念願の美容室をオープンさせた当日、しかも入籍を9日後に控え、亡くなる理由など見当たらない‟絶頂期”にみえるタイミングでの死。
「一体なぜ?」。誰もが首を傾げた事件は自死の線が濃厚なままフェードアウトしたが、真相は不明のままだ。
※ この記事は、『読んで震えろ!世界の未解決事件ミステリー』(鉄人社、2024年)より一部抜粋・構成しています。
絶頂のタイミングで命を絶った不可解
2007年5月、茨城県日立市でネイリスト(つけ爪の施術を行う専門家)のAさん(当時29歳)が念願の美容室をオープンさせた当日、不可解な死を遂げる。当時、Aさんは10歳年上の男性美容師Sさん(同39歳)との入籍を9日後に控え、まさに幸せの絶頂期。なぜ、彼女は死ななければならなかったのか。AさんとSさんが美容室を開業すべく、総額6000万円の店舗兼住宅を同市鹿島町に建てたのは2007年春。ここには当時68歳のSさんの母親も同居することになったようで、1階は美容室とAさんが従事するネイルアートスペース、2階は従業員の会議室、リビング、その奥にAさんとSさんの寝室、Sさんの母親の部屋があったという。
開店初日の24日、Aさんは2階の自室でネイルサロンの準備中で、Sさんは1階で複数の従業員と客のカットなどを行っていた。10時40分、Sさんが店を訪ねてきた友人2人と2階へ上がり、Aさんを含め談笑した後、19時ごろ1階へ戻った。
15時10分ごろ、Aさんが友人2人を見送り、夕食の準備のため再び2階へ。彼女の姿が確認されたのはこれが最後である。
1階でSさんを交えたスタッフミーティングが終わった20時過ぎ(19時30分ごろとする報道もあり)、2階から「ドーン」と物が落ちるような音が聞こえた。
従業員の数人がこれを耳にしたが、特に気にかけるものはなかったそうだ。21時ごろ閉店。Sさんは21時20分ごろ2階へ上がる。
いつの間にか部屋から消えたAさん
が、なぜかAさんの姿がリビングにも寝室にもない。母親は寝ていたようで何も知らないという。改めて寝室を確認したSさんは部屋の出窓が開き、そこから1本のコードが家の外壁に垂れているのに気づいた。寝室にあったフットマッサージ機が接続されているはずの電源コードだ。Sさんは携帯でAさんに電話をかけるも留守電。自分が気づかぬうちに外出したのかとスタッフに確認してみたが、彼女が外に出る様子を見た者はいなかった。実際、1階と2階に通じる通路は店内の階段だけで、誰にも気づかれず外に出るのは不可能だった。
21時20分、不審を感じたSさんは美容室を出て、隣家の敷地で信じられない光景を目にする。Aさんが首に何重にもコードが巻きついた状態で仰向けに倒れていたのだ。
慌てて119番通報し、Aさんに心臓マッサージを施し意識を取り戻そうするSさん。
このとき、Sさんは救急隊員に同乗を求められたが、「同居する母が心配なので残ります。連絡をください」と、これを断ったそうだ。彼が病院からAさんが死亡したとの連絡を受けるのは、22時45分ごろのことだ。
司法解剖の結果、死因はひも状のもので首を絞められた窒息死と判明する。ただ、Aさんに抵抗した形跡はないこともわかった。
警察の捜査でも真相はわからず…
いったい、どういうことなのか。不可解な事件に警察が捜査に乗り出し、寝室にちぎれたネックレスが落ちており、布団は乱れ、壁には血痕、ベッドと壁の間に結婚指輪が落ちていたことを突き止めた。外部から何者かが侵入した形跡はない。加えて、彼女が発見時に裸足で、付近から靴などが見つかっていないことから、Aさんは外出したのではなく、2階の出窓から落ちたか、落とされた可能性が強まった。
前者とすれば、自ら飛び降りたのだろうか。が、彼女には自殺する動機がない。夢だった美容院とネイリスト開業の初日で、結婚間近。
部屋に落ちていたちぎれたネックレスや結婚指輪も、自殺だと納得のいく説明が難しい。
では、他殺なのか。実はこの事件は当初から、メディアや世間から、第一発見者であり婚約者のSさんが殺害したのでないかと囁かれていた。
なぜ、救急車に同乗しなかったのか。母親が心配だったとしても、婚約者の生死がかかっている状況で同乗を拒否するのは不自然ではなかろうか。証拠を隠滅する時間が必要だったのでないか。
また、美容室の開店資金6000万円のうち4000万円をAさんの両親が出していたことがわかり、これが2人の間でトラブルになっていたのではないかとも噂された。
さらに、Sさんには離婚歴があったのだが、事件後、すぐに元妻とよりを戻し再婚したことも疑惑を深めた。
父親が警察に上申書提出も真相は不明のまま
しかし、前述のとおり、殺されたとすればAさんに抵抗した痕がないことはあまりに不自然。また、具体的な内容は不明ながら、Aさんが生前メールや電話で頻繁に友人に悩みを相談していたとの情報もあり、自殺の線も完全には捨てきれない。ちなみに、これまで警察がSさんを容疑者として取り調べたとの報道は一切出ていない。何より、彼には完全なアリバイがあるのだ。
いったい、Aさんはどんな状況で死亡したのか。2008年7月、彼女の父親は茨城県警日立署に真相究明を求める上申書を提出したが、その後、警察から捜査に関する公表はなされていない。