6月22日の東京都議会議員選挙で、弁護士資格を持つ新人候補2名が当選を果たした。国民民主党の宮崎大輔氏(港区)と立憲民主党の三雲崇正氏(新宿区)である。
宮崎都議は弁護士・社労士・行政書士・宅建士、三雲都議は弁護士・行政書士の資格を持つ。
弁護士JPニュース編集部では7月上旬、当選したばかりの2人へインタビューを敢行。両氏に政界進出の理由や「弁護士が政治に携わることの意義」などを聞いた。

「法律と政治は切っても切り離せない関係」

宮崎都議は当選した現在の心境について、「国民民主党の議員全員が1年生議員なので、前途多難な部分もある」としつつ、「都民の負託にこたえ、都政を進めていかなければならない」とコメント。
自身が弁護士から政界へと進出した背景を聞くと「個人的な理由は、今の政治の閉塞(へいそく)感、日本の閉塞感があまりに強い。“失われた30年”を打破して、いい循環を作っていきたい」との思いを述べつつ、次のように続けた。
「政治学科のほとんどが法学部に設置されているように、政治は法律の根拠に基づくものです。よって、弁護士としては、法律と政治は切っても切り離せない関係だと思っています。
地方であれば条例案、国であれば法案のチェックは大切ですし、それぞれの政策にも法的根拠が必要です。
国会は立法機関であり、まさしく法律を生み出す場所です。そして都議会の場合も、条例の提案、という意味で立法機関としての機能も一部有しています。
ですので、国民、都民のための政治を実現するには、もっともっと法律に精通した人間が政治に関わったほうが良いと思います。
自分自身も、これまで弁護士として相談を受け、法律の精査、契約書の確認など、さまざまな実務経験を積んできました。
この経験を条例案や予算案のチェックなどに、どんどん生かしていきたいです」(宮崎都議)

「法律家がいない議会は行政などの言いなりになってしまう」

新宿区議を2期経験した三雲都議も、都議選での当選は今回が初。前回2021年の都議選では917票差で落選していた。
三雲都議の政治への関心は学生時代にまでさかのぼる。東京大学法学部で官僚を目指していたが、旧大蔵省など、官僚の不祥事を見て、疑問を抱き、弁護士を志した。
その後、政治への転身の直接的なきっかけとなったのは2011年の東日本大震災だったという。
「震災を見て、それまで作られてきた日本のルールや政治システムがあまりに脆弱(ぜいじゃく)だったことに気づきました。
その後、スコットランドへ留学し、そのまま海外で仕事を続けることも視野に入れていましたが、政権交代や憲法改正の議論を見ていて、日本の政治をなんとかしなければいけないという思いもあり、日本に帰国しました」
三雲都議は元々、大手法律事務所に所属しており、国際的な大企業が日本に進出する際や、投資銀行などが海外の有価証券を取得する場合など、さまざまなケースに企業法務や国際法務の立場から、弁護士として携わっていた。
「弁護士や法律家にも、それぞれの描きたいキャリアがあるでしょうし、議会の全員が弁護士や法律家である必要もないと思います。ですが、法律家がいない議会は、政党の執行部や政府、行政の言いなりになってしまう恐れがあります。
その点、私は長年の弁護士としての経験を生かし、区議時代にもいくつも条例・事業をチェックしてきました。そのなかには致命的な欠陥を抱えていたものもありましたから、私が区議会に入ったことで区議会のチェック機能はかなりあがったと自負しています」

「2人の都議が果たし得る役割」とは

先述した通り、両者ともに、弁護士としての経験に基づく法的知識を、条例案や行政のチェック機能に活用したいと意気込むとともに、弁護士や法律家が議会のメンバーであることの有効性を述べた。
両者の話を受け、東京都国分寺市議会議員を3期10年務めた後で弁護士になり、現在は「議員法務」の第一人者として活動している三葛敦志弁護士は以下のようにコメントした。
「弁護士と政治家は、困っている方に寄り添い、解決策を提示するために、社会制度や法令を駆使するという点で、大きなところでは近い部分がありますが、両者の役割はきれいに分かれつつ、交わる部分もあると考えます。
具体的には、弁護士の役割は顧客といういわば特定の人のために働くことであり、それがときに社会制度の変革を求めることにつながるのに対し、政治家の役割は一般に国民や住民の権利利益を守り、社会の制度をつくり改めることであり、それがときにある特定の人のために役立つことにもつながる、という意味です」
そのうえで、2人の都議が果たし得る役割についてはこう続ける。

「最近は各自治体に政策法務を担当する部署ができ、弁護士資格を持っている職員が増えています。
しかし、具体的な行政活動が法令に適合しているか否かなどのチェックや条例案の文言の調整をしたとしても、それがそもそも住人や社会のニーズに合致するか、一方でそのニーズが法令や判例に照らして適切かどうか、確認することは役目ではありません。
ですので、弁護士業務の中で培ってきた知識と経験に根ざし、より精度の高いチェック機能を議会の立場で果たすことができると考えられます」(三葛弁護士)

「議会の透明化果たす」「家族を作りやすい場所を提供」

両都議へのインタビューの終盤、今後の抱負についてそれぞれに聞いた。
宮崎都議は「議会の透明化を果たすとともに、都議会でこれまで行われたことない減税の実現や、刑事弁護の経験を生かし、防犯対策の強化、『トクリュウ』など犯罪の未然防止にチャレンジしたい」として次のように述べた。
「条例案の策定、提出の際に、どのような案を考えているか、まず都民の皆さまにYouTube等で提示していきたいです。
そして、仮に議会に反対されたとしても、どのような理論ではね返されたのか、どういった障壁があるのかをわかりやすく解説していきたいと思います」
一方の三雲都議は「改革を掲げてやってきた人たちも既得権者になってくる。小池都政が長期化した今、誰かがチェック機能を果たさなければならない」と改めて強調。そのうえで以下のようにコメントした。
「東京都は税収が増え続けており、同時に多くの若い人たちが学業や仕事のために、東京にやってきます。ですが、そこから子供たちがなかなか生まれてきません。
ですので、人口の観点で考えると、東京はブラックホールのような状態に陥っています。
こうした問題を解決するためにも、東京都自身が、税金の無駄遣いや、一部の事業者がもうけるための政策をやめ、家族を作りやすい場所を提供するために、増収分をもっと使っていかなければならないと思います」
弁護士出身の2氏の、今後の都政での活動に注目したい。



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