今年の夏休みに外出する人のうち海外旅行に行く人は13.5%と、昨年(7.3%)から約2倍に増加したことが、生命保険大手・明治安田生命のインターネット調査により明らかになった。
旅行会社大手・JTBが公表した旅行動向見通しでも、夏休み期間(7月15日~8月31日)の海外旅行者数は244万人(対前年120.8%)と推計されており、円安の中でも海外へ行く人は増加傾向にあるようだ。
同社によると、好調な行き先は「昨年度に引き続きハワイ、韓国、台湾やアメリカ」だという。
アメリカといえば、『あー夏休み』などのヒット曲で知られ、先月ハワイでライブを行ったロックバンド「TUBE」が、渡米直前まで公演に必要なビザの許可が下りないという予期せぬ事態に見舞われ、一時は開催が危ぶまれたことも大きな話題となった。
また、アメリカのビザをめぐっては、今年5月から一時的に学生ビザの新規面接予約が停止されたり、ハーバード大学など一部の大学で学生・交流訪問者プログラム(SEVP)認証の取り消しや、ビザの取り下げなど個別の問題も発生(※1)していることから、ネットやSNSでは、対外政策に強硬な姿勢をとるトランプ政権の影響を指摘する声もある。
こうした情報に触れて、夏休みに渡米する予定がある人の中には、不安を抱えている人もいるかもしれない。
※1 学生ビザについては、6月18日以降、面接予約の再開が各国の米国大使館・領事館に通達された。ただし、予約可能な枠は非常に限られていると言われている。ハーバード大学など一部大学における問題は、連邦裁判所による一時的な差し止め命令により、現時点では留学生も引き続き在籍できている状況

「トランプ政権だから」ビザ取得が難航?

「たしかに学生ビザの審査は以前に比べて厳しくなっています。しかし学生ビザ以外の一般的なビザ(観光ビザなど)やESTA(※2)について、日本人が取得しづらくなっているとの顕著な情報は、現時点では出てきていません」
※2 ビザ免除プログラム対象者が米国へ90日以内の観光・商用で渡航する際に必須の電子渡航認証
こう話すのは、アメリカの入管法に詳しいタイタノ誠・外国法事務弁護士だ。
TUBEはハワイ公演にあたり、芸術などの分野で卓越した能力や業績を有する人に発給される「O(オー)ビザ」または「P(ピー)ビザ」を取得したと考えられるが、その審査の遅延については、トランプ政権以前からの「あるある」だったという。
「たとえエージェントが『このくらい前に申請しておけば大丈夫』と言ったとしても、実際には遅延して想定の倍の期間を要した…という事態が発生することは、これまでも珍しくはありませんでした。
トランプ政権下では、ビザなどの審査をする米国移民局(USCIS)で大幅な人員削減が行われており、一部ではその影響を指摘する声もあるようです。
ただし前段の事情から、ビザ審査の遅延は以前から問題となっており、トランプ政権下での米国移民局の人員削減や、トランプ政権がUSCISの審査のスピードを落とすよう指示しているという情報もあることから、必ずしも“トランプ政権だから”遅延しているとは言い切れないと思います」(同前)
なお、4月にリークされた内部情報によると、トランプ政権はUSCISの人員の80%(約2万人)を削減しようとしているといった情報もあるという。

“犯罪者”や問題行動を起こす人物も警戒対象

トランプ大統領は「MAGA(Make America Great Again)」をスローガンに掲げ、アメリカの国益や安全保障を最優先とした考えのもと、あらゆる政策を推し進めている。
第一次トランプ政権下の2019年、米国務省はビザ申請時に、過去5年以内に利用したSNSアカウントの提出を義務付けたが、バイデン前政権を経て、現在もこの義務は継続中だ(ESTA申請者は対象外)。

「ビザ申請者に対するSNSアカウント提出の義務付けは、テロリストや安全保障上のリスクとなる人物の入国を防ぐのが狙いですが、最近は現政権にそぐわない思想や政治的・過激な発信に対しても、より敏感になっているとの話も聞きます。
また以前から米国政府は、犯罪にあたる行為についても非常に厳しい姿勢をとっています。SNSの監視も強化しており、入国後に問題を起こす可能性のある人物も警戒の対象となっている可能性がありますので、注意が必要です」(タイタノ弁護士)
日本人旅行者の多くは、渡米に際してビザではなくESTAを利用するだろう。前述のように、現時点で日本人のESTA取得のハードルが上がっているとの情報はないというが、今後、影響が出てくる可能性はあるのだろうか。
「ないとは言い切れません。しかし、日本人は他国と比べてESTAでの入国後にオーバーステイや消息不明になるケースがかなり少ないため、米国政府による規制強化の優先順位は低いと考えられます」(同前)
その上で、日本人はむしろ、現地到着後に入国拒否されるケースがしばしば発生しているとタイタノ弁護士は指摘する。
「コロナ禍以降、日本から売春や水商売を目的にアメリカへ出稼ぎに行く日本人が増加していると言われています。アメリカ側も、そうした目的で一部の日本人が渡航していることを認識しており、警戒を強めているようです。
その結果、過剰な警戒によって、まったく関係のない日本人まで入国拒否される事例も報告されています。これは、前政権時からの継続的な問題です」

入国後は「I-94」を印刷して肌身離さず携帯を

入国拒否される事例の報告はあるものの、現時点で日本人が観光目的でビザやESTAを取得することについて、深刻な問題が発生しているわけではない。しかし、タイタノ弁護士は「旅行中に注意すべきこと」について呼びかける。
「周知の通り、現在アメリカでは、米国移民関税執行局(ICE)による不法移民の取り締まりが非常に強化されており、現地では日本人を含めて“合法的に”滞在している人でも、誤認摘発されるのではないかとの不安が広がっています」
今年4月には大統領令に基づき、アメリカに30日以上滞在する14歳以上の外国人に、外国人登録および指紋採取が義務付けられた。
また18歳以上の外国人は、アメリカの国土安全保障省が発行した登録証明書の常時携帯も義務化され、違反した場合は罰則が科されるという。
「この大統領令での登録が義務付けられたのは、ESTAやビザを取得していない、主に不法移民に該当するケースですが、この登録義務とは別に、法律上、米国滞在中の外国人は、常に自身の在留資格を証明するエビデンスの携行が求められています。
ただし、過去の政権はこの義務の取り締まりに力を入れていませんでしたが、現政権は力を入れています」
こうした事情から、タイタノ弁護士は、短期滞在の観光客であっても、自身が合法的に滞在していることを常に証明できるよう対策しておくのが安心だとして、たとえばESTAで入国したケースではI-94を入国後に印刷して肌身離さず携帯するよう推奨する。
「I-94は昔はパスポートに貼り付けられていたため、I-94を携帯するためにパスポートを携帯する必要がありましたが、近年はI-94が原則デジタル化されたことから、パスポートを必ずしも携帯する必要がなくなりました。
今まではあまり一般的ではありませんでしたが、米国移民法やトランプ政権の取り締まりを考慮し、入国後にI-94を印刷して紙ベースで携帯しておくのが安心かと思います」
>>入国後に滞在期間が確認できるI-94のダウンロードはこちらから:https://i94.cbp.dhs.gov/search/recent-search
アメリカでは現在、外国人に対する規制や対策が過去に例を見ないスピードで変化していると言えるだろう。 渡航予定がある場合、最新の情報にも十分注意を払ってほしい。


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