教員による性犯罪“増加”の理由とは 深刻な人材不足で“欠員放置”6割超…「現場疲弊」と「リスク拡大」の悪循環
教員による性犯罪が止まらない。有力な対策のひとつと目される「日本版DBS」(※)は2026年12月の施行へ向け有識者会議が大詰めを迎えているが、「必要性に疑問を感じる」との声もある。
一方で、教職現場の人手不足が深刻で欠員補充ができない「未配置」が全国で3662人に上ることもわかった。
※Disclosure and Barring Serviceの頭文字をとったもので、日本語で「前歴開示・前歴者就業制限機構」を意味する。元々はイギリスで2012年に確立した制度

欠員放置が6割以上の教育現場の実情

「教育現場のストレスフルな環境と教員の性的加害が増えていることは決して無関係とはいえません」と指摘するのは、学校関係者からも相談を受ける、一般社団法人全国盗撮防止ネットワーク代表理事の平松直哉氏だ。
平松氏は、その背景に、教育現場での慢性的な人手不足が深刻化していることを挙げる。
全日本教職員組合(全教)が7月に公表した資料によれば、36都道府県・12政令市で教職員未配置の状況を調査したところ、「定数の欠員」が771人で全体の約21%。「代替者の欠員」が「産育休」「病休」「看護休」などをあわせ1058人で全体の約29%となっており、定数の欠員を上回っている。
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教員未配置の状況(全教資料より)

未配置への対応については全体の約70%から回答を得ており、その回答件数の内訳は「みつからないまま」が711人で最も多く64.4%、次いで「非常勤で対応が」349人で31.6%、「他校勤務の正規教職員の兼務」が38人で3.4%となっている。
教育現場の人手不足の深刻さが数字でも如実に表れている。
その結果、学校現場でなにが起こっているのか。
全教によれば、「担任不在のクラスはすでに崩壊していた」(小学校)、「家庭科の授業が一か月なし」(小学校)、「免許外教師が3人で対応。ただ単に教科書をなぞるだけの授業しかできず、生徒たちに十分な学力をつけることができませんでした」(中学校)といった影響が出ているという。
教職現場が、慢性的な人手不足の影響で疲弊している状況が見てとれる。

教育現場疲弊と性的加害に相関は?

こうした状況を踏まえ、平松氏は、次のように訴える。
「職場が大変だから許されることは断じてありません。
しかし、こうした状況によって、ストレスが爆発するような行動を起こしたり、入らざるべき人材が紛れ込んだりするリスクが高まる事実もあることは否定できません」
平松氏が懸念するのは、教員不足の‟切り札”ともいわれる「臨時免許」運用の実情だ。同免許はどうしても教員が足りない場合に、教員免許を持たない人などに対し、都道府県の教育委員会が臨時的に発行するもので、最長3年、教員として授業を担当できる。
「この臨時免許で教壇に立つ教師が現在1万人以上いるといわれています。穴埋めにはなっても、あくまでも臨時的であり、必ずしも教育の充実とはいえないでしょう。人材としても、本当に安心して生徒を任せられるかは未知数でしかありませんからね」

自力で性被害と向き合う教育施設も

慢性的な教員不足が招く、教職現場への影響はあまりに甚大といえる。そうした中、他力での性加害抑止に限界を感じ、自衛で児童・生徒の性被害と向き合う教育施設もある。
近畿地方のある老舗幼稚園では、盗撮などの性被害対策に力を入れている。たとえば教員の採用では可能な限り、書類や面接で適性を見極め、独自の基準を満たす者のみを採用。
防犯カメラは外部に向け、第三者が入れないよう設置。園内もプライバシー保護を最優先にカメラを配備し、その扱いも施設管理者限定とするなど、リスクを最小限に抑えるよう細心の注意を払っている。
さらに園内へのスマホ持ち込みも禁止し、不要な撮影ができないようガード。これだけ徹底しているものの、最も大事なことは「どの職員とも気軽に報・連・相できる組織力です」と同園マネージャーの一人は明かす。
愛知県の教員盗撮事件でも、「さわやかでいい先生」の顔で生徒と接しながら、裏では盗撮魔として生徒を被写体として捉え、撮影画像を仲間と品評していた。
対生徒でいくら好印象でも、教員同士の輪の中でコミュニケーションが不調なら、わずかな予兆や異変にも気づきづらい。同園が組織力の重要性を力説するのも、間接的のようだが理にかなっている。
同園のように、全スタッフが高い意識で性加害と向き合うことが犯罪抑止に有効なのは言うまでもない。だが、前述の統計データに表れている通り、多くの教育現場では人手不足が深刻化し、業務負荷が高まっており、実践が困難なことも否めない。
盗撮事件のあった愛知県では、「教員による性暴力防止法」により教員採用時に2023年4月から義務付けられている子どもへのわいせつ行為や性交、盗撮などで懲戒免職や懲戒解雇になり免許を失効した人が掲載された「特定免許状執行者等データベース」の確認を怠っていた。

日本版DBS不要の根拠は?

疲弊する教育現場で、自力による性犯罪抑止も十分に期待できない中、日本版DBSは施行予定の2026年12月へ向け、大詰めを迎えている。子どもに接する仕事に就く人に、性犯罪歴の確認を義務付けるこの制度も、現状では「穴だらけ」と平松氏は指摘する。
「安全確保措置として挙がっている早期把握のための定期面談やアンケート実施は過去にも同様のことをしており、心理カウンセラーでも一回のカウンセリングやセルフチェックでは解析できないとの声もあります。
疑い発覚時の対応手順についても、判別しにくい分、隠ぺいする機関がいま以上に出る恐れが懸念されます。
また、有識者会議の中間素案では監視カメラの設置も触れられていますが、コスト面、管理面(データの保存面)、職員の行動分析は誰がするのか。教育者のSNSの運用状況の把握、表アカウント、裏アカウント、プラットフォームの解析は誰が行うのか。その費用負担はどうするのかも気になるところです」
日本が参考にしたイギリスのDBSは2014年の本格運用から改定もしながら、現在はその対象範囲を学校・カレッジの教職員、校長、ガバナンス関係者、人事担当者などから地方自治体、警察、保健医療機関、NHS(National Health Service:国民保健サービス)、学校、ボランティア団体などにまでその枠を大きく広げている。

「私の考えは、現状の関連する法律の一元化が一番スマートというものです。日本版DBSに実効性を持たせようとすれば、教育現場にさらなる負担をもたらすことにもなり、そもそも必要なのかとさえ思います。
イギリスのDBSには学校や教育関係者が守るべき安全基準を詳細に定めた法的ガイドラインがあるなど、法制度・行政・教育現場が連携しています。やるならばそれくらい踏み込む必要があるでしょうが、現状で本当にそんなことが可能でしょうか…」
教育現場の人手不足解消の道筋も見えない中で施行が近づく日本版DBS。2025年秋にも中間とりまとめ案を公表し、年内にはガイドライン策定の見通しだが、施行以前にクリアすべき課題が山積している。


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