AV新法施行3年も…“違法AV”なぜ増加? ルール守る「適格AV業者」の苦境と「アングラ業者」暗躍の誤算
AV新法の交付・施行から3年。法律を順守するメーカーやプロダクションが厳しい規制に苦しむ一方で、違法に利益を上げ続ける人たちもいる。

前編(AV新法施行3年「時間と労力は、以前の4~5倍に」…疲弊する“現場の声”に透ける「問題点」と「改正」の必要性)に続き、後編では出演者を守るための新法が現実にどのように機能し、またどのような課題を生じさせているのか…。現場の声に耳を向け、その改善点をあぶりだす。(ライター・中山美里)

繁栄するアングラ事業者と被害に遭う女性たち

「施行直後から、個人撮影の撮影者や無審査の業者の大幅な増加が目につくようになり、われわれCCAV事業者以外の逮捕者が多く見受けられました。
AV女優になることを望んでいる女性に出演してもらうのがわれわれCCAV事業者ですが、そうではなく、AV女優になることを望んでいない女性を巧妙な手口で撮影する、悪質な違法業者が増えていることを実感します」
こう話すのは一般社団法人日本プロダクション協会(以下、JPG)の理事だ。
また、AVや性風俗など性の仕事に対する差別や偏見をなくしたいと活動する一般社団法人sienteの相談窓口には、個人撮影等での被害相談が頻繁に持ち込まれるという。
実際に相談を受けたsienteのスタッフの一人はその実情を次のように明かす。
「撮影を希望する女性は、相手が違法な業者や個人であるという認識がないままに撮影をしてしまうことがあります。主にSNSのダイレクトメールやLINEでやりとりをするため、相手の本名やどこで作品が配信されるのかを知らないまま撮影して、配信されてしまうことも多いです。
なかには事前に聞いていた話と違う内容で撮影が行われ、不同意性交等罪に当たると考えられるケースもあります。
そういった撮影であっても、相手がアカウントを消去すると連絡を取る方法が全くなくなり、被害を訴えることができなくなってしまうことも…。相談に乗っているこちらも悔しく、つらい気持ちになります」
sienteでは、SNS等を使って違法な業者や個人撮影からの撮影には応じないようにと注意喚起を行っている。だが、周知はまだ足りていないと話す。
「いまだに業者のなかには『メイクで変わるし、AIもあるのでバレない』『個人間の撮影だからすぐ撮影できる』という人がいるんですよね。
新法の網が個人撮影や同人事業者にもかかると知らせずに、女性を勧誘しているんです」
さらには、著作権違法サイトの問題もある。
現在、適格AV業界では、新法と業界の自主規制ルールの2方向から、女優は作品の取り下げの申し出をすることができる。
メーカーがFANZAなど正規の流通先から作品の取り下げをしても、海外の著作権違法サイト等には残ってしまう場合がある。すると、かえってレア価値がついてしまう現象も起きてしまっているのだ。
残念ながら地下化が進んでいるといわざるを得ない状況だろう。

順法意識をもつAV事業者がAV新法改正に望むこと

AV新法に関して、業界関係者はどのような課題や改善点があると考えているのか。前出のJPG理事は次のように指摘する。
「課題は非常に多いです。まず『AV新法』という通称や『AV出演被害防止・救済法』といった略称ではなく、条文の性行為映像制作物という言葉を使い、たとえば『性行為映像制作に関わる法律』という略称に変更を行ったほうが、現在被害に遭っている女性を減らせるのではないでしょうか。
略称や通称は変更していただけると、より本当の被害が生まれているところへの効果があると思います。
われわれの適格AVの出演に関しては、出演者の意思確認を徹底して、法律も順守しています。法律に触れた行為をしているのは、個人撮影、違法業者、海外サーバーなど、一般的にAVだと考えられている枠外の存在なんです」
そのほか、いわゆる1か月・4か月ルール(※)に関しても再検討してほしいと考えている。
※契約から1か月間は撮影が禁止され、撮影終了後も4か月間は制作物の公表を禁じる規制
「新人女優の意思や人権を守るという点においては説明義務も必要ですし、一定の熟考期間が置かれるべきでしょう。

しかし、ベテラン女優に関しては法律の説明義務が免除されたり、契約から販売までの期間が短縮されたりと、現実に即した緩和が必要だと感じています。
現在、‟AV”に対する規制が厳しすぎるために、規制が緩いからという理由で悪徳業者や個人撮影を選んでしまう出演者が出てきてしまっています。‟AV”に対する規制を緩和することが、悪徳業者を減らし、出演者を真に守ることにもつながるのではないでしょうか」

業界団体にも動き

新法成立後、業界団体の編成にも変化がある。
「NPO法人適正映像事業者連合会(CCBU)は、メーカーの団体であった知的財産振興協会(IPPA)にプロダクションにも参加してもらうことを機に、団体の名称を変更して誕生しました。メーカー、プロダクションが協力し、法律と倫理(自主規制)を順守するAV事業者が、安心安全に業務を継続していける環境を整備することを目的としています」(CCBU事務局)
この事業者らが制作するAVは「適格AV」と呼ばれ、法律と自主規制ルールを守り、AV作品は外部の審査団体で審査を受けた上で発売される。

出演者・メーカー・プロダクションの連携を表すCCAVマーク。映像内に表示される(CCBUウェブサイトより)

同団体が、現在行っている事業は多岐にわたる。たとえば、次のようなことだ。
  • コピー品や海賊版のパトロールと対策
  • 業界の自主規制ルールによる「作品販売等停止申請」窓口の運営
    →出演したAV作品の停止を希望する場合は申請するとAV新法ではなく、業界のルールでも販売を停止できる
  • 登録したメーカー・プロダクション・出演者だけが適格AVに出演できる「CCBU事業者登録証」の登録と発行
  • 性感染症予防への取り組みの一環として「安全基準認定医療機関」の制定など
注目したいのが、8月にテスト運用が開始され、ゆくゆくは本運用される「CCBU事業者登録証」だ。正式に動き出せば、悪質事業者による被害防止に役立つ仕組みとなり得る。
「この取り組みは、AV制作に携わる事業者が『法と倫理を守る事業者なのか』を提示できるようにするもの。たとえば、出演者の方が出演メーカーを選定する際に『登録証』を確認することで、悪質な違法事業者を避けることができます」
また、政治や行政にAV業界の声や実態を届けることも、CCBUの目的のひとつであるという。
AV新法によって、法律を守らない悪質な同人事業者や無修正事業者が検挙された。
被害を受けた出演者の救済につながったものの、法律と自主規制ルールを守っている事業者にとっては、さまざまな不利益があるためだ。
「今年3月には、内閣府へ『AV出演被害防止・救済法の改正についての要請』を行いました。CCBUが実施したアンケートの回答結果から、各事業者が感じているAV新法に対する具体的な問題点を『改正の要望』としてまとめ、改正にご尽力いただけるよう、内閣府へ報告と要請を行ったものです。
真面目に取り組んでいる事業者に発生している不利益が、少しでも改善されるように改正されることを願っています」
法律を順守する事業者が先導する形で、‟AV業界”健全化の動きを見せるが、それに対し、他の事業者はどのように動いていくのか。さらなる地下へ潜るのか、それとも法律順守をめざすのか…。

いまだ存在する「AV=悪」というイメージをもつ人

最後にある女優の声を紹介する。
「現在は多様性が尊重される時代。AVに関しても、出演料が欲しいというだけではなく、さまざまな動機や目的をもって出演をする人がいるということが周知されてほしいです。
『AV=悪』というイメージをもつ人はまだいます。数ある仕事のひとつにすぎないのですけどね。
顔バレや身バレといったことでAV出演者が差別されることがない、‟職業に貴賤(きせん)なし”という言葉が現実のものとなって、AVが負い目を感じることなくできる仕事になればいいのにと思っています」


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