
その回答を基に「子ども1.4万人の食と生活の実態調査報告書」をまとめ7月24日、都内で会見を開いた。
コメをはじめとする物価の高騰が「食生活」を脅かし、子どもの健全な成長に悪影響も与えかねない深刻な状況を伝えた。
報告書は近く、こども家庭庁をはじめとする関係省庁等へも提出するという。(ライター・榎園哲哉)
物価高騰が母子家庭等の食生活を直撃
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンによる会見の様子(7月24日 都内/榎園哲哉)
「主食のコメ(ごはん)が食べられていない。例年に比べても極めて厳しい状況が明らかになった」
「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」の川上園子国内事業部長は、コメ価格の高騰、物価高騰を受けた経済的に困難な家庭での食生活悪化の深刻さを語った。
同法人はコロナ禍の2020年から、全国の経済的に困難な家庭に対し、「子どもの食 応援ボックス」(コメなどの主食、副菜、菓子、その他の詰め合わせ)を送り、併せて食生活等についてのアンケート調査を行っている。
今年は6月2日から同18日まで調査を実施。応援ボックスの申し込みがあった全国の7856世帯(子どもの総数約1万4000人)からオンラインで回答が寄せられた。質問数は全28問。
回答者の性別は女性が97.3%、世帯状況はひとり親が94.9%と圧倒的に多かった。回答者の年代は30代(30.8%)、40代(49.7%)など。
子どもの年代は0~2歳から高校生までと幅広い。世帯人数は平均3.1人。保護者の職業はパート・アルバイト(50.8%)、無職(専業主婦・主夫含む。
コメを食べない世帯の9割は「経済的理由」から
「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」国内事業部子どもの貧困問題解決事業プログラムマネージャーの田代光恵氏がアンケートの回答を詳述。コメ価格の高騰、物価の高騰が、経済的に困難な家庭の食生活を直撃している様子が明らかになった。「子どもが十分な量の食事をとれていると思いますか」という問いに対し、「朝食」を「あまりとれていない」「とれていない」という答えが合わせて49.1%。「長期休暇中など給食がない期間の昼食」は54.5%に上った。それぞれ、前年調査よりおよそ9ポイント増加している。
「食事が十分にとれていないことで、どのようにお子さんの成長や健康状態にマイナスの影響があると感じますか」(複数回答)の問いには、「体調を崩しやすい」(39.9%)、「子どもがやせている傾向にある」(38.9%)、「空腹でやる気が起きない、集中できない」(35.2%)、空腹でイライラする(32.2%)と続き、田代氏は「子どもたちの成長、健康状態にも大きな悪影響を及ぼしている」と指摘した。
アンケートでは、コメの摂取状況も問うた。
「過去1週間に、給食以外で子どもが十分な量の米(ごはん)を食べていると思いますか」の問いには、「あまり食べてない」「ほとんど食べていない」が合わせて43.3%となり、その理由としては「経済的な理由(米を買うためのお金がない、など)のため」が91.9%を占めた。
また、昨年同時期と比べて、「給食以外の食事で米を食べる頻度や量は減りましたか」の問いには、8割近く(76.2%)が「減った」「やや減った」と答えている。
「給食以外の食事で魚・肉をどの程度食べていますか」という問いに対しては、「ほぼ毎日食べている」は27.3%にとどまり、「ほぼ食べていない」(2%)の回答もあった。
田代氏は「コメに加え、たんぱく質の摂取も非常に減少している」と危惧した。
「子どものアルバイト代で米を買ってもらうようになった」
自由記述の回答では、「成長期の子どもが食べる量を減らし、痩せてしまった」「家賃、光熱費を滞納していていつ追い出されるかわからない。毎日空腹と不安で精神的にきつい」などの声が寄せられた。子どもの将来などに関しても、「来年度高校生になる子どもを学校に通わせることが難しい。高校を諦めるか悩んでいる」「高校生の子どもがアルバイトを頑張っている。運転免許を取るために貯金をしてほしかったが、お米を買ってもらうようになった」と悲痛とも言える声が届いた。
国への政策的要望として、「児童扶養手当を増額し、所得制限の上限も上げてほしい」という回答もあった。
「子どもの食について希望する支援は」(複数回答)の問いには、「定期的な食料品の送付やフードバンクや子ども食堂など、家の近くでの食糧支援」(72.6%)、「長期休暇期間中の昼食費の補助、食料品の配布」(68.7%)など、直接的支援を求める回答が多かった。
「与野党の立場を超えて政策の速やかな推進を」
オンラインで会見に参加した、沖縄大学の山野良一教授(社会福祉)は「子どもや子育て家族に『食』のクライシスが生じている可能性がある」と危機感を募らせる。さらに、食事の量が減ったことで、やる気・集中力の不足やイライラ感など、子どもたちの精神的な健康状態も悪化している結果が出たことを挙げて、「事態はより深刻だ。子どもたちの成長への影響が懸念される」と述べた。
会見の最後に川上国内事業部長は、アンケート結果を基に「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」がまとめた「提言」の趣旨などを語った。
提言の骨子は、①公的な食糧支援の整備・拡充、②給食の無償化と質の向上・昼食費の支援、③経済的に困難な子育て世帯への現金給付の緊急的・継続的な実施、④物価高騰に対応した思い切った生活支援策の検討、の4項目だ。
先の参議院議員選挙では、物価高騰への対応など子育て世帯の暮らしに直結する政策も各党が公約に掲げた。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。