14日、イーロン・マスク氏はAIチャットボット「Grok」に新機能「コンパニオンモード」を追加したことを自身のXアカウントで発表。同時に「ゴスロリ」ファッションで金髪ツインテールの美少女コンパニオン「Ani」も登場し、X上で話題を呼んだ。

しかしAniには「好感度を上げると脱衣する」設定が搭載されていたことから、性的に過ぎる・女性蔑視であるとの批判も招いた。また、2014年にほうきを持つ女性(メイド)型ロボットのイラストを学会誌の表紙にしたことで批判を浴びた「人工知能学会」の事件を思い出すとの声もある。今回はこれまで多々起こってきた「美少女キャラ」のネット炎上事件から、3つのケースを選んで振り返ってみよう。
※この記事は小林直樹氏の著書『ネット炎上事例300 なぜ企業や個人は失敗を繰り返すのか?』(2025年、日経BP)より一部抜粋・再構成しています。

性差別的と批判された「温泉むすめ」

●どんなプロジェクトだったか?
「温泉むすめ」は、2016年にエンターテインメント事業を手掛けるエンバウンド(東京都・豊島区)が立ち上げた地域活性化プロジェクトである。日本全国の温泉地を擬人化した美少女キャラクターを活用し、地域の魅力を国内外に発信することを目指した。
観光庁が後援し、約120の温泉地がキャラクター化されている。プロジェクトは地域振興に特化し、温泉地への来訪を促す工夫がなされている。
2021年11月、一般社団法人「Colabo」代表の仁藤夢乃が、Twitter(当時)上でキャラクター設定に言及したことが議論の発端となった。
●ネットユーザーはどう受け止めたか?
ネット上では賛否が割れた。キャラクター設定として、「スカートめくりを好む」「夜這(ば)いを期待する」といった記述があったことから、「性差別」「女性蔑視」「温泉地の振興にふさわしくない」と批判する声が上がった。
一方、キャラクターのファン層や「表現の自由」を重視する層からの評価はおおむね上々だった。集客効果を実感した温泉関係者からは「#温泉むすめありがとう」のハッシュタグで感謝を示す動きもあった。

●企画側はどう対応したか?
エンバウンドは2021年11月、公式サイトに記載されていたキャラクター設定を修正。「スカートめくり」「夜這い」といった文言を削除し、問題視されていた表現を改めた。また、公式サイトのサポーター企業一覧から、観光庁を除く企業名が削除された。
●この騒動から得られる教訓は?
温泉むすめを巡る騒動は、公共性が高いプロジェクトにおける表現の扱いの難しさを物語る事例である。いわゆる「萌え」のカルチャーは一定程度支持されているものの、あまり好意的にとらえていない層も多く、そこへ性的な描写やキャラクター設定の不自然さが加わると一気に批判が向きやすい。
特に国や自治体が絡む公的なプロジェクトの場合は、社会的な影響力を考慮したチェックが必要になる。

松戸市の「ご当地Vチューバー」にフェミ議連が抗議

●どんな啓発動画だったか?
2021年7月、千葉県警はYouTube公式チャンネルで交通安全啓発動画を公開した。千葉県松戸市のご当地Vチューバー、戸定梨香(とじょうりんか)を起用。戸定はセーラー服風の衣装で登場し、ヘルメット着用やライト点灯の重要性を呼びかけた。
戸定のキャラクターは松戸市を拠点に活動するプロデュース会社Art Stone Entertainmentが運営。動画企画は、松戸警察署と松戸東警察署が同事務所と連携し、新型コロナ禍で対面の交通安全教室が難しい中、若者への訴求を狙った。
●ネットユーザーはどう受け止めたか?
動画公開後の8月、全国フェミニスト議連が抗議文を提出したことで波紋が広がった。議連は、戸定の短いスカートやへそ出し、胸の揺れなどを問題視し、「性的対象物」として描かれていると批判。
公的機関の啓発に不適切だとした。
これに対し、戸定のファンを中心に反発が噴出。表現の自由重視層も加わってChange.orgで抗議署名を集め、議連に公開質問状を提出した。議連への殺害予告も発生するなど、議論は泥沼化した。
●千葉県警はどう対応したか?
千葉県警は抗議を受け、2021年9月までに動画を削除。キャラクターが不適切という意見があったことや、交通安全啓発と異なる意図で受け取られる恐れがあったことが、削除に至った理由とされた。
●この騒動から得られる教訓は?
Vチューバーの起用は若者への訴求に有効である。問題になったのは、キャラクターがセーラー服風の衣装をまとっているがゆえに女子中高生の年代に見えること。そこにミニスカート、へそ出し、胸の揺れといった要素が絡むことで露出過多に映り、不快感を示す人が一定程度現れてくることだった。
千葉県警は迅速に対応した格好だが、それが戸定ファンおよび表現の自由戦士らの反発を招くことになった。キャラクターを巡る感情的な対立構造になっており、解消は相当に難しい。

「宇崎ちゃん」の献血ポスターも波紋を呼んだ

I admire the work the Red Cross does, which is why I’m disappointed that @JRCS_PR in Japan would run a campaign using the over-sexualized Uzaki-chan. There’s a time a place for this stuff. This isn’t it. #women #metoo #kutoo pic.twitter.com/bhds7IPPTq
Unseen Japan (@UnseenJapanSite) October 14, 2019
「宇崎ちゃん騒動」の発端は、外国人男性のツイートだった
●どんなキャラクターだったか?
2019年9月、神奈川県赤十字血液センターが公式Twitter(当時)で献血キャンペーンを告知した。
内容は、漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』とのコラボ企画で、10月に1都6県の献血ルームで400mLまたは成分献血に協力した人にオリジナルクリアファイルを配布するというもの。
ポスターには、主人公の宇崎花(うざきはな)が描かれている。彼女は、大きな胸と幼い表情が特徴のキャラクターで、ポスターには、「センパイ! まだ献血未経験なんスか? ひょっとして……注射が怖いんスか?」と無邪気に呼びかける絵柄が使用された。
●ネットユーザーはどう受け止めたか?
このポスターに対し、ネット上では賛否両論が広がった。批判的なユーザーは、キャラクターの胸が過度に強調されたデザインが、公共性の高い献血キャンペーンにそぐわないとして、「不快だ」とする意見を投稿。
肯定的なユーザーからは、「アニメとしてはよくある表現で問題ない」「若者の献血を増やすために若者に人気のキャラクターを使っているのだから、対象外の世代は口をはさむべきではない」といった意見が見られた。
●日本赤十字社はどう対応したか?
騒動が広がった後も、日本赤十字社から具体的な反応はなく、キャンペーンは予定通り実施された。Twitter(当時)では「宇崎ちゃんグッズもらってきた」という報告が投稿された。
●この騒動から得られる教訓は?
このポスターを最初に問題視したのは、妻が日本人で年に数回日本に来ている米国人男性のツイートだった。「過度に性的な宇崎ちゃんを使ってキャンペーン展開していることに失望している」としてTPOに合わないと指摘する内容だった。
インバウンドの盛り上がり、国際結婚の増加などで、異文化圏の外国人がこうした場面に遭遇するケースは今後ますます増える。グローバル基準に耐えうる回答を用意しておいたほうがいいだろう。



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