あくまで個人間の色恋沙汰、個人のモラルの問題とされる「不倫」が、なぜこれほどまでに注目を浴びるのか。本連載では、不倫を単なる個人の問題としてではなく、「社会の問題」として考える。
第2回では、法律上、不倫(不貞行為)がどう考えられているかを改めて俯瞰し、その“コスト”を洗い出す。(連載第1回はこちら/全5回)
※この記事は坂爪真吾氏による書籍『はじめての不倫学 「社会問題」として考える』(光文社)より一部抜粋・構成。
不倫が法的に問題とされる理由
法律上、不倫は不貞行為(貞操義務の不履行)であり、民法上での「不法行為」に該当する。不貞行為とは、「一夫一婦制の貞操義務に忠実でない一切の行為」であり、裁判においては「配偶者のある者が、自由意思で、配偶者以外の異性と肉体関係を結ぶこと」と解されている。
不貞行為の範囲には、性交そのもの以外に、オーラルセックスやペッティングなどの性交類似行為も含まれている。キスや手つなぎ、抱擁は不貞行為には該当しないとされているが、厳密な線引きはなく、ある行為が不貞行為に該当するか否かは、個々の事例状況と頻度に応じて決められる。
なお、行為に及んだ動機は不貞行為か否かの判断には影響しないので、酔った勢いでの性交や性風俗店での性交も不貞行為になる。
不倫をされた側は、夫婦で平和な共同生活を送る権利を侵害されたことになり、民法第709条(不法行為による損害賠償)を法的根拠に、不倫をした側とその相手に対して損害賠償を請求できる。
なお、一度きりの性的交渉も不貞行為とされるが、離婚理由になるには反復的に不貞行為を行っていることが必要とされる。ちなみに風俗嬢や風俗店に対しては(自由意思ではなく金銭を介した関係なので)慰謝料請求はできない。
現在の民法下での裁判では、夫婦の共同生活の平和を保護すべき利益と考える。
不倫と知って肉体関係を結んだ者は、平和な夫婦生活を送るという権利、またはそれに伴う利益を侵害したとみなされる。ゆえに不倫は不法行為であり、配偶者の権利を侵害し精神的苦痛を与えた不倫相手は慰謝料を支払う必要がある、という論理だ。
ちなみに夫婦関係が破綻した後に不倫が始まった場合は、配偶者の利益の侵害にならないので、夫婦間及び不倫相手に対する慰謝料の支払い義務は発生しない。戦後以降は、家父長制度の維持から夫婦の共同生活の平和に保護すべき対象が変わったのである。
不倫の法律的コスト=慰謝料の相場はいくら?
不倫の慰謝料は精神的苦痛に対して支払われるものであり、金額の相場は個々の事情(加害者側の過失の有無、交際期間や肉体関係の回数、支払い能力や財産状態、職業や社会的地位、被害者の精神的・肉体的苦痛の程度、夫婦関係の破綻の度合い、被害者の過失の有無など)によって変動する。現在の判例では、不倫をした配偶者だけではなく不倫相手にも慰謝料の支払い義務を認めている。しかし、これに対しては批判も多い。貞操義務を破った一義的な責任は不倫をした配偶者側にあるという意見や、公権力が夫婦以外の第三者の恋愛にまで関与すべきではないという意見もある。
不倫相手の支払う慰謝料(一般には100万~200万円程度)が、不倫をした配偶者側の支払う慰謝料(離婚の場合、慰謝料と財産分与のトータルで300万~400万円程度)よりも少ない傾向にあるのは、こうした意見への考慮があると思われる。
慰謝料請求に関しては、弁護士費用(着手金や報酬金)、訴状の印紙代、不倫の証拠を押さえるための調査会社への費用など、かなりのコストがかかる。費用倒れになることもあり、仮に勝訴したとしても、それまでに費やした精神的・経済的コストを考えれば、不倫をされた側は失うものが圧倒的に大きい。
一方あなたが独身で「不倫相手」である場合、不倫の法的・経済的コストは、せいぜい100万円程度である。
もちろん、それ以外に様々な精神的・社会的コストを支払う必要が生じる場合もあるが、不倫セックスの麻薬的な魅力を鑑みれば、「その程度の負担で済むのならば安いものだ」と考える人が出てきてもおかしくない。
なお、不倫の時効(不法行為による損害賠償請求権の時効消滅)は、不倫をした時から20年、あるいは不倫相手が判明した時から3年の、いずれか短い方である。つまり最短で3年、最長で20年は裁判沙汰になるリスクと隣り合わせで過ごすことになる。
(第3回に続く)