そんな季節に問題となるのが汗のにおい。自分では気づきにくいものだからこそ、無自覚に周囲に不快感を与える「スメルハラスメント(以下、スメハラ)」につながる可能性もある。
SNSでも、「マジ地獄」「鼻もげそう」など職場の汗のにおいに辟易する声が散見されるが、スメハラは、本人に悪気がないだけに指摘しづらい。周囲や会社は、どのように対処すればよいのだろうか。
「スメハラ」会社側の対応義務は?
「会社は従業員のスメハラに対して、安全配慮義務・職場環境配慮義務に基づき対応を検討する必要があります」こう説明するのは、労働問題に詳しい松井剛弁護士。具体的な対応について、次のように続ける。
「スメハラの事実が確認された場合、会社はにおいを発している従業員にその事実を指摘し、自覚・改善を促すことを検討します。
その際、改善策として、においの原因に応じて着替えの励行や通院の検討など、具体的な提案をすることが考えられます。体質的な問題や病気が原因である可能性も考慮し、病院での受診をすすめたほうがいいケースもあるでしょう」
ただし、このとき会社側が最大限に気をつけなければならないのは、プライバシーへの配慮だ。
「においについて当該社員に指摘する際には、必ず個別に、適切な場所と方法で伝えることが不可欠です。大勢の前で指摘したり、侮辱的な言葉を使ったりすることは、それ自体がパワハラなどのハラスメントに該当する可能性があります。あくまで客観的な事実を伝える範囲にとどめるべきです」(同前)
当該従業員の努力にもかかわらず改善が見られない場合、配置転換もひとつの選択肢にはなり得るが、慎重な対応が求められるという。
「配置転換の有効性が法的に問題になることもありますし、そうでなかったとしても単に“被害者”が変わるだけで、根本的な解決にはならないかもしれません。
職場のにおい、どこに相談すればいい?
現に、職場で他の従業員からのスメハラに悩んでいる人はどうすればよいのだろうか。松井弁護士にアドバイスを求めた。「通常は、まず直属の上司に相談します。勤め先にハラスメント相談窓口などが設置されている場合は、そちらへ問い合わせてもいいでしょう。スメハラはパワハラ、セクハラなどの一般的なハラスメントとは異なりますが、問題解決に向けたヒアリングや対応策の検討など、共通する部分も多いため、相談先として有効だと思います」
相談後、もし会社側がスメハラの対応を怠った場合、被害を受けた従業員が会社へ損害賠償請求できる可能性はあるのだろうか。
「ゼロではありませんが、においは視覚や聴覚に比べて立証が非情に困難なので、現実的にはハードルが高いと考えられます」(同前)
汗のにおいだけでなく、柔軟剤や香水などに含まれる合成香料(化学物質)によって頭痛や吐き気を引き起こす「香害」に悩む人もおり、厚労省や地方自治体などの行政機関も近年、注意喚起を行っている。
「健康被害という明確な影響がある場合は、会社への損害賠償請求が認められる可能性は高まります。ただし、においによって健康被害が現れる可能性があることがあらかじめわかっている場合は、入社時に会社へその事実を伝えておくことが望ましいでしょう。一方で、会社が対応できる範囲には限界があることも理解が必要です」(同前)
スメハラ防止のために会社ができること
スメハラの発生を未然に防ぐため、会社が日頃からできる有効な予防策や啓発活動には、どのようなものがあるのだろうか。「まず、スメハラの定義や影響、対策に関する情報を社内に周知することが重要です。周知する方法としては、社内ポスターの掲示やリーフレットの配布、全社員向けの一斉メール送信などが考えられます。
また、ハラスメント研修の議題のひとつとしてスメハラを取り入れることも、従業員の意識向上を図るにあたって有効ではないでしょうか」(松井弁護士)
スメハラはデリケートな問題だけに、対応も難しい。だからこそ、適切な段階を踏んで問題解決に望むことが求められるだろう。