「協調性がない」
「コミュニケーション能力が低い」
上司が部下に対して抱く不満の高順位に位置しているものだが、これらの理由で従業員を解雇することは法的に許されるのか。
今回取り上げるのは、あるスポーツ大会運営団体が、社員Aさんに対して「協調性欠如」を理由に解雇を通告したところ、裁判所がそれを「無効」と判断した事件だ。
(東京地裁 R6.4.24)
以下、詳細を解説する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

会社は、あるスポーツ大会を運営している社団である。全体の職員数は約7名という少人数体制であった。Aさんはスポーツ大会の運営事務に従事していた従業員である。
Aさんは入社から約5年後、上司に対して自らの待遇についての不満を繰り返し述べていた。Aさんの年収は約360万円だったが、会社への貢献度に対して「給料が低い」と感じていたのである。
不満が募ったことで、会社とAさんとの間にさまざまな軋轢(あつれき)が生じたのだろうか。会社はAさんに対して、次の事由とともに解雇を通告した。
  • Aさんから「退職したい」との申し出があり、会社が退職に向けた事務作業を進め始めた後に、Aさんが翻意して混乱を生じさせた
  • Aさんは、組織内における相互協力意識が欠落し、コミュニケーション能力が低く、事務局長からの再三の注意にもかかわらず改善されなかった
これを受け、Aさんは「解雇は無効である」と主張して裁判を起こした。

裁判所の判断

Aさんの勝訴だ。裁判所は「解雇は無効」とした。
裁判を通して、会社はAさんの主張に対し次のように反論していた。
  • 会社は少人数体制であり、業務多忙時、特にスポーツ大会の準備運営時には事務局員の相互協力が必要不可欠であり、職員同士が助け合う協調性が求められる
  • Aさんは、就職して以来一貫して他の職員らとコミュニケーションを取ることがほとんどなく協調性に欠け、自己判断した仕事の範囲にこだわって他の職員との協力、共助の意識も見られず、上司に対して非礼な態度や言動が顕著であった
  • Aさんは、局長から再三注意・指導を受けたにもかかわらず改善が見られなかった
これに対して、裁判所は以下のように判断した。
  • たしかに、会社の主張するとおり会社は少人数体制であり、社員同士の協調性が求められていた
  • 上司の言い分によれば、Aさんが上司にあいさつをしないことがあり、ささいなことで不機嫌になったり、出張時の旅費精算について自分勝手な申し出をしたりするなど、周囲との協調性に欠ける面があったことが認められる
  • 特に解雇される約3か月前には、周囲との協調性や上司らに対する礼儀や配慮に欠ける面があった
  • しかし、自らの守備範囲と考える業務は特段の問題なく遂行し、会社のインスタグラムを更新するなどしていた
  • 上司もAさんの事務処理能力はプラス評価していた
  • 上司からの指導に対して反省ないし改善の意思を示すメールを送っていた
その上で裁判所は、「これらの事実に照らすと、Aさんが周囲との協調性に欠けることや、Aさんの言動により繰り返し不快な思いを抱かされていた上司においてAさんに十分な改善の姿勢があると捉えなかったことについては一定程度理解できることを踏まえても、Aさんが会社の業務を行うための技能が低劣であり、会社の業務の遂行に必要な能力を欠いていたとまではいえない」として、「解雇は無効」と結論付けた。

■ バックペイ(過去の給料の支払い)
「解雇が無効」と判断されたことに伴い、裁判所は会社へ、Aさんに対する賃金の支払い義務、いわゆるバックペイの支払いを命じた。解雇が無効となれば、会社は、解雇から判決確定日までの間の賃金を支払わなければならない。今回の事件では、毎月30万5000円×約1年7か月分=約579万5000円だった。

最後に

本件は、たとえ協調性やコミュニケーション能力に問題がある社員であっても、直ちに解雇が正当化されるものではないことが示された。
職場の雰囲気や人間関係はたしかに重要だが、それらは客観的に評価することが難しい。だからこそ、労働法制は解雇を「最後の手段」と位置付けており、安易な解雇には厳しくブレーキをかけている。
会社が従業員の問題行動を理由に解雇する場合、事実の裏付け、段階的な注意・指導、改善機会の付与などステップを踏む必要がある。


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