同訴訟では東京地裁が7月10日、原告らの労働者性を全面的に否定し、主張を退ける判決を言い渡していた。
この日、会見に出席した伊須慎一郎弁護士は「今回の地裁判決には、非常に問題があると多くの弁護士が感じている」と説明。控訴審では弁護団の4人から19人への大幅拡大が決定しており、さらなる増員も予定しているという。
「指揮監督関係を裏付ける事実」多数認定
本件の争点は「業務委託契約」で働いていた支配人・副支配人が、実態として労働者に当たるかという点だ。判決では労働者性の判断基準として、「昭和60年労働基準法研究会報告」に基づく枠組みを採用。判決文ではその枠組みについて、以下のように記されている。
「労働者に当たるというためには、契約の形式にかかわらず、①使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること、②労務に対する対償を支払われるものであることが必要であると解される。
そして①については、仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、時間的・場所的拘束性の有無、労務提供の代替性の有無を考慮し、②については、報酬の労務対償性を考慮すべきであり、その他、補強要素として、事業者性の生む、専属性の程度等についても検討すべきである」
この判断枠組みに基づき、東京地裁は、原告らにホテル側に対する詳細な報告義務があることや、1000ページを超える、詳細なマニュアルの遵守義務、時間的・場所的拘束性が生じていたなど「被告側と原告側の指揮監督関係を裏付ける事実」を多数認定した。
「『子どもは1人まで』と妊娠の自由すら制約」
しかし、判決では「契約の目的論」と「業務の性質論」の2つの論理から、原告側の労働者性を否定。マニュアルの遵守義務等については「本件委託契約の目的に基づくもので、指揮監督関係を基礎づけるものではない」として一蹴し、時間的・場所的拘束性についても、「本件委託契約の内容又は『業務の性質』から生ずるものである」として指揮監督関係を否定し、原告側の労働者性も認められなかった。
このような判決論理について、代理人の猪股正(いのまた・ただし)弁護士は「労働法の存在意義を事実上否定する極めて問題の大きい判断だ」と強く批判。
「労働法というのは、使用者を規制することで、労働者の人間的な生活を確保しようとするもので、契約自由の原則に制約を課し、労働者を守るというのが法の存在意義です。
ところが、この判決では『契約に定めているから問題がない』としています。
ですが、支配人・副支配人は、居住場所をフロント裏のスペースに限定され、さらに『子どもは1人まで』という制約まで課され、妊娠の自由すら制限される状況にありました。
こうした状況においては、まさに契約の自由の原則を制約し、労働法を適用するべきだと主張しましたが、われわれの主張が通らず、請求が棄却されたのは極めて不当だと思います」(猪股弁護士)
「裁判官が萎縮してしまった可能性」指摘
伊須弁護士も、この判決が与えうる影響について「24時間営業の飲食店や長時間労働をさせたい業界が、全てこの手法をまねできるようになる」として次のように述べた。「今回の判決が基準になってしまえば、『サービスの質を上げるための指示』などと理由を付け、契約書やマニュアルに事細かく、業務内容などを盛り込むことで、長時間労働といった、本件原告のような働き方をさせられるようになってしまいます。
また、労働者を保護しないということは、安心して働いて暮らしていける人がどんどん減っていくことを意味しますので、今後格差がさらに広がり、少子化問題にも悪影響を与えてしまうのではないでしょうか」(伊須弁護士)
加えて、裁判官の側も「影響」を懸念したのではないかと伊須弁護士は指摘する。
「裁判官が実態に基づいた判断を避けた理由として、スーパーホテルは全国に100店舗以上あり、労働者性を認める判決をだすとなると、多大な影響を及ぼすでしょう。
この影響の大きさから、裁判官が萎縮してしまった可能性はあり得ると思います」(同前)
「5年間の裁判は大変だったが、到底納得できない」
原告代表の渡辺麻美さんは会見で「私たちを『労働者でない』と判断した地裁判決には、到底納得できない」としつつ、以下のように述べた。「私たちは提訴から5年の歳月をかけて一審を争ってきました。この5年間、裁判を続けてきたのは、それ自体とても大変でしたが、それでも大事なことなので控訴を決意しました」
なお、弁護士JPニュース編集部では、スーパーホテル側にも取材を申し込んだが「担当者が不在のため答えられない」とのことだった(2025年7月23日16:50現在)。担当者からの回答があり次第追記する。