亀田製菓、すき家、吉野家…“ネット炎上”その後どうなった? 企業の命運を分ける「信頼回復」のカギ
4月15日、よつ葉乳業株式会社が同社のバター商品に「金属線が混入しているおそれがある」として、約628万個の商品を自主回収することを発表。
しかしネット民の反応は温かく、「よつ葉バターが好きだからこれからも買う」「回収対象商品だけどこのまま使い続ける」などと支持・称賛する声が相次いだ。
また「よつ葉を外資に渡すな」との投稿も多くあったが、これに対しては「陰謀論だ」との批判も多く出ている。
食品・飲食業界は消費者にとって距離感が近く、常に注目されているだけに、商品の管理のみならず重役の発言が原因で炎上したケースも多々ある。一方、その後の対応によっては炎上が“ボヤ”で収まることも。
今回は小林直樹氏の著書『ネット炎上事例300 なぜ企業や個人は失敗を繰り返すのか?』(2025年、日経BP)より、食品・飲食業界での炎上事例として、「生娘シャブ漬け発言」が問題となった吉野家の事例の他、「社長が移民を推進している」と誤解された亀田製菓や「ネズミ、ゴキブリ混入は仕組まれたもの」と陰謀論の題材にもなったすき家の事例をピックアップして紹介しよう。

亀田製菓CEО発言が「移民推進」と誤解され、不買運動が起こるも…

●どんなトラブルだったか?
2024年12月から2025年1月にかけて、亀田製菓がX上で「#不買運動」のターゲットになった。
発端は2024年12月、インド出身の同社会長、ジュネジャ・レカ・ラジュ氏が海外通信社のインタビューを受けた際、日本の労働力不足対策として「海外人材の受け入れ」を提案したこと。この発言が「移民受け入れ」として報じられた。
また2025年1月、台湾で乳幼児向け米菓「野菜ハイハイン」から基準値を超えるカドミウムが検出されたことも報道された。
●ネットユーザーはどう受け止めたか?
近年、埼玉県の川口、蕨(わらび)両市周辺に暮らすクルド人へのヘイトスピーチが問題になっている。欧州では移民政策に反対する極右政党が台頭しているが、日本にもその萌芽(ほうが)が見える。
そうした社会状況下で、「インド出身の亀田製菓会長『日本はさらなる移民受け入れを』」という記事タイトルは、SNS上で大きな反発を招いた。
台湾のカドミウム検出については、基準が日本の10分の1と厳しく、ギリギリでオーバーしたが、日本を含む多くの国の基準はクリアしているため、販売は継続している。これにも過剰に危惧する反応があり、同社に対する不買運動がX上で湧きあがった。

●不買運動は効いたのか?
日経POS情報を用いて、全国のスーパー約920店舗の販売情報から亀田製菓の「せんべい」カテゴリーにおける販売金額シェアの推移を追跡したところ、2025年1月は18%台に下げたものの、2月には19%台、3月には20%台に戻しており、さしたる変動はなかった。
例年、1月はやや下げ気味である。
小林製薬やビッグモーターなど、安全性や信用を失った場合は販売に大きく影響する。だが、こと政治的、思想的な思惑を含んだ不買運動は、X上では盛り上がるものの、ノイジーマイノリティーにすぎず、実売への影響はほとんど見られない。亀田製菓不買運動は不発に終わった感がある。
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結局、亀田製菓に対する不買運動の効力は出なかった(『ネット炎上事例300』より転載)

「すき家」でネズミ・ゴキブリの混入相次ぎ、全店で清掃へ

●何が起こったか?
2025年1月、大手牛丼チェーン「すき家」の鳥取県内の店舗で、客に提供されたみそ汁の中にネズミの死骸が混入していた事案が発覚。
さらに同年3月には、東京都昭島市の店舗で購入された商品にゴキブリの一部が混入していたという新たな報告があった。同社の衛生管理に対して不信感が生じた。
●ネットユーザーはどう受け止めたか?
「みそ汁にネズミ」「次はゴキブリ」と異物混入が連鎖したことで、SNS上では不安と怒りが渦巻いた。
「衛生管理どうなっているのか」「よく行ってたのに、これでは足が遠のく」といった声が相次ぎ、すき家ブランドへの信頼が揺らいだ。
●すき家側はどう対応したか?
すき家を運営するゼンショーホールディングスは、相次ぐ異物混入を受け、「日頃よりすき家をご利用いただいているお客様および関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけしておりますことを重ねてお詫び申し上げます」と謝罪。
ショッピングセンター内などの一部店舗を除く全店を2025年3月31日9時から4月4日9時まで一時閉店することを発表。害虫・害獣の侵入防止、内部生息発生の撲滅のための対策を行うとした。

●この騒動から得られる教訓は?
みそ汁に大きめのネズミが見える写真が出回ったため混入の衝撃は大きく、公表までに2カ月もかかったことで不信感が助長されてしまった。ただ、遅ればせながらではあるが、「全店一斉閉店」という思い切った対応は、本気の対策に取り組む姿勢、誠意を見せる点でも有効だ。
過去にはペヤングが工場の操業を停止し、大戸屋もバイトテロ発生の際に全店休業にしてSNS研修に取り組んだ。初動の遅れもあって顧客に不信感が生じてしまった際には、「そこまでやるのか」と顧客の想定、期待を上回る対応を見せることが、信頼の回復、その後の応援へとつながる。

吉野家の取締役が「生娘シャブ漬け戦略」発言で一発アウト

●講義でどんな発言があったか?
2022年4月、早稲田大学主催の社会人向けマーケティング講座に登壇した吉野家の常務取締役(当時)から講義中、「生娘シャブ漬け戦略」という発言があった。
講師の勤務先である吉野家のマーケティング戦略例として、「田舎から出てきた若い女性が、男性からごちそうされた高級な食事の味を知る前に“牛丼中毒”にさせる」という意味合いで、比喩として「生娘(きむすめ)をシャブ(薬物)漬けにする」と表現したものだった。
●受講者、ネットユーザーはどう受け止めたか?
その場ではお追従笑いも起きたものの、講義後、受講者のひとりが問題発言としてSNSで公開すると、瞬く間に拡散。「生娘だのシャブ漬けだの、不適切にもほどがある」と強い非難が寄せられた。
「自社のメニューに対して“牛丼中毒”にさせるという発想は、冗談にしてもいかがなものか?」「牛丼は薬物なのか?」など、役員にして勤務先商品へのリスペクトが欠如しているとの指摘や、大学の講義内の発言だったがゆえ企業倫理や大学の品位に疑問を投げかける声が相次いだ。
●大学、および講師の勤務先企業の対応は?
吉野家ホールディングスは、「人権・ジェンダー問題の観点から到底許容できない著しく不適任な言動があった」として当該役員の解任を発表。
早稲田大学も謝罪し、再発防止に取り組むとした。マーケティング業界の重鎮のひとりだったが、そのポジションを失うことになった。

●この騒動から得られる教訓は?
問題の常務取締役は明朗快活な好人物で、その場にいる人を楽しませようとするサービス精神があったという。それが行き過ぎて踏み外した格好だ。
長らく外資系企業で要職を務めてきた経歴から、コンプライアンスやインテグリティが求められる環境で仕事をしてきたはずだったが……。マーケティングの失敗である。


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