「これって、休憩時間といえるのでしょうか?」
ある航空会社の客室乗務員・Aさんたちから、このような素朴な疑問が裁判に持ち込まれた。
その結果、裁判所は会社に対して「法律上必要な休憩を取れていたとはいえない。
本件は原告が多数におよび、争点も多岐にわたることから、今回は主なポイントについて整理・要約して解説する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
会社は、定期航空運送事業等を行っている。Aさんらは航空機の客室乗務員で、客室サービスマネージャーという立場にあった(客室乗務員および運航を管理し、顧客サービスおよび客室の保安の責任を持つ職)。Aさんらの主張を要約すると「休憩時間が十分に与えられていない」「これは労働基準法に違反している」というものだ。前提として、労働基準法は休憩時間について次のように定めている。
〈労働基準法34条1項〉
使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
Aさんらの具体的主張は以下のようなものだ(判決文から抜粋して要約)。
- 客室乗務員は、運航中、常に航空機内において、機長の指揮命令下にあり、常に客室巡回、フライトデッキ管理、トラブルへの対応、金銭管理等の業務にあたっているため、多くの場合において、クルーレスト(=休憩)を取ることができていない
- また、客室乗務員は、休憩を取ることができたとしても、実際には、乗客の求めや不規則な事態には対応せざるを得ず、精神的・肉体的に緊張から解放されていない
そこで、Aさんらは会社を相手に、慰謝料の支払いと、「今後、会社は客室乗務員に対して休憩を与えない勤務を命じてはならない」という判決を求めて提訴した。
裁判所の判断
Aさんらの勝訴だ。裁判所は会社へ慰謝料10万円の支払いを命じたほか、「今後、会社は、6時間を超える勤務の場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間を付与しない勤務を命じてはならない」とする判決を出した。
■ 休憩時間を与えなくていいのか?
会社は裁判において「Aさんらは下記のとおり『長距離にわたり継続して乗務するもの』に該当するため、休憩を与える必要がない」と主張した。
〈労働基準法施行規則32条1項〉
使用者は、法別表第1第4号に掲げる事業または郵便もしくは信書便の事業に使用される労働者のうち列車、気動車、電車、自動車、船舶または航空機に乗務する機関手、運転手、操縦士、車掌、列車掛、荷扱手、列車手、給仕、暖冷房乗務員および電源乗務員(以下単に「乗務員」という。)で長距離にわたり継続して乗務するもの並びに同表第11号に掲げる事業に使用される労働者で屋内勤務者30人未満の日本郵便株式会社の営業所(簡易郵便局法(昭和24年法律第213号)第2条に規定する郵便窓口業務を行うものに限る。)において郵便の業務に従事するものについては、法第34条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。
この規定は、たとえば長距離列車の車掌など、途中で物理的に休憩を取ることが難しいケースを想定した例外規定である。会社は「航空機の客室乗務員もこれにあたる」旨の主張をした。
しかし裁判所は、「Aさんらの勤務は、複数回の離着陸を繰り返すものであり、その間に便間時間(次の便までの待機時間)を挟んでおり、各運航ごとの継続乗務時間はいずれも6時間に満たなかった」として上記の例外規定は適用されず、「休憩を与える必要がある」と判断した。
■ 客室乗務員は休憩を取れていたのか?
裁判所は以下の事実などを認定し「法律上必要な休憩を与えていたとはいえない」と結論づけた。
- 乗客は、休憩中の客室乗務員に要望または質問をし、当該客室乗務員が、事実上、これに対応する必要が生ずる場面も相応にあった
- 急病人の発生等の事態が生じた場合、必要に応じて、休憩を中断して業務を行う必要があった
- 客室乗務員は、休憩中であったとしても、インターホンが鳴れば、これに応答していた...etc
そして裁判所は「労基法34条は、ある程度労働時間が継続した場合に蓄積される労働者の心身の疲労を回復させ、その健康を維持するため、労働時間の途中に休憩時間を与えるべきことを規定したものと解されるところ、会社がAさんらに対して同条に違反する勤務を命じたことは、労働者の健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)に違反するというべきであるから、会社は、これによりAさんらに生じた損害について賠償する責任を負う」として、会社へ慰謝料10万円の支払いを命じた。
最後に
「仕事の緊張から解放されていない」「休憩といえるのか?」
と感じている人は多いであろう。裁判で休憩時間と認定されなければ、法律上は「労働時間」になる。
別の事件では、看護師が【緊急呼び出しのTEL待ちの時間も労働時間】と認定された事例がある(横浜地裁 R3.2.18)。この事件において、裁判所は会社に対して残業代約1000万円の支払いを命じている。
このようなケースは氷山の一角と思われるので、不満を感じている方がいれば弁護士に相談することをオススメする。