
今回の参院選に関してはすでに7月22日、広島でも同グループの石井誠一郎弁護士らが広島県選挙区の選挙無効の判決を求め、広島高裁に提訴している。
なお、同月22日に他にも「投票価値の平等」「一票の格差是正」を求める「升永グループ」(升永英俊弁護士、久保利英明弁護士らが主導)が選挙訴訟を提起している。
提訴後の記者会見で、三竿弁護士は、「国会で多数決を行う際に国会議員が投じる一票は同じ価値、つまり、同じ数の国民を代表していなければならない」と訴えた。
最高裁判決は「是正への取り組みが進展していない」と指摘
原告ら「三竿グループ」は、故・越山康弁護士らが1960年代から始めた、参議院議員選挙のたびに「定数是正訴訟」を起こす活動を引き継いでいる。請求はすべて棄却されてきたが、判決理由中で裁判所の判断が示されることにより、議員定数不均衡の是正に寄与してきた実績がある。
すなわち、裁判所は一貫して国会の裁量を広く認めるアプローチをとりつつ、たびたび判決理由中で選挙を「違憲状態」「違法」と評価するなど、国会に対する警告を行ってきた。それを受けて国会が法改正を行い、議員定数不均衡が少しずつ是正されてきたといえる。
今回の選挙が依拠した、現行の参議院の選挙制度は、2018年の公職選挙法改正で定められたものであり、その下ですでに今回も含め3回の参院選が行われている。そして、過去2回(2019年、2022年)の参院選について三竿グループの提起した選挙訴訟では、最高裁判決は、いずれも、国会の「較差(こうさ)」の是正への取り組みが進展していないと指摘している。
議員の定数配分が「人口比例」になっていない
現行の参議院の選挙区選挙は、選挙区を原則として各都道府県単位とし、「鳥取県と島根県」、および「高知県と徳島県」についてはまとめて1選挙区とする「合区」を行っている。また、人口の多い都道府県については改選議席の定数を複数人に設定している(北海道3、茨城2、千葉3、埼玉4、東京6、神奈川4、静岡2、愛知4、兵庫3、大阪4、兵庫3、広島2、福岡3)。
三竿弁護士:「議員定数は、人口に比例して配分されるべきであるにもかかわらず、それがなされていない。
たとえば、国会議員の1人が20万人から、1人が100万人から選ばれている場合、それらを同じ1票と扱い多数決を行うことは、民主主義とはいえない。
しかも、同じ『選挙区選挙』なのに1人区と複数人区を混在させているのはどう考えてもおかしい。1位でなければ当選できない選挙と、6位に入ればいい選挙とでは、候補者の戦い方も有権者の側からの選び方もまったく違う」
三竿径彦弁護士(7月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)
「手続きの違憲性」も無効原因に
原告は、定数配分自体の違憲性に加え、「手続きの憲法違反」「国会の不作為の憲法違反」も併せて主張している。「手続きの憲法違反」は、国会・内閣や与党がたびたび国民に対する約束をしたにもかかわらず、それが履行されなかったこと、討議違反、立法目的の不存在(党利党略による立法)などをさす。
また、「国会の不作為の違憲性」は、国会が裁判所から議員定数格差の是正を行うべく指摘を受けているにもかかわらず法改正が行われていないことをさす。
三竿弁護士:「2018年の法改正後、2回の選挙を経て、そのたびに選挙訴訟で最高裁から改善するよう指摘されているにもかかわらず、国会は法改正をせず、まったく同じ法律のまま選挙が行われている。
特に、2022年の選挙について最高裁は強い調子で改善を促したが、まったく改善されないままに選挙が行われてしまった」
國部徹弁護士は、国会での議論が本質を外れていると指摘した。

國部徹弁護士(7月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)
國部弁護士:「参議院での選挙制度改革に関する審議に招かれた学者が、最高裁判決を評して、現在の都道府県の枠組みにこだわった現行の方式には限界があり、このままではダメだとのメッセージを出していると厳しく指摘している。
ところが、『合区を解消する』ことで意見が一致したのみで暗礁に乗り上げている。解消すべきは合区ではなく、不平等の問題だ。合区にするか否かは不平等解消という目的のための手段にすぎない。
『ブロック制』(※)などの方法も考えられるにもかかわらず、都道府県ごとの区割りに固執し、結局議論が煮詰まらなかったからと言って、そのまま選挙が行われている。
それでも国会は『一生懸命議論したけど成案を得るに至りませんでした』と、今までのように最高裁から『また次は頑張りなさい』という判決をもらえると甘く考えているのではないか」
※2県合区以上の近隣県を合わせたブロックを選挙区とし、人口に比例した議員定数を割り振る方式(大選挙区制)
森徹弁護士は、国会の「約束違反」と消極的態度を批判した。

森徹弁護士(7月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)
森弁護士:「公職選挙法の2012年改正法と2015年改正法と、2回にわたり『付則』を設け『抜本的見直し』を行うと定めたが、いずれも結局、反故にされた。
2018年改正の際は、付則よりも格下の『付帯決議』にとどめており、しかも、2022年に最高裁判決が出た後も、参議院として改革しようとする動きがほとんど見られない。改革することを放棄したとしか受け取りようがない」
現行の選挙制度は「自民党を支えるための制度」
今回の訴訟では、比例代表選挙の「特定枠」の違憲性も主張されている。参院選の比例代表選挙ではかつて、投票用紙に政党名のみを書かせ、政党が決めた順位に従って議席を配分する拘束名簿式が採用されていたが、2000年に、政党名だけでなく候補者個人名も書くことができ、得票数の順に議席を得させる非拘束名簿式が採用された。
そして、これに加えて2018年改正の際に導入された「特定枠」の制度は、各政党が非拘束名簿とは別に、優先的に当選人となるべき候補者を指定できるというものである。これは、部分的に拘束名簿式を復活させたものといえる。なぜ、このような分かりにくい制度になったのか。
山口邦明弁護士はこの「特定枠」の違憲性について、以下のように問題点を指摘した。

山口邦明弁護士(7月30日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)
山口弁護士:「(2000年より前の)拘束名簿式の下では、自民党が比例代表選挙で獲得できる得票数が、全国の選挙区選挙で獲得できる得票数の合計より500~800万票も少なかった。
そこで、『政党名だけでなく個人名も書けるようにすれば自民党の票が増える』ということで、2000年に非拘束名簿式を採用し、個人名の票が多い候補者から当選する制度にした。
特定枠は、2018年の法改正の際に4県を2合区に編成し、そこであぶれた自民党議員を救済するために設けたといえるもの。
いずれも、自民党一強時代に、自民党に有利に作られたものだ。昨年の衆院選、先日の参院選を経て、自民党が支持を失っているのに、この期に及んで自民党を支えるための選挙制度を続ける意味は、もはやない」
※2019年の参院選の特定枠では島根県出身の候補者と徳島県出身の候補者が立候補して当選、これと対をなして選挙区で鳥取県出身の候補者と高知県出身の候補者が当選。