元市長、伊東市長に「証明できないものは書くべきではない」 “経歴詐称疑惑”切り抜け5期19年…引退した今だから言えること
5期19年、千葉県鎌ケ谷市の市長を務めた清水聖士(きよし)氏が7月に発刊した著書『市長たじたじ日記』(発行:三五館シンシャ)が注目を集めている。長期政権となった市長時代の裏話を包み隠さず明かす内容は、政治不信が高まる昨今にあって、痛快でさえある。

同書には、清水氏自身が巻き込まれた「経歴詐称」疑惑も生々しく記載。発生の経緯から、どのように切り抜けたのかまでが詳しく明かされている。
清水氏は2021年に市長を退任し、同年10月の衆院選に立候補して落選。その後は選挙に出馬していない。現在、政治家としてひと区切りをつけ、「怖いものはない」という清水氏に、著書、そして、一連の伊東市長騒動についてもズバリ聞いてみた。
※公職選挙法の「虚偽事項公表罪」(同法235条1項)の解釈については、清水氏の個人の見解を尊重し、そのまま掲載した。

国民が政治に飽き飽きしている

著書には、軽妙ながらも、「そこまで書くのか」というくらい市長時代の裏話が赤裸々に描かれています。

清水氏:いま、国民が政治に飽き飽きしているような状況です。
19年間鎌ケ谷市長を務めましたが、こんな私でも、普通の人並みに喜んだり後悔したり笑ったりする人間らしい側面がある。そうした部分を読者の皆さんに分かってもらいたいとの思いがあり、政治家として区切りもついたので、当時のことを遠慮・忖度(そんたく)なしにしたためました。
自治体の長ともなると、市民からすればかなり距離があると思われているかもしれませんが、やっているのは同じ生身の人間。そのことを少しでも理解してもらえればという思いが大きかったですね。
また、4年前の衆議院選挙で落選してから、街を歩けなかった。
終わり悪ければすべて悪し。19年も市長をやってきた者としては、鎌ケ谷でさえトップを取れなかったことが非常にかっこ悪くて…。この本を出すことで、「清水さんは今でも元気でやっているんだ」と市民に認識してもらいたいという思いもありましたね。

証明できない経歴は書くべきでない

著書には、ご自身の身に降りかかった怪文書や経歴詐称の話も出てきます。折しも、伊東市の市長が大きく騒がれていますが、経験者としてあの騒動をどのようにみられているのですか。

清水氏:チラシにせよなんにせよ、もし田久保市長が本当に「東洋大学卒業」ということを記載していたなら、愚かだと思います。経歴に限らずですが、証明できないものは書くべきではないからです。

そもそもターゲットにされやすい政治家のタイプというのはある?

清水氏:やはり政治的な対抗勢力が強いほど、狙われやすいと思います。
私も最初の市長就任時には大半が対抗勢力でした。 また、海外の経歴を適当に書いてしまうと、そこは追求されやすいです。立候補する側は海外の事だからごまかせると思っても、対抗勢力はどんな手を使っても暴き出そうとしますからね。

清水さんの場合は結論から言えば、「経歴詐称」ではありませんでしたが、やはり少しは盛った?

清水氏:よりよく見せたいとは思いましたが、盛ったつもりはないです。鎌ケ谷市長選に立候補する前、私はインドの首都ニューデリーで日本国大使館の一等書記官として働いていました。それをチラシにも記載しました。
ただ、この「一等書記官」というのは少しややこしいんです。

外務省に「ローカルランク」という制度があります。外務大臣の許可があれば、一階級上の職位を対外的には名乗ってよいという制度で、許可する旨の訓令の公電が外務省から来たので、元々二等書記官だった私は、インドでは対外的に「一等書記官」と名乗っていました。
しかし、外務省本省の人事記録には元々の「二等書記官」と記載されています。当時、私の対抗勢力だった自民党の秘書がその記録を調べ、経歴詐欺だと考え、鬼の首を取ったように問題にしたのです。

どのように経歴詐称疑惑を切り抜けたのか

議会ではどのように経歴詐称疑惑の追及を切り抜けたのですか。

清水氏:議場で「外交旅券」を示しました。「外交旅券」は外交官に対し、外務大臣が発給するパスポート。そこには「官職」として「一等書記官」と記載されています。

つまり、外務大臣のお墨付きだったわけです。
当時、私の経歴詐称疑惑は市内でも大きなうわさとして広まりつつありましたので、その議会のやりとりも注目されていましたが、明確に証拠を示したことで答弁の後半には批判の矛先も弱まり、一般質問の制限時間60分は終了。その後、反対派議員も勝ち目はないと判断したのか、それ以上追及してきませんでした。
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自身の経歴詐称疑惑は鮮やかに切り抜けた清水氏

やはり証拠は強い。

清水氏:だから、もし田久保市長が本当に東洋大学卒業ということをチラシ等に記載していたなら、愚かなんです。
証明できない事柄は書くべきではありません。自分の首を絞めるだけです。
ましてや東洋大学卒業というのは簡単に調べられる経歴ですから。
ただ、選挙に詳しい人の間では常識とされていることですが、経歴詐称が公職選挙法の虚偽事項公表罪にあたるかどうかというのは、選挙公示後に新聞折り込みで入る「選挙公報」が一番重要なんです。「選挙公報」は候補者本人の責任で作って選管に提出する物ですから。
それ以外の、たとえば新聞社のアンケートなどは本当に山のように新聞社から依頼が来るので、通常は候補者本人ではなく周りのスタッフが記入する物で、出馬決定直後のバタバタの中でスタッフが書いてしまった可能性はあるかと思います。
基本的に、選挙公報にウソが書いてなければセーフになるケースが多いんです。

田久保市長の経歴は選挙公報には一切記載がありません。二転三転したものの、辞職しないと強気なのは、「セーフ」だと確信しているからなのでしょうか?

元市長、伊東市長に「証明できないものは書くべきではない」 “経歴詐称疑惑”切り抜け5期19年…引退した今だから言えること

選挙公報には経歴は記載されていない(伊東市長選挙公報より)

清水氏:その可能性もあるかと思います。実は私も、この問題がここまで拡大する前、選挙公報に「東洋大学卒業」と書かれていないことを知った時点で、これはセーフではないかと思い、伊東市役所にメールを送ったことがあるのです。
田久保市長がそのメールを見たのかは分かりませんが、先週木曜日になって辞職の意向を撤回しました。選挙公報にうそを書いていないという点は‟事実”だと思います。

なぜ市長の地位にしがみつくのか

これまでの対応を見る限り、田久保市長の言動は行き当たりばったりで、市民を混乱させているようにも見えます。

清水氏:卒業証書もどきの物をチラ見せしたのは言語道断ですね。繰り返しになりますが、証明できないことは言ったり書いたりしてはいけません。

それでも彼女がなぜ辞めないのかは、シンプルに、ここで辞めたら政治生命が終わりだからでしょう。その後、市議にすら戻れない可能性が高い。だからしがみつくしかない。
市長選の再選挙になればたぶん落ちますから、いやが応でも法廷闘争をして4年間頑張ることを目指すしかないと考えているのではないでしょうか。
その後の4年間に劇的な成果をあげれば、情勢が一変する可能性もゼロではありませんから。また、公職選挙法の虚偽事項公表罪の疑いについて裁判で争うなら、選挙公報に虚偽事項を記載していないことなどが有利に働く可能性がなくはありません。
ただ、今では、経歴詐称以外にも、有印私文書偽造・同行使罪の疑いがあり、百条委員会の件や不信任決議案が行われる可能性もあるので、極めて不利な状況であることは否めないと思います。

著書には「終わり悪ければすべて悪し」と、記しています。それでも5期19年は長期政権。長く支持され続けた秘訣(ひけつ)はなんですか?

清水氏:自分の政策に対してかたくなにならないことです。
市長だからといって、自分の理想に固執して議会と激しく対立するのではなく、ある意味妥協しつつ、議会と連携しながらやっていくことが、長く続ける秘訣(ひけつ)ではないでしょうか。市長といえども、自分一人では何もできないわけですから。
バランスと調整力、そして優秀な参謀として副市長の存在も重要だと思います。

昨今はSNSを中心に、選挙情勢に影響するほど、情報の流通がネットにシフトしています。本当に有権者が自身の思いを反映した候補者を選ぶために、どのようなリテラシーが求められるでしょうか?

清水氏:SNSをやみくもに信じてはいけません。人はどうしても自分に都合のよい情報に耳を傾けがちです。YouTubeによくある、どこの誰が発信しているか簡単に分からない情報を無条件に信じるのは危険です。

規制をかけるのはなかなか難しいでしょうが、SNSで選挙に関する偽の情報を流せないようになんらかの対策をしないとまずい状況です。
反対意見もあるでしょうが、やはりオールドメディアとはいわれているものの、テレビやラジオ、新聞といった、発信元が明らかな媒体が提供している情報を参考にして投票行動を決める方がまだよいのではないでしょうか。
<清水聖士(しみず・きよし)> 1960年、広島県生まれ。麗澤大学客員教授。早稲田大学卒業後、伊藤忠商事、米ウォートンスクールMBAを経て、外務省へ。
2002年、前市長逮捕により行われた鎌ケ谷市長選挙に選挙権もないままインドから落下傘候補として出馬。763票差という大激戦を制し、市長に就任。以来、5期19年にわたって同市市長、千葉県市長会会長も務める。2021年、任期途中で市長を辞し、衆院選に出馬するものの…。


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