一方で、電動キックボードをめぐっては利用者の交通違反や事故が問題視され、車のドライバーや歩行者からは「(道路区分を守らず)怖い」「取り締まりを強化してほしい」という声も絶えない。
片手運転で違反になるのはどんなとき? 法律上“アウト”のライン
「電子タバコを吸いながら、片手で電動キックボードを運転している人がいた……」弁護士JPニュース編集部にこんな目撃情報を寄せてくれたのは、都内在住の会社員Cさん。東京都内の道路で信号待ちのため停止していたところ、横に止まった電動キックボードの男性がおもむろに電子タバコをくわえはじめたという。
「信号が青になると一度は電子タバコを持った手をハンドルに添えて発進しましたが、またすぐにタバコをくわえ、片手運転で走行していました。あれではブレーキもまともに扱えないんじゃないかと怖かったです」(Cさん)
電動キックボードに限らず、タバコを吸いながらバイクや自転車に乗っている人は存在するが、 そもそも車両の“片手運転”は違反行為なのだろうか。
交通事故案件に注力する外口孝久弁護士は、「道路交通法(道交法)71条6号において、運転者は〈道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項〉を守らなければならないとされています」と説明。
その上で、東京都では公安委員会規則である「東京都道路交通規則」8条において、〈傘を差し、物を担ぎ、物を持つ等視野を妨げ、又は安定を失うおそれのある方法で、大型自動二輪車、普通自動二輪車、原動機付自転車又は自転車を運転しないこと〉と定めていると話す。
「こうした規定からすれば、やはりタバコを片手に持ちながら車両を運転することは道路交通法規に違反していると考えることができると思います」(外口弁護士)
片手運転が認められる「例外」もある?
しかし、実は道路交通法上、片手運転が“すべて”禁止されている訳ではないという。「運転中の携帯電話・スマートフォンの使用は道交法71条の5の5(運転者の遵守事項)において明示的に禁止されていますが、一般則を定めた同法70条(安全運転義務)の条文は、〈車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない〉と規定しているだけであって、すべての片手運転が禁じられているかといえばそうではありません。
そのため、公安委員会が定めない限りは“アウト”あるいは“セーフ”となる行為については明確な規則がなく、解釈に委ねられており、たとえば、そば屋の出前持ちのようなケースではこれに当たらないと解されています」(外口弁護士)
しかし実務上、安全運転義務違反に当たると解される行為は存在する。『執務資料道路交通法解説』(東京法令出版)を参考に、外口弁護士は分かりやすい「アウト」の例を以下のように挙げる。
- 両手放し運転
- バイクの座席に腹ばいになるなど、すぐにハンドルやブレーキを操作できないような不適切な姿勢での運転
- ブレーキとアクセルの踏み間違いによる暴走
- 遊び半分でハンドルを回したり、ブレーキを踏んだり離したりする運転
このような行為で道交法70条(安全運転義務)に違反すれば、3か月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金が科せられ(同法119条14号)、行政処分として違反点数2点・6000円の反則金が定められている(※電動キーボードの場合)。
また、片手運転が、「他の車両などの通行を妨げることを目的として、その車両などに交通の危険を及ぼすおそれのある方法で違反行為をした場合」に当たると判断された際には、より重い3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科せられることになっている(同法117条の2の2第8号チ)。
片手運転で事故を起こせば民事上の責任も…
さらに、片手運転のリスクとして忘れてはならないのが、事故の当事者となった場合の「民事上の責任」だ。外口弁護士は、「片手運転は、対歩行者の事故であっても、対車の事故であっても、ハンドル操作を確実にして運転するべき注意義務を怠ったとして、片手運転をした側の過失割合を大きくする要素になり得る」として注意を呼び掛ける。
改正健康増進法施行(2020年)後、受動喫煙対策の強化として喫煙スペースは減少。喫煙所を探しさまよう人々のことを指す「喫煙所難民」という言葉も生まれている。
そんな中で、車両を運転しながらタバコを吸うことは、風を切る解放感とも相まって、喫煙者にとっては抗いがたい誘惑なのかもしれない。しかし、法的リスクの大きい行為であることを忘れてはならないだろう。