「ラブホテル」「普通のホテル」何が違う? 風営法と警察通達による“意外な判断基準”とは
同じホテルでも「ラブホテル」と「一般のホテル」が違うことはわかるだろう。前者の定義は一応、「異性を同伴する客の宿泊の用に供する施設」となっているが、これでは明確な違いはわからない。

「サービスタイム」「休憩〇〇円」。実は入り口付近のあれらの表記が、ラブホテルとホテル・旅館を区別する要素になっているのだ。
‟歌舞伎町弁護士”の異名で風営法に詳しい若林翔弁護士が、2つのホテルの違いを法的観点から解説する。
※この記事は若林翔弁護士の書籍『歌舞伎町弁護士』(小学館新書)より一部抜粋・再構成しています。

「ラブホテル」と「一般ホテル」を区分する規定

ラブホテルは、「性風俗関連特殊営業」いわゆるフーゾクのカテゴリーの中の「店舗型性風俗特殊営業」に区分され、下表のように4号の届出の対象となっている。

風営法の対象となる営業(出典:警視庁ウェブサイト)

<専ら、異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。)の用に供する政令で定める施設を設け、当該施設を当該宿泊に利用させる営業>
これがラブホテルの定義だが、「異性を同伴する客」が大半を占めるという特徴だけでは、一般のホテルとさして違わないように思われる。細かい部分に注目するとその実像が浮かび上がってくる。
たとえば、警察庁が各都道府県警察の長に送付した通達(『風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について』)によれば、一般のホテルや旅館とは区別できるよう、次のような規定が示されている。

  • 食堂やロビーの面積が一定以下であること
  • 宿泊ではなく時間単位で利用可能であることの表示(レストやサービスタイム、休憩などの文字や料金)がされていること
  • フロントにカーテンが付いているなど利用客が従業員と面接することなくその場所を利用できる、など

これらをみれば確かに「ラブホテル」の特徴そのものであることがわかる。

「アダルトグッズ」とは具体的になにを指す?

5号は、アダルトグッズの販売やレンタルを行う店を対象としている。時折、「アダルトグッズとは、具体的に何を指すのか」という質問を受けるが、例によって定義は曖昧だ。法律上は、こう書かれている。
<専ら、性的好奇心をそそる写真、ビデオテープ、その他の物品で政令で定めるもの>
アダルトグッズについては、政令で「性具その他の性的な行為の用に供する物品」とされ、バイブレーター、SM用具なども含まれる。

サブスクリプション制の動画サービスが主流となってしまった現在、もはや懐かしい存在となってしまったレンタルビデオ店を想像していただきたい。
レンタルビデオ店にはたいてい、暖簾が吊るされた一角があった。そこには《未成年は立ち入り禁止》などと記されており、中にはアダルトビデオが陳列されていた。
そうした店はおしなべて5号の届出をしていたのかというと、そうではない。4号(ラブホテル)の定義でも使用されていた「専ら」がポイントだ。 「専ら」は「7~8割以上」と解釈されている。
つまり、売り場の面積や全体の売上に対して「性具その他の性的な行為の用に供する物品、性器を模した物品、性的な行為を表す写真その他の物品、これらに類する物品」の占める割合が「7割未満」であれば、5号の届出は必要ないだろう。

「出会い系喫茶」の定義

6号は「前各号に掲げるもののほか、店舗を設けて営む性風俗に関する営業で、善良の風俗、清浄な風俗環境又は少年の健全な育成に与える影響が著しい営業として政令で定めるもの」と規定されており、将来の情勢変化に柔軟に対応できるような規定だ。
現状では、出会い喫茶営業に使われている。 出会い喫茶営業は、「専ら、面識のない異性との一時の性的好奇心を満たすための会話か交際を希望する者」の求めに応じ、「当該店舗内においてその者が異性の姿態若しくはその画像を見てした面会の申込みを当該異性に取り次ぐこと又は当該店舗内に設けた個室若しくはこれに類する施設において異性と面会する機会を提供することにより異性を紹介する営業」ビジネスを対象としている。
このビジネスの様態が風俗営業と異なるのは、その施設の中で出会う男女はいずれも素人(その店の営業者と雇用関係があってはいけない)でなければならない、という点である。「客が金を払ってプロを選ぶ」のではなく、あくまで「客同士が自由意思によって交流する」のだ。
客の一方が従業員である場合や、サクラで店の指示によって接待をするような場合には、無許可の風俗営業になる。
相席居酒屋などの営業で、客の申し込みの取り次ぎをせず、個室などでの面会機会の提供がなければ、出会い系喫茶営業には該当しない。

規制に縛られるフーゾクの未来は?

と、ここまで店舗型性風俗特殊営業に関連する届出とその限界を解説してきたが、率直に言って、これらの業態について、規制が緩和される未来は待っていないと思う。
従来の方針を変えて禁止区域を縮小したり、新規の開業を認める可能性は低いだろう。

風営法は、風営法改正前から営業をしていたものに既得権を認めており、店舗型性風俗特殊営業のほとんどは、この既得権に基づき営業をしている。
しかし、この既得権は個人では一代かぎり、建物についても同一性を損なうような変更は許されていない。そうであるなら、ナイトビジネスの一翼を担う性風俗産業は滅びてゆくだけなのか。

必ずしもそうではない。性風俗産業には「デリバリーヘルス」という業態がある。つまり「無店舗型性風俗特殊営業」の1号である。
【若林翔】 グラディアトル法律事務所入所後、2013年から代表弁護士を務める。 ナイトビジネスのトラブル相談の豊富な経験を生かし初の著書『歌舞伎町弁護士』を出版。


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