
購入者からすれば、買った自販機に飲料後の缶を処分する設備が十分でないため、「やむを得ず」なのかもしれない。そうだとしても、自販機で購入した缶を適切に処分しないことは、環境を汚す行為であり、許されることではない。
日本自動販売システム機械工業会によれば、全国における飲料自販機の設置台数は219万9600万台(2024年12月末時点)。このうち、缶ボトルの清涼飲料用は197万6200台となっている。コンビニの店舗数の約40倍で、この10年、普及台数はほぼ横ばいだ。
なぜ空き缶があふれてしまうのか
買った人がその場で処分すれば、本来なら、空き缶等があふれることはない。そもそも、飲料自販機に併設されている箱の正式名称は「リサイクルボックス」であり、ゴミ箱ではない。飲料の購入者以外の誰かが、空き缶以外の廃棄物を押し込んでいることも多い。それが回収ボックスの容量超過につながっていると考えられる。
都内某ビッグイベント後の惨状(弁護士JPニュース)
特に観光地や繁華街など、大量に人が押し寄せる場所ほどゴミ問題が頻発し、自販機周辺などでも回収ボックスがあふれ、路上などにゴミが山積する事例が多数報告されている。
ポイ捨て対策に自治体は条例を制定
こうした状況を憂慮し、ごみの散乱防止や再資源化を促進する名目などで、条例を制定している自治体も珍しくない。たとえば、東京都では中央区が「廃棄物の処理及び再利用に関する条例」を制定している。その目的は空き缶の散乱防止と資源の再利用促進だ。
自動販売機の飲料販売者または管理者に、回収容器の設置及び空き缶等の再利用を義務づけ、自動販売機ごとに設置の届け出を義務づけている。
横浜市は「空き缶等及び吸い殻等の散乱の防止等に関する条例」を制定。その目的は「横浜市、事業者及び市民等の責務を明らかにするとともに、空き缶等及び吸い殻等の投棄の禁止、屋外の公共の場所における喫煙の禁止、空き缶等の回収及び資源化その他の必要な事項を定めることにより、清潔で安全な街をつくり、かつ、資源の有効な利用を促進し、もって快適な都市環境を確保すること」となっている。
国内外から観光客が多数訪れる京都市は「美化推進条例」で自販機設置事業者に自販機の設置場所に加え、回収箱の設置場所や管理の方法等の届け出を義務づけ、回収箱の併設を求めている。届出義務違反に対しては罰金(刑事罰)を科している。
京都市の条例が施行されたのは1997年。しかし、これまでに罰則は一度も適用されたことがないという。
その理由は「ごみを押し込まれ、やむを得ず(回収ボックスを)撤去しているケースが多い」ことだという。市も、あまりにひどいゴミの散乱状況を鑑み、黙認しているのだ。
同市の場合にはオーバーツリーズムも絡んでくるが、それにしてもごみ問題は罰金などでは本当に効果を期待できないのか。
ポイ捨て等に過料を科した自治体はどうなったのか
千葉・習志野市は4月1日から「ポイ捨て等及び生活環境が損なわれる給餌(きゅうじ)の防止に関する条例」を施行。動物への給餌、そして容器飲料を自販機で販売する者の責務として、回収容器の設置とその適正な管理が必要とし、ペットボトルや缶、瓶などのポイ捨てを禁じている。
習志野市もその実効性を高めるため、ポイ捨て等に対し、過料(※)を科している。具体的には、同市が指定している重点区域内でパトロールする市職員らの指導に従わない場合、過料2000円を徴収する。
※行政上の秩序を維持するため、軽微な法律・条例違反に対し科される金銭的な制裁。刑罰と異なり要件をみたせば直ちに適用され、故意・過失がない場合も科される(秩序罰)。
施行から2か月以上。その効果はどうなのか。習志野市に状況を確認すると、次のような回答があった。
「まず、過料ですが対象は市民、来訪者のみです。自販機設置業者への罰則はありません。発見、監視の方法については、指導員がパトロールを行っています。
条例施行後の指導件数は5月末時点で、ポイ捨て等が1件、生活環境が損なわれる給餌が5件で、生活環境が損なわれる給餌の5件が過料の対象になっています。
条例施行後、大きな変化はありませんが、状況把握のためパトロールを行っております。今後も引き続き、清潔できれいなまちづくりに努め、ポイ捨て防止等の周知啓発に努めてまいります」
補足すると、ポイ捨て等1件については、一度指導して、拾えば過料は科されない。上記のケースでは指導により、当該者が拾ったため、過料の対象にはならなかったという。
同市ではベストを着用した指導員が重点区域を毎日パトロール。街の美化に目を光らせている。
自販機提供企業はゴミ回収のガイドラインも
自販機の廃棄物処理については、自動販売機提供企業などにより作成されたガイドラインもある。清涼飲料自販機協議会の「自販機自主ガイドライン」には、自販機販売管理者が消費者の利便性および安全性向上を図るための自主的な取り組みについて細かく記載されている。
たとえば、自販機設置の際の転倒防止等の安全確保や、キャッシュレス機能などの自販機の利便性向上、使用済み自販機の適正な処分などだ。
その中には、散乱対策とリサイクルのための「リサイクルボックス設置と空き容器の回収・処理」も明記されている。
具体的には「回収頻度と回収量を考慮し、リサイクルボックスからペットボトル等の空容器が溢れたり、周囲に散乱したりしないよう、十分な収容容積をもったものとする。
リサイクルボックスに異物が混入することを防止するため、自販機販売管理者等が推奨したリサイクルボックスを設置することとする。空容器以外の投入を禁止する旨の表示をすること。取り出し蓋はフックを取り付けるなど、安易に開けられない対策を施したものとする」となっている。
これが厳密に守られていれば、自販機周辺におけるごみ問題は、基本的には起こらないはずだ。
猛暑の中、道中で自販機で買った冷えた飲料を一気に飲み干したものの、回収ボックスがあふれている。
どこかで誰かがルールを逸脱する。それがごみ問題につながっていく。そのことを誰もが意識するようにならなければ、どこかで空き缶やペットボトルが行き場を失うことになる。