男は児童らを威嚇した後も、「なんか文句があるとや、こっち来いや」と罵声を浴びせ続けたという。
幸い、児童らは全員その場から逃げることができ、怪我はなかったとのことだ。
類似事例、各地で発生
児童の安全を巡っては、2018年6月、同年5月の新潟市児童殺害事件を契機に政府が「登下校防犯プラン」を策定した。このとき、政府は「地域の目」の減少による通学路の見守り空白を問題視。
また、2019年版の警察白書によると、道路上における身体犯(※)によって、13歳未満の子どもが被害を受けた事例の認知件数は、ほぼ横ばいな状態が続いたとして、「不審者情報等の共有と迅速対応」「通学路の合同点検の徹底及び環境の整備・改善」などの施策を進めてきた。
※ 殺人や暴行など、人の生命・身体に対する侵害を内容とするもの
ただ、依然として日々の暮らしのなかで、「ガオーおじさん」のような“不審者情報”を各地域のニュースや自治体、都道府県警の発表を通じて見聞きすることも少なくないのではないだろうか。
実際、昨年1月から今年6月にかけても、各地で「ガオーおじさん」との類似事例が発生。下記はその一部である。
- ①通行中の小学生男児が、見知らぬ男から暴言を言われ、自転車を蹴られる
- ②接触・暴行はなかったものの、70歳代くらいの不審者が「悪い子はいないか」「捕まえて殺してやる」「とっとと全員死ね」と大声で暴言を吐かれる
- ③自宅まで2人組に350メートルぐらい追いかけられた
- ④児童が、男に「こっちにおいで」等と声をかけられる
「ガオーおじさん」に生じ得る“重たい法的責任”とは
では、「ガオーおじさん」を含めて、これらの一見“奇行”ともとれる、不審者による行為には、どのような法的責任が生じ得るのだろうか。刑事事件に詳しい雨宮知希弁護士に聞いた。まず「ガオーおじさん」の事例では「暴行罪や傷害罪、脅迫罪が成立する可能性がある」(雨宮弁護士)という。
「『ガオーおじさん』の場合、実際に児童の足を蹴っていますから、『暴行』に該当するでしょう。暴行罪(刑法208条)は、怪我の有無にかかわらず『暴行』を加えた時点で成立します」(同前)
暴行罪の法定刑は「2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」と定められており、拘禁刑を受ける可能性を考えれば、決して軽い罪とは言えない。
「また、今回は幸いにも児童に怪我はなかったということですが、もし児童がかすり傷等を負った場合には、『傷害罪』(刑法204条)が適用されます。
ほかにも、『なんか文句があるとや、こっち来いや』と児童に罵声を浴びせたことが、『生命、身体、自由、名誉、財産に対する害悪の告知』と解釈される場合には、脅迫罪(刑法222条)が成立する可能性もあるでしょう。
脅迫罪で処罰される場合には、法定刑は2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金となります」(同前)
“不審者”でも、法的にはグレーゾーンの可能性も…
では、上述した①から④までの“不審者”の場合は、どのような法的責任が生じ得るのだろうか。「①のケース(通行中の小学生男児が、見知らぬ男から暴言を言われ、自転車を蹴られる)の場合、自転車を蹴る行為も間接的に身体に危険を及ぼす行為と判断され得るので、暴行罪が成立する可能性があります。
さらに、自転車が壊れてしまった場合は器物損壊罪(刑法261条)に問われることも考えられますし、暴言の内容によっては脅迫罪が成立することも考えられます」(雨宮弁護士)
また②の「接触・暴行はなかったものの、不審者から大声で暴言を吐かれる」という事例の場合では「児童が強い恐怖を感じたかどうか」が処罰を分けるポイントになるという。
「この場合も脅迫罪が成立する可能性があります。ただし、『害悪の告知』が明確でない場合には『軽犯罪法違反』が適用されることも多いです」(同前)
③の「自宅まで2人組に350メートルぐらい追いかけられた」ケースについても、雨宮弁護士は「つきまとい行為が執拗(しつよう)な場合には、法的責任が生じる余地は十分にある」と説明。
各自治体の迷惑防止条例に違反し得るほか、未遂的な暴行罪・脅迫罪に当たる場合も考えられるという。
一方④の「児童が、男に『こっちにおいで』等と声をかけられた」という事例については「こうした事象のみでは犯罪にならないことが多いですが、法的に罪が成立するかはグレーゾーンです」としつつ、「誘拐未遂罪(刑法224条)を視野に入れて警察が捜査をする可能性はあります」(同前)と解説した。
「ガオーおじさん」らの現場にもし遭遇したら…できることとは?
「ガオーおじさん」や類似事例を目撃した場合に、一般市民にできることは何があるのだろうか。雨宮弁護士は「まずは、すぐに110番通報をし、周囲の安全を確保し、児童を避難させつつ、できれば複数人で対応し、証人を確保することが重要です。また、映像や音声記録があれば、後に有利となるでしょう」と話し、以下のように続けた。
「他人が攻撃を受けている場合、その人を守るための『他人防衛』は法的に認められています。
また、一般市民でも、犯罪の現場を目撃した場合は現行犯逮捕が可能です。たとえば、男が児童を蹴った瞬間を目撃した場合、その場で取り押さえて警察に引き渡すことは法律上認められています。
ですが、この場合も、取り押さえる際の有形力の行使は必要最小限にとどめることが原則です」(雨宮弁護士)