅の家賃をあちこち見ていくと「東京は家賃は高くて地方は安い」というようなステレオタイプなものさしが、通用しなくなっていることがわかる。どういうことかというと、たとえば東京・杉並に1K(洋室7畳・K2畳)で家賃3.3万円の激安物件が見つかったとする。
かつての常識では、「地方は安い」だったが、いまは、そんな常識が通用するとは限らない。たとえば、山梨県富士吉田市で、それと同じ条件の物件を探すと、家賃は3.6万円で、東京・杉並よりも高かったりするからだ。
どうしてそうなるのか。それは競争が起きているかどうかの違いである。
「Yahoo!不動産賃貸」サイトに登録されている物件数でみると、東京都杉並区には1万9000件を超える物件が登録されているのに対して、山梨県富士吉田市は、たったの246件しか登録されていない。
つまり、物件間で競争が激しいエリアほど家賃の下げ圧力は強まるのに対して、賃貸住宅の物件数が少なく、まだ供給過剰に陥っていないエリアでは、たいして競争が起きておらず、リーマンショック前と変わらない家賃のまま推移してきているとみることができる。
また、ワンルームがいくら多くても、ファミリー向けの物件が極端に少ないエリアで、子育て世帯が物件を探そうとすると、思ったほど家賃が安くなっていないケースもある。
要するに、すべての価格は、需要と供給によってのみ決まるということである。
利便性が高く、賃金も高い都市部だから家賃も高くなるわけではない。都心部であっても、需要をはるかに上回る供給があれば、入居者を早く獲得したい大家さんたちの間で、激しい値下げ競争が巻き起こり、自然と家賃は下がっていくのである。
逆に、需要を十分に満たすだけの物件がないエリアだと、あまり競争が起こらないために家賃も下がらない。その結果、ときどき東京と地方の家賃にあまり差がないという奇妙な現象が起きてしまうわけだ。
立場が逆転しつつある大家と店子(たなこ)
その最たるものが礼金で、客の借主が正規料金とは別に、貸主にお礼のお金を払うなどという行為が当たり前のように行われていた。客からすれば「そんなものは払いたくない」と言えば、部屋を貸してくれないのだから、不利な条件でも飲まざるをえなかった。
また、次の借主に貸すためのリフォーム費用を、そっくり退去する人の敷金から差し引くなどという行為も普通に行われていて、アパートを退去後に敷金が1円も返ってこないどころか、追加の修繕費用を請求されるトラブルも続出していた。
そのほか、固定資産税や管理費、修繕積立金などの費用を、さまざまな名目をつけて客に転嫁する、賃貸業界はまさに「やりたい放題」な状況だったと言ってもよい。
しかし、需要が減る一方で供給が増えたおかげで、大家と店子(たなこ)の立場は逆転しつつある。
月々の家賃を少し高くしてでも「礼金ゼロ」をアピールする物件が出始め、礼金なしがめずらしくなくなると、今度は家賃を安くしたうえでさらに礼金なしと、どんどん競争はエスカレートしていく。
敷金についても、戻ってこない可能性がある以上、それが高く設定された物件は嫌われるため、早く入居させたければ、こちらも安く設定するしかない。
行政がトラブル防止のための敷金のガイドラインを出して、普通に生活していて汚れたり消耗したりする部分については請求されないルールがスンナリと全国的に広まっていったのも、競争激化のおかげだろう。
賃貸住宅に関する常識はことごとく破壊された!
以上、見てきたように、「家賃が下がるわけない」「激安物件はボロアパートしかない」 「どうせ高い敷金や礼金が取られる」「新築物件は高い」といった賃貸住宅に関する常識は、もはや過去の話だ。なによりもいま、リモートワークが浸透し、通勤の常識が変化している。完全リモートでなくても、通勤の負担は大きく減っており、遠距離通勤もかつてほど苦ではなくなりつつある。
発想の転換をすれば、地方も視野に入れながら、すぐれたコスパで理想に近い住まいを見つけることはかなり簡単になっている。
<日向咲嗣 ひゅうが・さくじ>
1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経て、フリーライターに。「転職」「独立」「副業」「失業」問題 など職業生活全般をテーマに著作多数。失業当事者に寄り添っての執筆活動が評価され、2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。本書では、これまで不動産のプロたちが口をつぐんできた聖域、賃貸住宅の家賃に切り込んでいる。