産経新聞は7月18日、大阪府や兵庫県などでゴルフバッグを狙った車上荒らしを繰り返したとして、47歳の男が逮捕、送検されたことを報じた。
男は複数人と共謀し、400件以上の犯行を繰り返していたといい、被害総額は5100万円以上に上る。

同紙は「車上荒らしは近年減少傾向にある一方、特に、車内に置いたままのゴルフ用品を狙った窃盗事件は後を絶たない」と指摘。
実際、2023年には同紙が車内のゴルフバッグなど、計804点が盗まれた事件を報じているほか、神戸新聞、サンテレビなども同様の事件をそれぞれ2024年に報じている。

換金されたゴルフバッグは、被害者の手に戻るのか

今回逮捕された男らは、盗んだゴルフケースやクラブを、リサイクルショップやゴルフショップに持ち込み、換金していたとされる。
では、このように転売された被害品について、被害者は返還を求めることができるのだろうか。民法に詳しい雨宮知希弁護士に聞いた。
「民法192条では、他人の物を取引行為によって譲り受けた者が、その譲渡について善意かつ無過失であれば、元の所有者は、その物の返還を第三者に請求できないと規定しています。
つまり、他人の物が第三者に渡った場合でも、第三者が他人の物であることを知らず、かつ通常注意を払っても他人の物と認識できなかった(善意無過失)のであれば、その第三者は所有権を主張でき、一方で被害者が返還を請求することはできません。
他方で、第三者が他人の物であることを知っていた(悪意)、あるいは通常の注意を払えば知り得た場合(有過失)、192条の保護は及ばず、被害者は第三者に対し、返還請求が可能です。
ですので、ゴルフバッグが他人の物であると知っている人、注意を払えば他人の物であると知れた人に対しては、返還請求ができます」(雨宮弁護士)
一方、民法193条は盗品・遺失物について特別な保護を規定している。
「この規定に基づき、盗難被害者や遺失者は、盗品又は遺失物を手に入れた者(192条で保護される善意無過失の第三者)に対しても、2年間はその占有者(現在その物を持っている者)に無償で返還を求めることが可能です。
そのため、ゴルフバッグが盗品であれば、2年間は、その占有者に無償で返還を求められることになります」(同前)
ただし、民法194条では「占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない」と例外を設けている。
「たとえば、ゴルフバッグを盗んだ犯人が、リサイクルショップ等に換金目的で販売し、そのリサイクルショップから何も知らずに、それらを購入した第三者がいる場合、被害者が第三者に返還を要求するには、第三者がリサイクルショップに支払った代金に相当する額を支払う必要があります」(同前)

リサイクルショップ側の責任はどこまで問えるか

今回の事件では、犯行グループは顔写真のない身分証明書を提示し、盗んだゴルフバッグ等をリサイクルショップやゴルフ用品店で換金していた。
この点について雨宮弁護士は「リサイクルショップ等が買い取りを行う際に、身分証明書の提示のみをもって、その物が盗品でないと信じるのは、十分とは限りません」と指摘する。
「特に高額な商品の場合、通常は仕入れ先の確認や、入手経路等、怪しい点の調査が期待されます。
したがって、リサイクルショップ等が善意無過失とは認められにくく、被害者は返還請求ができる可能性があります」(雨宮弁護士)
なお、リサイクルショップ等古物商の場合、買取時に盗品の疑いがある場合には警察官に報告することが義務付けられている(古物営業法15条第3項)。
一方、リサイクルショップ等からゴルフバッグ等を購入した、第三者の立場はどうか。
「一般的に、リサイクルショップに買い物をしに来ただけの人が、商品の仕入れ先まで確認する、というのは通常考えられません。ですので、仕入れ先を確認しなくても過失がないと判断される余地があります。
ただし、いかにも怪しいリサイクルショップから購入した、といった特段の事情があれば、来歴確認を怠った過失が、第三者(購入者)にあると判断される場合もあり得ます」(同前)

損害賠償を請求できる場合も

とはいえ、上述した通り、民法194条と照らし合わせて考えると、ゴルフバッグを盗まれた当の被害者にとって、盗まれたものが、リサイクルショップ等を通じて第三者に渡ってしまった場合に、被害者自らが弁償しなければならないというのは、不公平さを感じるところだ。
では、民法194条に基づき被害者が弁償を余儀なくされた場合、その損害を回復することは可能なのだろうか。
雨宮弁護士によると、リサイクルショップ等による盗品の販売が「善意無過失でない場合」や、違法な物品処分など、不法行為に該当すると認められれば、被害者はリサイクルショップ等に対して、損害賠償を請求できる可能性があるという(民法709条)。
「このほかにも、リサイクルショップ等が盗品を売って得た代金について、『不当利得』として返還請求を求めることも考えられます(民法703条)。
ただし、リサイクルショップ等の善意無過失が認められる場合には、返還義務が生じるのは代金の一部のみ、となり得ます」(雨宮弁護士)
なお、最終的に被害者が、リサイクルショップ等から代金相当額や、被害品を取り返せなかった場合、損害保険を活用することも考えられる。
「火災保険や家財保険の盗難補償特約があれば、保険金が支払われ損害の一部または全額が補填(ほてん)されることがあります。
ただし、保険の適用となるかどうかは、契約内容や被害状況の確認が必要です」(同前)
ゴルフは紳士淑女のスポーツだ。万が一のときにも、動じずに対処できるよう、普段からの防犯だけでなく、こうした対応策まで頭に入れておくとスマートだろう。



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