沖縄県警は7月10日、指定薬物「エトミデート」を含む電子タバコ用のリキッド(液体)を所持していたとして16歳の少年を医薬品医療機器法違反の疑いで逮捕。同県では7月9日にも20歳の男2人が同様の容疑で逮捕されていた。

エトミデートは国内未承認の医薬品成分。海外では麻酔などに使用される一方、東南アジアを中心に電子タバコなどで吸引する麻薬として広がっており、意識障害や呼吸困難、手足のけいれん、泥酔したような状態などに陥ることから「ゾンビタバコ」と呼ばれている。

指定薬物に追加後、短期間で3人逮捕

沖縄県内ではこうしたエトミデートを含む電子タバコ用のリキッドが「笑気麻酔」などと呼ばれ流通しており、乱用事例が複数確認されていた。
厚生労働省は5月16日にエトミデートを指定薬物に追加。エトミデート自体やエトミデートを含む製品の製造、輸入、販売、所持、使用等が原則禁止となった。
地元沖縄メディア等の報道によると、10日に逮捕された少年は、6月5日に家族が警察に通報。9日に逮捕された2人は、5月26日にエトミデートを含むリキッドを所持していたところを警察が発見しており、指定後の短い期間で複数人が捜査の対象となり、逮捕されたこととなる。

指定薬物「“知らなかった”で済む可能性は極めて低い」

2014年に指定薬物の所持・使用等に罰則が設けられて以降、厚労省は年に数回程度、指定薬物を追加指定している。
もちろん、いわゆる「危険ドラッグ」やグレーゾーンな成分を含む物質をむやみに所持・使用するべきではないが、今回の「ゾンビタバコ」のように、自分が所持しているハーブやサプリメント、電子タバコのリキッドなどがある日、急に「指定薬物に追加されてしまう」という可能性も否定できない。
刑事事件に詳しい雨宮知希弁護士は「特に合法ギリギリのグレーゾーンな物質を所持する場合、そのリスクは高いといえます」としつつ、次のように述べた。
「まず、厚生労働省が新たに物質を指定薬物とした場合、政令施行日(効力発生日)から所持・使用・譲渡等が禁止されます。
所持などが禁止となるのは、政令施行日以降ですので、指定前に所持していること自体は違法ではありません。
しかし、指定後にそのまま所持していれば違法となり、『指定薬物所持罪(使用罪)』などが成立します(医薬品医療機器法76条の4、84条28号)」(雨宮弁護士)
ただ、雨宮弁護士によると、新たな成分の指定に関して、行政による周知が不十分なこともあるという。
では「指定されたと知らなかった」場合に、刑事責任は免除され得るのだろうか。

「原則として、『法律を知らなかったこと(法の不知)』は刑事責任を免れる理由にはなりません(刑法38条3項)。
ですが、『過失なく知らなかった』『故意がなかった』などが立証されれば、情状面として減刑の方向で考慮される場合があります。
それでも、法を知らなかったというだけで不起訴や無罪になる可能性は極めて低いです」(雨宮弁護士)

「事情によっては、初犯でも実刑判決を受ける場合も」

万が一、指定薬物の所持や使用で逮捕されてしまえば、3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金に処される恐れがある。
「指定薬物を所持していた場合、刑事処罰を受ける可能性は十分に高いといえます。
ただし、前科がない初犯であれば、罰金の略式命令や執行猶予付き判決になるケースが多いです。
しかし『多量に所持していた』『営利目的で所持していた』『所持歴が長い』『他の薬物と混在していた』などの事情があれば、実刑判決を受けることも十分にあり得ます。
そのため、下記のいずれかに該当した時点で、すぐに弁護士に相談することが極めて重要です。
  • 所持している物質が指定されそうだと知った
  • すでに警察に呼び出されている
  • 職務質問、事情聴取を受けた
  • 自宅への捜索・押収が行われた
  • 逮捕・勾留された
このような場合、弁護士への相談を通じて、不起訴処分を目指せる可能性や、過剰処分の防止等にもなり得ます」(雨宮弁護士)
とはいえ、自分の所持していた物が、指定薬物に加えられた場合、刑事処分を回避するためにも、政令施行日よりも前に処分してしまうのがベストなのは間違いない。
雨宮弁護士は「最も安全なのは、速やかな廃棄または警察への相談です」として、以下のようにアドバイスする。
「警察への届け出は義務ではありませんが『誤解を避ける・安心を得る』観点では効果的でしょう。
自分で廃棄する場合は、下水に流す、燃えるゴミとして処理する等の方法がありますが、成分によってはその処理方法が環境に悪影響を与える等、適切でないケースもあり得ます。
ですので、自治体の廃棄物処理センターや保健所に相談すると、安全かつ合法に処分できます。

ほかにも、不安があれば、最寄りの警察署または弁護士に相談し、法的なリスクを回避してください」(同前)


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