田久保市長は、議長に真偽を問われた際に見せた「卒業証書」とされる書類の提出を「刑事訴追のおそれ」を理由に拒否している。
田久保市長は出頭を拒否できるのか。また、出頭した場合に証言を拒絶できるのか。もし、出頭や証言を拒否した場合にはどのようなペナルティーがあるのか。そして、田久保市長はどう振る舞うべきなのか。
東京都国分寺市議会議員を3期10年にわたって務めた経歴をもち、首長や地方議員からの相談対応も数多い三葛敦志(みかつら あつし)弁護士に聞いた。
百条委員会での審議の「厳しさ」とは
百条委員会とは、地方議会が、地方自治法100条で定められている「普通地方公共団体の事務(中略)に関する調査」(同条1項)を行うため設置する機関である。調査委員会は、調査を行うため「特に必要があると認めるとき」は、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。
百条委員会での審議は、議会での一般的な質疑(地方自治法109条2項参照)と比べてどのような特徴があるのか。
三葛弁護士:「議会の質疑に出頭し答弁することはあくまでも任意なので、本人が出頭や答弁を拒んだらそれまでです。
これに対し、百条委員会では、関係人が正当な理由なく出頭しない場合、証言を拒んだ場合、虚偽の証言を行ったりした場合には、いずれも刑罰が科せられます。
すなわち、正当な理由なく出頭・証言等を拒んだら6か月以下の拘禁刑または10万円以上の罰金(100条3項)、宣誓をしてから虚偽の証言を行ったら3か月~5年の拘禁刑(100条7項)が科せられます。
なお、議会は、これらの罪を犯したと認定したら、調査終了前に本人が自白した場合を除いて、刑事告発する義務があります(100条9項)」
百条委員会は過半数の議決があれば設置できる。しかし、調査権限が強力であることから、実際に設置されるケースは「よほど重大な事情がある場合」に限られるという。
三葛弁護士:「議員の側には、刑罰による制裁を背景としてまで調査権を行使していいのか、という緊張感があるのです。現に、私が市議会議員を務めていた10年間に、百条委員会は一度も設置されませんでした。
世論が問題視している事柄だという共通認識が成立するからこそ、設置されるといえます。
したがって、設置されること自体、社会に対し『この問題は重大だ』と印象付け、かつ、そこに呼ばれる人にマイナスイメージを与え、事実上の制裁を加える効果があります」
田久保市長は「出頭」を拒否できないが「証言」は拒否できる?
出頭・証言を拒絶できる『正当な理由』として、どのようなものが考えられるか。三葛弁護士は、あくまでも個別具体的に判断されるとしつつ、以下の通り説明する。三葛弁護士:「まず、『出頭』を拒絶できるのは、病気やケガなど、物理的に出頭できない場合や、親族が危篤状態にあるか亡くなった直後の場合など、その日時にどうしても出頭できないごく例外的な事情があるケースに限られます。
田久保市長の場合、現時点でそのような事情があるとは確認されておらず、出頭せざるを得ないと考えられます。
次に、『証言』を拒絶できる正当な理由は、その証言を行ったら刑事訴追のおそれがある場合などが考えられます。
田久保市長の場合は、学歴詐称が公職選挙法の虚偽事項公表罪(同法235条1項)に該当する疑いですでに刑事告発が行われています。また、議長らに卒業証書のような物を提示した行為が有印私文書偽造罪(刑法159条1項)に該当する疑いもあります。
したがって、刑事訴追のおそれが生じており、証言を拒絶する正当な理由が認められる可能性があるといえます」
田久保市長へ弁護士からのアドバイス
田久保市長は辞職したうえで出直し市長選挙に出馬する意向を示している。最後に、三葛弁護士に、仮に田久保市長から相談を受けた場合、弁護士としてどのようなアドバイスをするか聞いた。
三葛弁護士:「地方議員を経験した立場からの肌感覚として、法的責任だけでなく、道義的・社会的責任の取り方も重要だと考えます。
対応を誤ると、自身の傷口を広げることになります。また、近い立場にある政治家や政党・会派等に迷惑をかけることにもなりかねません。
議員や首長を辞職することによって『社会的責任を果たした』とみられ、不起訴になるケースもあります。しかし、すぐ再出馬する意向を示しているとなると、話は別かもしれません。そして、仮に再選したとしても、みそぎがすんだ、刑事責任は追及されない、と判断することは早計です。
それらすべてを冷静に見極めたうえで、どのように行動するべきなのか考えることをおすすめします」