7月20日に投開票される参議院選挙を前に、日本労働弁護団は各政党に対し、主な労働政策についてアンケートを実施。7月9日、都内で会見を開き、その結果を公表した。

時間外労働の規制をはじめ、「働き方」の多様化への対応、ハラスメント防止、ジェンダー平等実現など、政権与党と野党各党との政策の“違い”が明らかになった。(ライター・榎園哲哉)

労働政策の諸課題について8党から回答届く

政党各党が労働政策についてどのような姿勢を持っているのかを問うこのアンケートは、日本労働弁護団が国政選挙に際して実施している。
今回は自由民主党、公明党、立憲民主党、共産党、国民民主党、れいわ新選組、日本維新の会、社民党、参政党、保守党の10党に回答を打診し、6月24日から7月9日までに、参政党、保守党をのぞく8党から回答を得た。
設問数は全15。回答は自由回答とした。
会見では、日本労働弁護団事務局長の竹村和也弁護士から、各党の回答の概要や傾向が説明された。全体を通じて、各設問で与党と野党の見解の違いが浮き彫りにされた。
長時間労働を是正するための「インターバル制度(※①)の導入義務化」「時間外労働の上限規制(※②)の強化」「高度プロフェッショナル制度(※③)の廃止」についての設問には、「野党各党は積極的な立場を、与党の自民・公明両党は現状維持の立場を取っているように思われる」と竹村弁護士。
※①勤務終了後、翌日の勤務開始までに、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設ける。
※②2018年6月に労働基準法が改正され、36協定(労働基準法36条に基づく労使協定)で定める時間外労働に上限が設けられた(2019年4月施行)。時間外労働の上限は、月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができない。違反した場合、罰則の対象となる。
※③一定の年収(1075万円以上)がある特定専門職(研究開発職等)を労働時間の規制対象から外す。
労働時間に関係なく働き、労働の成果で評価される。同様の制度に、あらかじめ労使間で定めた時間を労働時間とみなす「裁量労働制」がある。

時間外労働規制など「野党は積極的、自公は現状維持」

「時間外労働の上限規制の強化の賛否」に関する問いには、各党から次の回答(要旨)があった。
「時間外労働の上限規制は原則として月45時間、かつ年360時間、臨時的な特別の事情がある場合でも720時間等とされており、これらの規定は罰則により担保されています。引き続き的確な監督指導等の実施を図るべきと考えます」(自民)
「労使合意で掲げられた長期的な目標である『月45時間・年360時間』に近づけられるように努めていくべきです。その上で、労働者の健康を第一に、本人の希望に応じて働くことが出来るよう、多様で柔軟な働き方を推進していくべきと考えます」(公明)
「残業代の割増率を引き上げるとともに、違法残業などの法令違反に対する罰則強化を図り、時間外労働の上限時間のさらなる規制を検討していきます。常勤労働者の年間総実労働時間平均について早期に1800時間以下を目指します」(立憲民主)
「『働き方改革関連法』は残業上限時間をようやく定めましたが、中身は過労死水準の長時間労働を法認するものです。上限は例外なく『週15時間、月45時間、年350時間』に規制します。割増賃金による規制も必要です」(共産)
「勤務から翌日の勤務まで一定の間隔を空ける『インターバル規制』の義務付け、長時間労働の温床となっている『裁量労働制』の厳格化、労働時間管理の徹底、違法残業等法令違反に対する罰則の強化等、未だ解消されない多くの業種の深刻な人材不足を解消するためにも実効性のある規制を設けます」(国民民主)
「時間外労働の上限時間を規制することは、過労死や労災を防ぐためにも重要だと考えており賛成です。しかし、そもそも日本では『サービス残業』と呼ばれる無償労働(違法労働)が横行しており、並行して『サービス残業』対策のための労働時間の適正な把握などが実施されなければ、時間外労働の上限時間規制が絵に描いた餅になってしまうと考えます」(れいわ)
「時間外労働の上限規制を引き上げることに反対しています。むしろ、より厳格に抜け穴のない形で規制を強化する必要があると考えています。例えば、月45時間・年360時間を超える特例を廃止すべきといった主張や、『過労死ライン』を下回る上限規制への見直しなどを訴えています」(社民)
(日本維新の会は、この設問への回答はなし)

新たな就労形態への立法措置も与野党分かれる

インターネットを活用したオンラインでの在宅ワーク、フリーランスなど、新たな働き方についてはどのような見解を持っているのかを問う設問も用意された。
竹村弁護士は「クラウドワーカーなどの新たな就労形態の調査、保護のための立法(労働者性推定規定の制定や労働者性の判断基準拡大)の要否の問いも、政権与党と野党ではっきり回答が異なっている」と話す。
立法措置の必要性について自公与党は「その他」「不要」、野党各党は「必要」と答えた。
回答(要旨)は次の通り。
「働く人の実態を踏まえ労働基準法等の労働者であるかが適切に判断されることが必要と考えます。その上で安心して働ける環境整備、事業者とフリーランスとの取り引きについて、書面での契約のルール化など法制面の措置の検討が必要と考えます」(自民)
「プラットフォームワーカーやギグワーカーなど就労形態が多様化する中で、国際的な動向も踏まえつつ、判断基準の見直しの必要性を検討していく必要があると考えています」(公明)
「同じ働く者でありながら、労働法令等による保護から除外されてしまう働き方が拡大している中で、労働時間や賃金等に関する労働者保護ルールの適用の在り方を検討し、働く者全ての命と健康と暮らしが守られる環境や法制度を整備します」(立憲民主)
「クラウドワーカーやフリーランスは労働法の保護の外に置かれ、無権利状態に苦しんでいます。法を整備し、労働者性・雇用責任を明らかにし、労働3権を保障し、賃金の最低保障や休業手当の支給、労災補償の拡充を進めます」(共産)
「労働時間や賃金、安全衛生など労働者保護ルールの適用」(国民民主)
「現在、クラウドワーカーについては、個人事業主として業務を受託しているため、労働関係法制の適用はありません。しかし、実際には企業にいる労働者とほぼ変わらず、会社からの指揮命令を受け、時間的な拘束を受ける場合もありますから、一定の場合に労働関係法の適用をするなどの立法措置は必要でしょう。また、『労働者』に当たらない場合であっても、一定の保護をすべきであり、そのための議論も必要と思われます」(れいわ)
「就労者全てをカバーする労働法制の整備」(維新)
「クラウドワーカーやギグワーカーなどプラットフォームを通じた新しい働き方をしている人々の保護の必要性を強く認識しています。フォーマー(プラットフォーム事業者)を介して働く人々は、形式上は『個人事業主』でも、実態としては発注者からの指揮命令・評価・報酬決定などに強く従属しています。そうした実態に即して『労働者的性格を有する働き方』として、クラウドワーカー・ギグワーカーも『労働者』的保護が必要と考えています」(社民)

来る参院選の「投票先を決める一助となれば」

設問はこのほか、「給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の廃止を含めた抜本的改正」「ハラスメント防止法立法」「転居を伴う配転命令の規制強化」の賛否などを問うた。回答全文は以下ページから閲覧できる。
2025参議院選挙政党アンケート回答一覧.pdf(労働弁護団HP内)
https://roudou-bengodan.com/topics/14673/
日本労働弁護団幹事長の佐々木亮弁護士は、回答を総括し「多くの労働政策は与党と野党でだいぶ分かれている」と話す一方、働く際のルールを学校などで伝える「ワークルール教育推進法」制定の賛否への回答が、与野党ともに「賛成」「条件付きで賛成」などとなったことを例に挙げ、「与党と野党で一致している部分もある」と語った。
労働政策に大きな影響も与えかねない来る参院選。佐々木弁護士は会見の最後に、「(回答結果が)投票先を決める一助となればと考えている」と語った。

榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。


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