京都市は調査を行い、「差別的行為と受け止められかねない」とゲストハウスに注意したが、行政処分などは下されなかった。
ゲストハウスの行為は本当に「差別」にあたるのだろうか。また、違法性はないのか。弁護士に聞いた。
旅館業法は宿泊拒否に「正当な理由」を求めるが…
そもそも旅館業法では、正当な理由がない限り、客の宿泊を拒否することができないと定められている(5条)。また報道によると、京都市は、客が「他国の紛争において戦争犯罪に関与している可能性がある軍関係者であること」は宿泊を拒否できる「正当な理由」にあたらない、と回答している。
ゲストハウスも宿泊拒否ができないことを認識しており、署名は他の客やスタッフの心理的な不安を軽減することを目的にした、あくまで形式的なものであるという。
当初、署名は任意であることが明示されていなかった。京都市から照会を受けた厚労省は「あたかも署名がなければ宿泊を拒否されると誤認される形で誓約を求める行為は不当な対応」と回答していた。
しかし、現在は、ゲストハウス側の判断により「拒否しても宿泊は可能」という旨の注釈が誓約書内に記されている。
Even though our authorities abandon respect for international law, we will remain committed to upholding it in our lives.海外の事情や差別問題に詳しい杉山大介弁護士も「署名が任意であるなら『拒否』にはあたらず、旅館業法には抵触しない」と答える。
Because we are presently subject to a yet nonexistent entity that, in due course, will be constituted as a higher order transcending all nation-states. pic.twitter.com/mtlnBjPK5e
WIND VILLA (@WindVilla) June 22, 2025
「また、差別的な取り扱いとして違法ではないかという点についても、実際に戦争犯罪に関与している客や不関与を誓約することができない客を宿泊させることには、下記のようにゲストハウス特有の事情からすると、相応の配慮を宿泊施設提供側が考慮しなければならなくなるのは確かです。
ゲストハウスは就寝するところを含めて共用スペースが多く、たとえば戦争犯罪に関与すると評価できるレベルで戦争に関わっているイスラエル人の客とイスラム諸国の客を同時に宿泊させてしまうと、実際にトラブルが起こる可能性があるのは否めません。
そういったリスクを考慮すれば、私は仮に誓約書への署名を必須としたとしても、署名すればイスラエル人でも宿泊できるのであれば、旅館業法に違反しておらず、また差別的な取り扱いとして違法にもならないと考えます」(杉山弁護士)
「韓国人・中国人お断り」との違いは?
昨年7月には、大久保(東京都・新宿区)のイタリアンバル店が入り口に「韓国人・中国人お断り」などと掲示し、その写真をSNS上に投稿した行為が物議をかもした。関連記事:「韓国人・中国人おことわり」大久保・飲食店の“差別的”SNS投稿が物議 弁護士が指摘する明確な“違法性”とは?
憲法14条からは「人種に基づく差別の禁止」が導かれるため、国籍や人種を理由とした入店拒否は違法だ。
さらに、イタリアンバル店の掲示は、日本が批准している人種差別撤廃条約(「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」)にも抵触している。
表面上、今回のゲストハウスの行為にも、イタリアンバル店と同様の問題があるように見受けられるかもしれない。
しかし、杉山弁護士は「上記に解説した通り、そもそも国籍や人種を理由とした拒否になってないと私は評価しているので、違法な差別になる問題ではないと考えます」と答える。イタリアンバル店の場合、「中国」「韓国」という国籍が、入店を断る理由と明示されている。一方で、ゲストハウスが求めているのは「戦争犯罪に関与していないこと」であり、その条件をクリアすれば、イスラエル人やロシア人なども許容される。
さらに、イスラエルやロシアについては、実際に国際機関などにおいて戦争犯罪などの問題が指摘された国であるという客観的な理由がある。そして先述したようにゲストハウスという施設としての特性上、トラブルが起こるリスクもある。
上記を考慮すると、国籍がイスラエルやロシアなどである客に宣誓書への署名を求める行為は合理的に説明することが可能であり、理不尽な差別と認定でき得るイタリアンバル店の行為とは全く別物であるといえる。
外国人の入店などを制限したい場合には
近年の日本ではインバウンド(外国人観光客の訪日)が増加の一途をたどっている。また、不安定な国際情勢をふまえると、外国人の客同士でトラブルが起こるリスクを無視することはできない。京都のゲストハウスに限らず、宿泊施設や飲食店などの経営者が、トラブルを回避するため特定の国の出身者に対して特別な対応や制限を設けたいと考えることはあるだろう。
しかし、大久保のイタリアンバル店のように「国籍」や「人種」だけを理由に制限を課すことは差別にあたり、違法行為になる。
「イスラエル人やロシア人は暴力行為をするから」などという理由で店の出入りを禁止する場合も、暴力を振るわないイスラエル人やロシア人までをも「国籍」で一括りにして排除しているため、差別にあたる。
その一方で、施設の性質やサービスの内容に応じた制限・対処を行う必要性が存在していることは無視できない。たとえば、飲食店には、あらゆる言語に対応したサービスを行う義務があるわけではない。そのため、日本語や英語を解さない客の利用を拒否することは違法ではないのだ。
しかし、「特定の外国人だけを標的にする心情をそのまま露呈させるような、粗雑な行動はやめましょう」と杉山弁護士は注意を促す。
違法か合法かを分けるのは、単に外国人に対して署名を求めたり入店を断ったりしているかという表面上の行為ではなく、その行為を正当化するに足る「理由」の有無だ。
「実際に問題やリスクが存在しており、規制や特殊な対応が必要な場合には、それなりに説明が付くやり方で行えるはずです。
たとえば、今回のゲストハウスはちゃんと理由を説明できる形で対応しているので、問題ないと私は考えます」(杉山弁護士)