父、母、娘の親子3人で社員旅行に参加し、同僚もその楽しそうな様子を目にしていたわずか数時間後に起こった惨殺事件。計6人が亡くなり、その中には社員旅行に参加した母親と娘も含まれていた。

犯人は父親とみられたが、自ら命を絶ち、事件は迷宮入りしてしまう。一体、仲睦まじく見えていた親子、そして父親の親族周辺になにがあったのか…。深い謎に包まれている。
※ この記事は、『読んで震えろ!世界の未解決事件ミステリー』(鉄人社、2024年)より一部抜粋・構成しています。

犯人が命絶ち、幕を閉じた謎だらけの惨殺事件

2018年11月、宮崎県で凄惨な一家皆殺し事件が起きた。被害者は全部で6人。犯人も家の実質的な主だった次男とわかっている。わからないのは犯行動機である。なぜなら犯人の男が何も語らないまま自ら命を絶ってしまったからだ。
同年11月25日、同県西臼杵郡高千穂町在住の松岡史晃さん(当時44歳)は、所属する消防団の忘年会に参加していた。団の詰所で15時ごろから始まった忘年会は休憩を挟みながら20時ごろにお開きとなり、松岡さんはそのまま帰宅する。

一本の電話から始まった惨殺事件

そんな彼のもとに1本の電話がかかってきた。相手は同町に住む知人の飯干昌大(同42歳)で、なんでも「妻と喧嘩になっているから仲裁に来てほしい」という。これまでも仲裁に入ったことは何度かあった。
酒に弱かった松岡さんは、この日ほとんど飲んでいなかったこともあり、軽トラックで昌大宅に向かう。21時ごろのことだ。
最初に異変に気づいたのは昌大の勤務先である建設資源会社だった。真面目で無断欠勤することなど一度もなかった昌大が26日の朝になっても出勤してこない。会社の人間が携帯に何度電話しても応答なし。彼の妻の美紀子さん(同41歳)も同様に連絡が取れなかった。
そこで昌大の弟に電話で事情を話したところ、弟は警察に連絡。警察が昌大宅に出向くと、家の敷地内で信じられない光景が広がっていた。凶器として使われたと思われる鉈と、6人の殺害遺体が血の海の中に転がっていたのだ。
被害者は昌大の妻・美紀子さん、父親・保生さん(同72歳)、母親・実穂子さん(同66歳)、長男・拓海さん(同21歳)、長女・唯さん(同7歳)、そして急遽呼び出された松岡さん。遺体の状況から、美紀子さんと唯さんは絞殺、他4人は銃で惨殺されたものとみられた。
保生さんは頭部を切りつけられ、その布団の上に拓海さんが倒れ込んだ状態で亡くなっていたことから、祖父を助けようとして殺害されたようだ。

実穂子さんの遺体だけが屋外で発見され、遺体に激しい損傷があり首が切断されていたことから、母親に対しては特に強い殺意がうかがえた。
また、知人の松岡さんは喧嘩の仲裁に訪れたばかりに事件に巻き込まれたと思われ、発見時は頭部がほぼ切断された状態だったという。そして、ただ1人、昌大の姿だけがどこにもなかった。
警察は昌大が事件を起こし逃走を図った可能性が高いとみて、周辺を捜索する。すると、現場から約2キロ半離れた神都高千穂大橋の駐車場で昌大の車が乗り捨てられていることが発覚。さらに橋の下を流れる五ヶ瀬で彼の遺体が見つかった。
現場の状況から昌大が橋から115メートル下の川に転落したものと推定され、後に彼が橋の手すりを乗り越え飛び降りるところを目撃した人物が現れたことにより、犯行後に自殺したことが明らかとなった。

直前まで家族で社員旅行に参加していた

事の顛末を知った会社の同僚たちは、みな一様に驚いた。実は事件が起きた11月25日は会社の社員旅行の最終日で、そこに飯干夫婦と長女の唯さんも参加していたからだ。
15時30分に解散するまで、同僚たちは仲良さそうに旅を楽しむ3人の姿を見ており、その数時間後に彼らが加害者と被害者になったとは、どうしても信じられなかった。いったい、なぜ昌大はこのような残虐な犯行を働いたのか。
第三者から見る範囲では家族との関係は良好。実際、昌大は仕事を終えると、家族との時間を過ごしたいとすぐに帰宅するのが常で、特に長女・唯さんを溺愛していたという。

そんな男がどうして家族を?事件の関係者全員が死亡しており、昌大の遺書も見つからなかったため、本当のところはわからない。

不倫巡るトラブルもささやかれているが…

ただ、巷では夫婦間に不倫をめぐるトラブルがあったのではないかと囁かれている。この話の出処は昌大の幼馴染で、彼によると、昌大は以前から美紀子さんが昔の男と密会しているのではないかと疑い、彼女に怒りをぶつけては両親がなだめていたそうだ。
ただ、実際には不倫の事実はなく、全ては昌大の被害妄想だったらしい。しかし、仮に昌大の勝手な思い込みが事件の動機だったとするなら美紀子さんだけを殺害すればいいはず。なぜ、他の家族まで手にかけたのか。今となっては、真の動機は明らかになることはない。


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