
ところが、相場に左右されず、なぜか安めの家賃設定の物件があったりする。「事故物件」は聞いたことがあるだろう。もうひとつ、「定期借家」もねらい目だ。
フリーライターの日向咲嗣氏が、こうした訳アリ物件について解説し、相場に左右されないお得物件の探し方をガイドする。
※この記事はフリーライター・日向咲嗣氏の書籍『家賃はいますぐ下げれます』(三五館シンシャ)より一部抜粋・再構成しています。
「定期借家」がおススメなワケ
賃貸サイトの検索結果一覧リストを見ていると、ときどき明らかに周辺相場よりも安い物件が目につく。なぜ安いのかと詳しく見てみると「定期借家」という特殊な契約形態だったりする。定期借家とは、ひと言で言うと「更新のない賃貸物件」のことで、通常の賃貸契約のようにそのつど契約を更新して住み続けることができないのが大きな特徴である。
旧来の借地借家法において、借家人は大家から立ち退きを求められても、それを拒否して居座ることができた。家賃さえ払っていれば、いくらでも長く住み続けることができたのである。
部屋を貸している大家さんからすれば、立ち退いてもらうためには、多額の立ち退き料を払わねばならず、「他人に家を貸すと戻ってこない」と感じることが多かった。
そこで、契約期間が終了したら自動的に退去となるようにしたのが定期借家である。原則として更新はなし(双方が合意すれば再契約は可能)なので、大家さんにとっては、いざというときに立ち退いてくれない心配がまったくゼロ。
通常の賃貸契約を、長期的に雇用されて解雇が困難な正社員だとすると、定期借家は、いわば契約社員や派遣社員のようなもの。つまり、期間満了時に特別な配慮を必要とせず、契約終了できるのが大きな違いである。
通常の賃貸との違い
借家人からすれば、定期借家契約の物件に入居してしまうと、自分の意思で長く住み続けることができないという決定的なデメリットを背負う。その代わりに、通常の賃貸契約の物件に比べて家賃が3割以上は安く設定されていて、礼金なしの物件が多いのが魅力である。
定期借家を検討すべき人
損するように思える定期借家だが、契約内容によっては、定期借家の物件も大いに検討すべきである。というのも、いまや家賃が上がり続けるとは限らず、「長く住めば住むほどソン」といえる時代だからだ。
だったら、最初から「何年以上は住まない」とキッパリ決めてその期間だけ定期借家で住み、次々とほかへ引っ越していったほうが断然オトク。家賃が確実に安く、礼金なしなら、頻繁に引っ越しても十分にモトは取れるだろう。
注意したいのは契約期間。定期借家においては、契約期間は通常の賃貸契約のように2年とは限らず、5年とか10年と長くしているケースもある。毎年のように家賃が安くなるなかで、 5年も住み続けるとなると、最初の家賃が多少安いくらいでは到底ワリにあわないかもしれない。
また、定期借家は原則として中途解約ができないため、5年契約なのに、1年で出ていくと、残り4年間の家賃を全額請求されかねない。
逆に、契約期間を2~3カ月と、極端に短くしている場合、2~3カ月ごとに更新ではなく、再契約を交わす形にはなるのだろうが、家賃を滞納するようなら再契約はしない、つまり即出て行ってくれということが簡単にできてしまうことも頭に入れておきたい。
仲介してくれる不動産屋に、そういったデメリットを十分に説明してもらったうえで、それでもなおオトクと判断したのなら、定期借家の物件を選択してもいいのかもしれない。
驚きのワケアリ物件活用法
究極のワケアリと言えば、いわゆる「事故物件」を思い浮かべる人が多いだろう。居住者が部屋で自殺した、あるいは亡くなって発見が遅れた、殺人事件現場になったなど、縁起でもない部屋は、普通に貸そうとしても、なかなか借手がつかないため、それなりに下げた家賃で入居者を募集するしかない。
ある賃貸サイトで「2年間賃料1万円ダウン」をうたった物件を発見した。その後に小さく「※告知事項あり」としていたので、掲載している業者に電話して聞くと、「お亡くなりになられた物件です」とのこと。
免許を持った宅建業者は、不幸な事情も重要事項説明の一つとして必ず客に告知しなければならないため、それを隠して募集することはできないわけだ。
さすがに「殺人事件が起きた現場」は選択不可だろうが、病死していた程度なら、「気にならない」という人もなかにはいるかもしれない。
なにしろ、その痕跡が一切残らないよう改装されているため、精神的な瑕疵(かし)を除いた実質的なデメリットはほぼゼロなのだから、つい「安さにつられて」という気持ちにならないとも限らない。
公共住宅には‟訳アリ物件”が多い
実は、この手の事故物件がカンタンに見つかるのが、公共住宅である。東京都の都営住宅を例に取ると、通常の定期募集とは別に、「孤独死で発見が遅れた住宅」 「自殺等があった住戸」を意味する「特定物件」の募集が定期的に行われている。
その募集情報を見ると、都心の臨海地域で駅まで徒歩数分の3DKの物件が通常、家賃8万 4000円(このままでも安い!)のところが、なんとその半額の4万2000円だったりするから驚き。
この特定物件が、通常の募集とは大きく異なるのは、原則として先着順であること。つまり数十倍とか数百倍の抽選倍率を突破しなくても、一定の申込資格を満たしていさえすれば、だれでも入居できるのである。
東京都の特定物件は、家賃軽減期間が原則として3年間。その期間中、もともと激安の家賃がさらに半額になるため、入居できれば間違いなく激ドクである。
かつて「公団」と呼ばれていた、UR都市再生機構が運営している賃貸住宅でも、入居から1~3年間の期間限定ではあるが、事故物件のため家賃が半額になる「特別募集住宅」があり、こちらももちろん先着順。
いずれもウェブサイトに掲載された情報はすぐに古くなるため、興味のある人は専用窓口を調べ、そちらに直接問い合わせするといいかもしれない。
<日向咲嗣 ひゅうが・さくじ>
1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経て、フリーライターに。「転職」「独立」「副業」「失業」問題 など職業生活全般をテーマに著作多数。失業当事者に寄り添っての執筆活動が評価され、2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。本書では、これまで不動産のプロたちが口をつぐんできた聖域、賃貸住宅の家賃に切り込んでいる。