来週土曜日から「海の日」を含む3連休。子どもたちの夏休みも始まり、いよいよ海水浴、マリンスポーツ等のシーズンが本格化する。

海のレジャーでは何より「遭難」しないように注意が必要である。警察庁のデータによれば、昨年7~8月の海での水難者は318人で、うち死者・行方不明者は117人となっている。海は楽しい場所であると同時に、危険が潜んでいる場所であることを忘れてはならない。
もし注意を怠らなかったとしても、不測の事態を完全に防げるとは限らない。ましてや、無謀な行為をした結果として遭難した場合、「自業自得」のそしりを免れない。
そこで気になることの一つが、海のレジャーで遭難した場合の「費用負担」、つまり、救助された場合に、救助活動にかかった費用を自己負担しなければならないのかという問題である。自身もマリンスポーツを好み、行政法等に詳しい荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に聞いた。

海難事故での救助は基本的に「無料」

海で遭難した場合、わが国で水難救助を担う公的機関として、消防の水難救助隊(119番)と、海上保安庁(118番)が挙げられる。それぞれの担当は厳密に分けられていないが、ごく大ざっぱにいえば、海水浴をして溺れた場合など、岸近くで遭難した場合は消防の水難救助隊、沖で遭難した場合は海上保安庁、というイメージである。
これらの機関による救助活動が行われた場合、その費用負担はどうなっているのか。
荒川弁護士は、「多くの場合、費用負担は生じない」という。
荒川弁護士:「それぞれの救護活動は、法律に基づいて行われる公務です。消防なら『消防法』、海上保安庁なら『海上保安庁法』です。

また、救助活動にかかった費用を救助対象者に請求できる根拠となる規定はありません。
つまり、救護活動をすることが、法律上当然の業務と位置付けられているのです。したがって、救助費用は無償ということになります」

「無謀な行動」で遭難した人に費用負担させられないか

捜索・救助活動にかかる費用は、私たち一般の国民が支払った税金である。そこで、従来よくみられる意見として、無謀な行動をとった結果として遭難した人には、救助活動にかかった費用を自己負担させるべきというものがある。
たとえば、危険と言われる場所にあえてレジャーに行った場合や、警告が発せられたにもかかわらず引き返さなかった場合などに、費用の全額または一部を自己負担させることはできないか。
荒川弁護士:「前述したように、救助活動は法律上の業務なので、対象者に費用を負担させることは予定されていません。
この理屈は、誰かが過失によって火災を起こして消防隊が出動して消火活動を行った場合に、その費用を失火者に請求しないこととまったく同じです」
救助活動が本来想定される業務の内容を超え、過大な危険ないしは負担を強いられた場合には、費用負担を求めることも許容されるのではないか。
荒川弁護士:「その理屈は、成り立ち得ます。しかし、わが国は法治国家です。けしからんからといって、法律の根拠なしに、恣意(しい)的に費用負担を求めることは許されません。
対象者に費用を自己負担させるには、法律や地方公共団体の条例で、請求する要件や手続きを、詳細かつ明確に定める必要があるでしょう」

公的機関以外に救助を頼んだら

次に、公的機関ではなく、民間の団体や業者等に救助を頼む場合は、費用がかかるケースとかからないケースがあるという。
荒川弁護士:「まず、全国5万人のボランティア救助員を束ねる民間のボランティア団体『日本⽔難救済会』があります。ここに属するボランティアが救助を担当した場合、無償です。
次に、海の状況をよく知っている近隣の漁協や漁師に救助を依頼したり、また、近隣のマリーナの救助艇を出してもらったりする場合、費用がかかることがあります。

いずれも本業がある民間の事業者であり、救助は本来の業務ではないからです。救助自体が業務である公的機関やボランティアとは異なります」

「救助してもらわなくていい」は通じない

では、その場合に、救助された人やその家族が「高いカネを払ってまで救助してくれとは頼んでいない」などと主張して、救助費用の支払いを拒んだらどうなるのか。
荒川弁護士は「そういう埒(らち)もない寝言は、認められません」と一蹴する。
荒川弁護士:「契約や法令上の義務がなくても、本人のためになる行為をした場合については、『事務管理』といって、その費用を請求することができることになっています(民法697条~702条)。
本人の求めがなくても救助活動を行った場合もこの事務管理にあたります。救助活動の際にケガをした場合、その治療費も請求の対象となる費用に含まれる可能性があります」


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