障害児者(障害児・障害者)の保護者や支援者による団体「くわのこの会」が7月31日、障害児者見守り支援体制の構築を求める要望書を厚生労働省と子ども家庭庁に提出。同日、都内で会見を開いた。

会長の新島紫(にいじま・ゆかり)氏は「障害児者の保護者に聞けば、多くの人が大なり小なり、自分の子が行方不明になった経験があると思う」と述べ、障害児者の行方不明事案に関する全国実態調査の実施や警察・消防など行政内での連携・協力体制の明確化などを訴えた。

障害児者の行方不明「明日は我が子かも」

くわのこの会は現在、東京都八王子市を拠点に約40人で活動している。
同市では昨年、特別支援学校に通っていた16歳の男子生徒が、自宅から行方不明になり、6日後、遺体で発見されるという事件が発生。のちに、男子生徒はバスや電車を乗り継ぎ広範囲を移動していたと判明している。
このとき、保護者から行方不明届が出され、防災無線での呼びかけや、家族・市民による必死の捜索が行われたが、一方で、交通機関や商業施設等との情報共有は十分ではなかったという。
10年前にも、同様の痛ましい事件が八王子市で発生しており、くわのこの会は「こうした悲劇を二度と繰り返してはならない」として今回要請書を提出するに至ったとしている。
子ども家庭庁が2022年度に実施した調査によると、放課後等デイサービスなどの福祉施設から障害のある子どもが行方不明となった件数は、年間160件超に上るという。
「子どもが突然いなくなるという事態は、どの親にとっても想像するだけで胸が張り裂けそうになると思います。それが障害のある子どもの親であればなおさらです。
障害のある子どもを育てる多くの家庭では『明日はわが子かもしれない』と日々感じながら暮らしているのが実態です」(新島会長)
実際、今回くわのこの会が会員を対象に実施したアンケート調査でも、保護者からは「瞬(まばた)きをした瞬間に子どもが居なくなった。自責の念と罪悪感でいっぱいだった」「一時も目を離せず、買い物もできない。生活は通販頼み」といった声が上がったという。
「障害のある子どもたちは、興味のまま動いてしまう場合があります。
発見が遅れれば、車道に飛び出す、川に落ちる、熱中症や低体温症など、命に関わるリスクも現実のものとなります。
障害児者の行方不明は家庭だけの問題ではありません。障害児者本人が、自分で助けを求めるのは難しいからこそ、地域や商業施設、交通機関、警察など社会全体での見守り体制が必要です」(同前)

「障害児と障害者の間でも対応に差」

また、会見で新島会長は「障害児の場合は、小さい子どもが行方不明になるなどして、世間から注目を浴びることもあるが、障害者の行方不明事例は、それと比べると大きな差がある」と指摘。これについては、会見に同席した、くわのこの会の伊藤優子副会長がこう続けた。
「当事者が障害者の場合、警察に『家出人』として処理され、十分な捜索が行われないケースも少なくありません。
本人に家出の意思や判断能力がない場合でも、警察に『本人が勝手に自分の判断でいなくなった』とみなされてしまうと、即時に対応してもらえません。これは命に関わることで、問題があると思います」

見守りのための制度整備や連携体制の構築要請

今回、くわのこの会は厚労省に対して、以下の8点を要請。
  • 障害児者が行方不明となった際、「家出人」として扱われ捜索が遅れる事例の是正
  • 障害児者の行方不明事案に関する、全国的な実態調査の実施(自宅からの事案を含む)
  • 「見守り・SOSネットワーク」(※1)などの見守り体制の対象に、障害児者を含める制度設計。情報連携やシステム整備、人材配置等に関する市区町村向け補助制度の創設
  • 「見守り・SOSネットワーク」の障害児者への活用状況や課題について、市区町村を対象とした、全国的な実態調査の実施
  • その調査結果を踏まえた、障害者への「見守り・SOS ネットワーク」活用についての市区町村への通知・促進・ガイドラインの整備
  • 公共交通機関・商業施設(JR・私鉄・バス・タクシー会社・コンビニエンスストア等)との情報共有・連携体制の構築
  • 行政内(警察・消防・福祉主部署)および関係省庁の連携と協力体制の明確化
  • 「みまもりあい」アプリ(※2)等のICTを活用したツールの導入と普及支援
  • ※1 認知症等高齢者の行方不明防止や、早期発見のために、警察や自治体、家族、協力団体等が連携して構築するネットワーク
    ※2 一般社団法人セーフティネットリンケージによる「みまもりあいプロジェクト」が運営するアプリ。認知症による一人歩き等で家に帰れなくなった高齢者の捜索依頼を家族等が発信し、協力者が受信することで、早期の発見・保護につなげるもの
要望書を受け取った厚労省・子ども家庭庁側の受け止めについて、新島会長は次のように明かした。
「国側からは『施設でのガイドラインの整備など、国の立場でできることを働きかけていく』『先進的な取り組みを実施している、天理市や釧路市、岡山市などの事例をモデルケースとして、各地に広げていくのがよいのではないか』といった、ざっくりとした話はありました。
ただ、そうしたモデルケースにあげられた自治体で、どのような取り組みが行われているのか、実際に機能しているのかは不明です」
障害児者の行方不明は当事者とその家族にとって喫緊の課題であり、国や関係機関による見守り支援体制の早急な構築が求められている。


編集部おすすめ