“クルド人差別”批判の女性市議、自身をSNS投稿で「テロ組織要員」呼ばわりした“ジャーナリスト”を提訴…「沈黙は差別と暴力への加担だ」と訴え
埼玉県鶴ヶ島市議会の福島恵美(めぐみ)議員(無所属)が5日、ジャーナリストの石井孝明氏にSNSへの投稿により名誉を傷つけられたとして、石井氏を被告に220万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に提訴した。なお、先行して侮辱罪での刑事告訴も行っている。

対象となっている石井氏の投稿は、福島市議を「テロ組織PKK女性要員」と呼称したもの。石井氏の投稿がなされた直後から、鶴ヶ島市役所や市議会事務局には電話やメールによる誹謗中傷が殺到し、7月22日には爆破予告と、福島市議の殺害予告が届いている。
提訴後の会見で、福島市議は、提訴の意図について以下の通り述べた。
「政治家が一般人の表現活動に対して訴訟を起こすことは、表現の萎縮を招く恐れがあるため、極めて抑制的でなければならない。しかし、石井氏の投稿は単なる意見や批判の範囲を完全に逸脱し、個人の尊厳を踏みにじり、社会の分断をあおる差別であり、市民の代表として到底放置できないと考えた。
今回の裁判は、私の名誉回復のためだけではない。差別は許されないという社会的な規範を醸成するための戦いだ」

「名誉毀損投稿」に至るまでの経緯

訴状によれば、福島市議は今年3月23日、クルド人の祭り「ネロウズ祭り」に参加した。これに対し、石井氏は24日にX(旧twitter)に以下の投稿を行った。
〈無知と馬鹿は時として犯罪の領域ですね。福島めぐみさん埼玉県鶴ヶ島市市議会議員は。テロ組織PKKの旗の前でポーズ。40000人の一般市民の死。現在欧州への麻薬搬入ルートをしきり、幼児誘拐、トルコ分離、テロ、武器売買、埼玉での犯罪を支援してる組織でそれを支持するそうです〉
また、石井氏は31日には以下の投稿を行っている。

〈天下国家を語る前に、足元の治安、埼玉クルド人問題の解決を邪魔しないことをお願いします。日本語が読めるなら、テロ組織の旗の下で「支援宣言」をしないでください。福島めぐみ埼玉県鶴ヶ島市議会議員〉
ちなみに、石井氏が「テロ組織PKKの旗の前のポーズ」と評した写真において、福島市議が手で指し示しているのは、ネウロズ祭りの由来を記し、「ネウロズおめでとう」と書かれた、大きい黄色の布または紙である(【画像】参照)。
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【画像】石井氏が「テロ組織PKKの旗の前のポーズ」と評した写真

福島市議の支援者である鶴ヶ島たろう氏は、上記の写真について以下の通り説明した。
鶴ヶ島氏:「大きなボードがあって、クルド人にゆかりがある旗等がいくつも貼られていた。福島市議が手で指しているのは中央の黄色い大きいボードであり、そこにはネウロズ祭りの歴史を説明する文章が記載されている。『こういうお祭りですよ』という意図で示していることは明らかだ。
ところが、石井氏は、たまたま福島市議の頭の上にPKK(クルディスタン労働者党)の小旗があったことをさし、福島市議がテロリストの要員だと言いつのっている」
その後、4月2日に福島市議は「X」に〈日本人と外国人の犯罪率について、現時点の決定版のグラフと参照した資料、計算式などをnoteに書きました!〉などと投稿した。
これに対し同日、石井氏は以下のように投稿している。
〈いい年した大人が恥をかくだけだからやめな。テロ組織PKK女性要員、鶴ヶ島市議会議員福島めぐみさん。全部を読まないで最初の図表だけ。
来日外国人=旅行者の外国人ではなく定住者の外国人376万人を分母に取るべきでしょうに。無理に合わせるなら、滞在日数を調べ、延べで計算を。小学5年レベル〉
この石井氏の投稿は、「定住者の外国人376万人を分母にとるべき」「滞在日数を調べ、延べで計算を」といった言説自体に根拠が示されていないことはさておいても、福島市議を「テロ組織PKK女性要員」と決めつける内容のものといえる。

投稿内容が「名誉毀損」に該当する“理由”とは

訴状ではこの投稿について、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害する行為」が民法上の不法行為にあたるとする判例の基準(最高裁昭和61年6月11日判決)を挙げたうえで、以下のように、名誉毀損に該当すると説明している。
  • 原告がテロ団体(テロリズムを行う団体)に参加して活動しているとの事実を摘示するものである。
  • ここで「テロ団体」とは、テロリズムすなわち、政治的目的を達成するために暴力や暴力による脅迫を行う団体を指すところ、民主主義社会において、政治的目的は選挙や言論によって達成すべきであるから、テロリズムは絶対に許されない。
  • そうすると、そのような団体に所属しているとの事実は、そのようなテロリズムを自ら実行しているとの印象を与えるから、対象者の社会的評価を低下させるものであることが明らかである。
なお、民事での提訴がこのタイミングになったのは、侮辱罪(※)での刑事告発の準備を先行させたためであるという。
※民法と刑法とで名誉毀損の定義が異なることによる。民法では「名誉毀損」の問題(民法709条・710条・723条参照)、刑法では「侮辱罪」(刑法231条参照)の問題となる。
“クルド人差別”批判の女性市議、自身をSNS投稿で「テロ組織要員」呼ばわりした“ジャーナリスト”を提訴…「沈黙は差別と暴力への加担だ」と訴え

原告代理人・神原元(はじめ)弁護士(5日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

「差別を商売道具にさせてはならない」

福島市議は、以下のように危惧を示した。
福島市議:「石井氏はSNSで日頃からクルド人に対する発信を行っている。石井氏の発信には事実が不確かな情報、端的に言ってデマが多い印象であり、差別を扇動する効果を持っている。
私はデマと差別がまん延する状況に問題意識を持ち、クルド人に連帯し、相互理解を深めようとネウロズに行った。
その私を石井氏はテロリスト認定しました。言うまでもなく私はテロリストではないし、ネウロズはテロリストのお祭りではない。
クルド人に連帯する人たちが、このような攻撃を受けている私を見たらどう考えるか。
クルド人と仲良くしたら、自分もネットで叩かれ、職場にまで迷惑がかかる、関わるのはよそう、などと萎縮させ、クルド人を日本社会で孤立させること。それこそが石井氏の狙いだと私はとらえている」
なお、埼玉県警の野井祐一・本部長は昨年末の県議会で「川口市内における犯罪情勢が特段に悪いという評価はしていない」との答弁を行っている。
また福島市議は、クルド人差別に加え、女性差別の側面もあると訴えた。
福島市議:「石井氏はさまざまなユーザーを侮辱し、名誉を傷つけている。私の見る限り、その多くが女性だ。モノを言う女性、とりわけ差別に抗議する女性への攻撃は執拗(しつよう)かつ激しい。こうした差別的な言動が野放しにされた結果、何が起きるのか。
先月下旬、私には殺害予告が、鶴ヶ島市役所には爆破予告が届いた。同様の脅迫は、神奈川県川崎市の女性市議や社民党の大椿裕子前参院議員など、私と同じく『モノ言う女性』たちに相次いで行われている。

私は一人の『モノ言う女性』として、決して泣き寝入りはしない。この裁判は、直接的には私の名誉を毀損されたことに対する賠償請求だが、本質はクルド人差別であり、女性差別だ。クルド人を孤立させ、モノ言う女を黙らせるという卑劣な攻撃だ。
また、石井氏は差別を煽ることによって、書籍やブログで稼いでいる。人の尊厳を食い物にする差別ビジネスだ。差別を商売道具にさせてはならない、差別で社会を壊させてはならない。これ以上差別が私たちの社会をむしばむことのないよう、声を上げ続けなければならない。なぜなら、沈黙は差別と暴力への加担にほかならないからだ。
私は、この裁判を通じて法的な正義を求めると同時に、社会に対してこのことを強く訴えたい」

石井氏は「断固戦う方針」と反応

福島氏の提訴を受け、同日、被告の石井孝明氏はX上で、司法記者クラブに文書を提出したとし、その文面を公開した(原文ママ)。
〈私は現在(8月5日時点)で、福島めぐみ氏を、埼玉県警に侮辱罪で刑事告訴しており、現在受理されそれは捜査中です。私は福島氏からこの半年で30回以上の侮辱的発言をSNSでされ、精神的に大変苦しんでおります。また福島氏は、国際テロ組織PKKや不法滞在のクルド人を支援するかのような政治活動をして、鶴ヶ島市民、埼玉県民から多くの批判を集めています。さらに税金を原資とする議員報酬によってこのような訴訟を行うのは異様です。
私は彼女の行為を、私は司法を使う嫌がらせと認識していいます。反訴も視野に入れ、断固戦う方針です。
ご承知のとおり福島氏は、自らの言論、政治活動で多くのトラブルを起こしています。8月4日鶴ヶ島市議会で「福島恵美議員に対する「鶴ヶ島市議会議員」の肩書きを使用して発信することを自粛する決議」が採択されています。司法記者クラブの皆様に置かれては、このような人物を「相手にする」だけでも、私人間の争いに巻き込まれ、所属会社とジャーナリストとしての名誉を汚しかねない問題になると思います。適切な対応をすることを希望します〉

鶴ヶ島市議会が行った「自粛」を求める決議

上記の石井氏のコメントでも触れられていたが、鶴ヶ島市議会は4日、福島市議に対し、「鶴ヶ島市議会議員」の肩書を使用して発信することの自粛を求める決議を行っている(【画像】参照)。
“クルド人差別”批判の女性市議、自身をSNS投稿で「テロ組織要員」呼ばわりした“ジャーナリスト”を提訴…「沈黙は差別と暴力への加担だ」と訴え

【画像】鶴ヶ島市議会による決議文

決議には以下の通り記されている。
〈市役所への爆破予告などがなされたことにより、鶴ヶ島市議会が主催する『鶴っ子議会』が中止に追い込まれている。議会として、個人の発言を制限する考えはないが、市民の安全と行政・議会の業務に重大な影響が生じているのも事実である〉
「鶴っ子議会」とは、例年、市内在住の小学校5、6年生を招いて議会体験ツアーなどを行うイベントである。
原告代理人の神原元(はじめ)弁護士は、爆破予告は市役所のメールフォームを利用して送信され、その内容が「議員を誘拐して包丁で刺し殺す、7月25日13時に鶴ヶ島市役所を爆破する、全ての口座に1813万円を送金せよ」というものだったことを明かした。
福島市議の支援者である鶴ヶ島たろう氏が、上記決議が行われた状況について説明した。
“クルド人差別”批判の女性市議、自身をSNS投稿で「テロ組織要員」呼ばわりした“ジャーナリスト”を提訴…「沈黙は差別と暴力への加担だ」と訴え

鶴ヶ島たろう氏(5日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

鶴ヶ島氏:「7月22日に殺害予告と爆破予告があり、翌23日に福島市議は西入間警察署に被害申告に行き、被害届が受理された。
その同時間に緊急の全員協議会が鶴ヶ島市議会で開かれ、福島市議が不在の状態で、8月3日『鶴っ子議会』の中止が決まった。

福島市議は、事前に電話で議会に対して、自身が鶴っ子議会に出席すると迷惑がかかるため出席を控える旨を伝えていた。にもかかわらず、中止とされ、しかも、中止の責任が福島市議にあるとして、今回の決議につながっている」
また、鶴ヶ島市議会の福島市議に対する決議には以下の記載もある。
〈従前より、議長は議長権限に基づき、個人的な考えを『鶴ヶ島市議会議員』の肩書を使用して発信することの自粛を再三要請してきたが、応じていただけなかったことから、市議会としての公式な対応が必要となった〉
実際にどのような「議長権限に基づく再三の要請」が行われたのか。
鶴ヶ島氏:「鶴ヶ島市議会の内野議長が福島市議に対し、電話、メールが殺到し鶴ヶ島市役所の職員の手を煩わせ、業務の妨害になっているということで、立ち話などで『鶴ヶ島市議会議員』の肩書を外すとか、しばらくSNSをやめるとかの対処を求めてきていた。
また、議長は、福島市議が議員名簿で非公開にしている個人情報(住所、電話番号、メールアドレスなど)を公開することはできないか、とも言ってきた。
福島市議が連絡先を公開していない理由は、初当選の時からたくさんの嫌がらせを受けたためだ。それを公開しろというのはいけにえにするようなものだ」

市議会議員の“仕事”とは

なお、福島市議のこれまでの行動に対する、一見もっともらしい「批判」として、「鶴ヶ島市議会議員が、なぜ市政と無関係なクルド人差別の問題に首を突っ込むのか」あるいは、「仕事しろ」といった言説が容易に想定される。なぜ、それを承知で、敢えて「反差別」を訴えるのか。福島市議は以下のように答えた。
福島市議:「私は必要に応じて視察に行ったり、市民の話を聞きに行ったりするなど、市議としての仕事はきちんと行っている。どこを視察し、誰と話したかなどをすべて公開しPRする必要はないと考えているし、もしそれらを公開した場合、この状況では迷惑がかかることになる。
議員の仕事は、市民の福祉、幸福、生活を守ることにつながることを行うことだと考えている。したがって、私は市内のことだけではなく、他の地域で起きていることにも関心を持って仕事をするべきだと思っている。
鶴ヶ島市の外でも、(社会を脅かす危険のある)差別の問題があるのであれば止めに行かなければならないし、そこで学んだことが鶴ヶ島市の市政に役立つと考えている。
私は市議会内で会派に属さず1人で活動しており、力は小さいかもしれないが、議員活動の一環として一般質問等を通じ、差別はいけないということを広めたり、あちこちに出ていって差別に反対する活動をしている人と連帯したりして、力になっていけたらと思う」
“クルド人差別”批判の女性市議、自身をSNS投稿で「テロ組織要員」呼ばわりした“ジャーナリスト”を提訴…「沈黙は差別と暴力への加担だ」と訴え

福島市議(5日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)



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