テニスの錦織圭選手が、モデル女性との2年半にわたる不倫を週刊文春に報じられ、謝罪文を発表。女優の永野芽郁さんと俳優の田中圭さんによる不倫疑惑では、両者は「友人関係」と否定したが、週刊誌がLINEトークの一部を掲載し、疑惑はくすぶり続けている。

あくまで個人間の色恋沙汰、個人のモラルの問題とされる「不倫」が、なぜこれほどまでに注目を浴びるのか。本連載では、不倫を単なる個人の問題としてではなく、「社会の問題」として考える。
第1回では、本連載での不倫の定義を提示し、現代社会におけるその実態と位置づけについて、データと考察を交えながら冷静に概観する。(全5回)
※この記事は坂爪真吾氏による書籍『はじめての不倫学 「社会問題」として考える』(光文社)より一部抜粋・構成。

不倫を概観する

不倫の定義は様々だが、本連載では「既婚者が、配偶者以外の相手と恋愛感情を伴った肉体関係を持ち、かつその関係を継続する意志を相手方と共有していること」と定義する。継続性のない一夜限りの関係、性風俗や売買春による金銭を介した関係は除外する。
まず、既婚者の中で不倫をしている人の割合はどの程度なのだろうか。不倫の実態に関する正式な統計調査は存在しないので、関連する調査からおおまかに推測してみよう。
【統計データ①】
2004年のアメリカ・シカゴ大学の社会動向調査によると、既婚男性の20.5%、既婚女性の11.7%が、過去に婚外交渉の経験があるという結果が出た。
【統計データ②】
2009年に行われた、雑誌「プレジデント」と「gooリサーチ」による全国の40代~60代の既婚者男女を対象にしたウェブ調査(有効回答者数3208名:夫1602名、妻1606名)によると、夫の34.6%、妻の6%に婚外交渉の経験があるとの回答があった。
夫の経験者のうち、28.7%が2回以上の経験があり、常習化の傾向があることが窺える。60代の夫の経験者では、10.5%が11回以上という回答が出ている。
【統計データ③】
独身男女(関東在住の40代~70代の独身男女1838人)の性行動の調査結果をまとめた『カラダと気持ち――シングル版』(日本性科学会・セクシュアリティ研究会編著、三五館)では、独身男性の42%、独身女性の38%にパートナーがいる。
その中で、「交際相手に配偶者はいるか」という質問に対して、男性の21%、女性の53%が「いる」と回答している。
アメリカの場合、日本における性風俗に該当する産業が少ないので、婚外交渉は高確率で不倫になるが、日本の場合は婚外交渉に性風俗の利用が含まれているため、その全てを不倫とみなすことはできない。
そういった点を考慮すると、統計により違いはあるが、既婚者の中で実際に不倫をしている人は多く見積もっても、全体の1割から2割程度だろう。

史上、最も不倫をしやすい社会

つまり、実際に不倫をしている人は、週刊誌やドラマなどのメディアで騒がれるほど多くない。
約8割の既婚者は、心の内に不倫願望を秘めているかもしれないが、実際に行動に移すまでにはいかない。不倫はあくまで少数派であるからドラマや記事のネタになるのだ。
現代社会は、個人間で常に連絡の取れる携帯電話やSNSの普及で、環境条件的には「歴史上、最も不倫をしやすい社会」になっている。さらに経済的にも不倫のコストは下がっている。
一昔前は、「浮気は男の甲斐性」とされ、男性が不倫相手の女性を経済的に援助するケースが多く見られたが、【統計データ③】の調査では、「援助してもいないし、されてもいない」と回答した独身女性は全体の74%を占めており、「全面的に援助されている」という回答は3%に留まる。
男性にとって、不倫に伴う経済的コストが低くなっていることは事実だろう。
しかし、だからといって不倫人口そのものが大幅に増加したというデータはない。その意味で、現代社会が「不倫天国」だという認識は間違いである。
あくまで不倫に至るゲートとプロセスが可視化されやすくなっただけだ。
社会問題としての不倫の要点は、統計上の数値の大小だけではなく、当事者が受ける心身のダメージの深刻さと、それが不倫相手や配偶者、家族や子どもに及ぼす影響の強さにある。
1件の不倫の背景には、決して数値化することのできない、本人及び周囲の人たちの巨大な苦しみが潜んでいる。
例えば、交通事故の発生件数は年々減少の一途をたどっているが、事故に遭った当事者の受ける心身及び経済的・社会的なダメージは、統計上の事故数が増えようが減ろうが変わらない。そして、いつ、どこで、誰が交通事故に遭うかは誰にもわからない。その意味で、交通事故と同じように、不倫も社会問題である。
(第2回に続く)


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