スポーツ紙芸能担当記者が指摘するように、ここのところ、その手のニュースが相次いでいる。この夏も酷暑となっており、百日咳やて新型コロナウイルスの感染拡大等もみられるため、今後も同様の事態が起きる可能性がある。
そこで気になるのが、公演中止となった場合に、チケット代等の「払い戻し」を確実に受けられるのか、ということである。(中原慶一)
体調不良も「しょうがない」という風潮
ここ1か月ほどの間に公演中止に至った例をざっと挙げてみると……(以下敬称略)及川光博さん(55)は、6月29日に大阪・オリックス劇場で予定されていたワンマンショーツアー「DISCO☆ENDORPHIN」の公演を、直前のリハーサルで喉の痛みを訴え、開演6分前に中止を発表(6月29日)。及川さんはその後細菌性の急性咽頭炎と診断されたが、7月13日の福岡公演からツアーは再開された。
歌手のさだまさしさん(73)は、7月5日の鹿児島でのコンサートを「突然声が出なくなった」として2曲目で中断。振替公演は11月に開催と発表(7月11日)。
歌手の五木ひろしさん(77)は「デビュー60周年記念 五木ひろし特別公演 坂本冬美特別出演」に7月5日から出演中だったが、体調不良を訴え緊急入院。慢性閉塞(へいそく)性肺疾患と気管支炎と診断され、12日、13日の公演を中止。
さらに、24日まで五木さんは休演することを発表(7月18日)。ただし、公演自体は、14日から太川陽介さん(66)が芝居パートで五木さんの代役を務め再開されている。
舞台「刀剣乱舞」は、7月13日、長曽祢虎徹役の松田岳さん(32)の体調不良により、当日の2公演を中止することを公演開始2時間前に発表。その後、松田さんの筋挫傷の症状が悪化したことに伴い、同公演を降板し、代役が演じることを発表(7月15日)。
「コロナ禍以降、『体調不良』でライブやコンサートを急きょ中止となっても、以前ほど批判は浴びなくなりました。感染拡大の問題もあり、健康上の問題が理由なら、“しょうがない”と考える人が多くなっているのです」(前出の記者)
公演中止で「払い戻し」がされない場合は?
しかし、気になるのは、楽しみにしていたイベントが、急に中止や延期になった場合、チケットの払い戻しがなされるかということだ。法律事務所関係者は話す。「主催者はお客に対して公演を実施する『債務』を、お客は主催者に対して、その対価としてチケット購入代金を支払うという『債務』を負っている状態です。
ですので、チケット料金を支払ったにもかかわらず、その公演が中止・延期となり、参加できなくなったら、主催者側の『債務不履行』ということになります。
これによって、お客のチケット料金の支払い義務も消滅することになり、原則として返還請求の対象となります」
つまり、チケット規約に特段の定めがない限り、「払い戻しが原則」というわけだ。実際、前述の及川光博さん、さだまさしさん、五木ひろしさんの公演、そして舞台「刀剣乱舞」のすべての例において、公演中止分は払い戻しをされることがアナウンスされており、上記の原則通りの対応がとられている。
では、払い戻しが受けられないケースとして、どのようなものが考えられるか。
「チケット規約などに、『不可抗力によるイベント中止の場合には払戻しされない』などと免責条項がある場合などです。
ネットでチケットを購入する際に、クリックで、こうした約款に『同意する』のボタンを押している場合などは、こうした免責条項に同意していたことになります。
なお、事由を問わず一切払い戻しをしないとする条項は『消費者の利益を一方的に害する条項』として無効とされる可能性があります」(前出の法律事務所関係者)
交通費、宿泊費等はまずムリ…それでも請求可能はケースとは?
このように、チケット自体の払い戻しは、よほどのことがない限り、受けられる。次に、気になるのは、突然の公演中止となった場合、チケット料金だけでなく、遠方から来ていたケースなどで、やむなく支出した交通費や宿泊費ないしはそのキャンセル料相当額まで支払ってもらえることがあるのかということ。
前出の法律事務所関係者は、「実際に、出演者の体調を理由とした公演中止で、交通費や宿泊費まで賠償・補償したという例は聞いたことがない」としつつ、次のように語った。
「そもそも、体調不良になるのは致し方ない面もあるので、よほどのことがない限り過失が否定され、損害賠償責任を負うことはありません。
それでも、万万が一、主催者側や出演者側に過失が認められる場合があったとしたら、コストに見合うかは別として、損害賠償の訴えを起こすことも、理屈としては考えられなくはないかもしれません。
ただし、その場合、債務不履行によって社会通念上、発生することが相当といえる損害に限られます。個別具体的な事情にもよりますが、そのイベントのためにわざわざ遠方から駆けつけて宿泊したというような場合であっても、よほど希少性があるイベントでない限り、損害賠償請求は認められにくいでしょう」
楽しみにしていた公演が、出演者の体調や健康上の理由により、中止や延期になった場合、残念極まりない気持ちになるのは当然。チケットが払い戻しされたところで、交通費や宿泊費などの遠征費を負担していたらなおさらのことだ。しかし、ファンとしては、ここは、回復を祈るしかないというのが現実的なところのようだ。
■ 中原慶一
某大手ニュースサイト編集者。事件、社会、芸能、街ネタなどが守備範囲。実話誌やビジネス誌を経て現職。マスコミ関係者に幅広いネットワークを持つ。