「TOKIO」の国分太一氏にコンプライアンス上の問題行為が複数あったとして、TOKIOが出演する人気番組『ザ!鉄腕!DASH!!』を放送する日本テレビは6月20日、同番組からの国分氏の降板を発表し、翌日に緊急会見を開いた。
しかし会見で日テレの福田博之社長は、問題行為の詳細について「プライバシー保護のためお答えできません」との回答に終始。
駆けつけた記者の一部からは不満の声も飛んだ。
中居正広氏と女性とのトラブルに端を発した問題では、フジテレビが初動を大きく誤ったことでスポンサーの大量撤退を招いたことが記憶に新しい。一方の日テレは、「まともに答えなかった」との批判はあるが、現時点でスポンサー撤退などの動きは出ていない。
日テレとフジの会見の明暗を分けた“決定的な違い”は何だったのか。

日テレとフジの“違い”

企業法務に詳しい元特捜検事の日笠真木哉弁護士は、日テレの会見に対して「企業として、あの時点でできることのベストは尽くしたと思う」と評価。その上で、フジテレビとの“差”を次のように指摘する。
「企業はトラブルが起きた際、レピュテーションリスクを減らすために会見を行います。特に日テレやフジテレビは上場企業で、しかも報道機関でもありますから、視聴者や株主、取引先などのステークホルダーの手前、会見を開く必要性があった。
会見で求められる内容は、犯罪行為ですでに捜査が入っているような場合と、今回の中居氏や国分氏のトラブルのように事実が明らかにならないような場合では異なりますが、いずれにしてもスピード感を持って対応していることはステークホルダーに示す必要があります。
ただ、今回のようなトラブルの場合、関係者のプライバシー保護はもちろん、会社にも守秘義務があるので軽率にすべてを話すわけにはいきません。その中で、日テレは責任ある立場の人が真っ先に矢面に立って、速やかに対応を行ったことを報告し、しかし詳細については話せない点を繰り返し謝罪した。
一方のフジテレビは、前例がなく初動が後手にまわったこともありますが、何より当時実権を握っていた日枝久氏が最後まで表に出てこなかった。“真摯な対応”を求めていた視聴者はもちろん、スポンサーも納得できず、CMの大量撤退につながったのではないでしょうか」

すべて話しても「叩かれたのでは」

日テレの記者会見を日笠弁護士はこう評価するが、前述したようにSNSやメディアの論調は手厳しい。
会見中には記者から「臆測を呼ぶ」「日テレには常識がないんですか」と声が上がり、産経デジタルが運営するエンタメニュースサイトzakII(ザクツー)は「史上最悪の会見」と見出しにつけて取り上げた。

こうした声に日笠弁護士は「事案の内容を30%話したら許してくれたのか、50%話せばよかったのか」と首をかしげる。
「守秘義務があるため、どうしても“全部”は話せない。その制約がある中で、どこまで話せば“叩かれなかった”でしょうか。
たらればの話なので比較のしようがなく、あくまで私の想像ですが、話せば話すほどきっと聞き手には“物足りなさ”が残って、『もっと話すべきだ』と叩かれただろうと思います」

問われている“聞き手”の姿勢

昨今、当事者個人による会見が少なくなり、企業が記者会見で「詳細な説明を避ける」ようになった要因には、記者やSNSの反応など会見の“聞き手”側の姿勢が少なからず影響していると日笠弁護士は推測する。
「何かトラブルを起こした人に執拗に会見を求めているのは、まるで誰かをスケープゴート(いけにえ)にあげて、叩く材料を探して構えているように見えます。実際、企業からすれば何を言っても叩かれる状態で、会見を開くリスクが大きすぎます。
何を言っても叩かれるのであれば、『具体的なことは伏せて話さない方が関係者のためにいい』という判断になるのは、良い悪いの問題ではなく“自然”だと思います」
その上で日笠弁護士は、特捜検事として政治家や経営者の取り調べをしてきた自身の経験から「正直に話した人に対しては褒めて、できれば見返りやメリットも与える必要がある」と語る。
「たとえば刑事事件では、犯した罪を認め反省し、正直にすべてを話して頭を下げている人には、酌量の余地があるとして、そうじゃない人と比べて刑を軽くするわけです。
でも、正直に話しても叩かれる、正直者がバカを見る社会であれば、誰も正直に話さなくなるのが普通ですよ。今、社会がそうなりつつあるのではないでしょうか。実際には何があったのか、何がどう悪いのか、酌量の余地はあるのか……感情的にならず冷静に“聞く姿勢”が、社会の側にも求められていると思います」

今後も記者会見“減少”か

日笠弁護士はしばらくの間、記者会見自体が減少していくと見ている。
「日テレやフジテレビのような上場企業は、ステークホルダーに対しての責任があるため会見を開きますが、個人や中小企業はますます会見を開かなくなっていくと思います。
国分氏も会見はやらないでしょうね。
私がもし国分氏の弁護士でも、会見はしなくていいと言いますから。会見を開かないことでもしウソやデマが広がったら、それに対して一つ一つ法的措置を取る。それが今、当事者が取り得る作戦です。
そうしているうちにSNSもマスコミも『正直者を叩いていては、本当に知りたい情報が何も出てこなくなってしまう』ということにだんだんと気付いてくるのではないでしょうか」


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