大会10日目を迎えた今年の全国高等学校野球選手権大会は、開幕早々、広島代表として出場していた広陵高校において複数の上級生部員から下級生部員への暴行事案があったと発覚。被害生徒および保護者に対する学校側の対応が不誠実だったとの指摘や、真偽不明なものも含めて目を覆いたくなるような被害態様が続々と露呈した。

SNSでも大炎上する事態となったものの、広陵高校は予定通り1回戦に臨み、北北海道代表の旭川志峯高校に快勝。しかし3日後の今月10日、同校の校長が会見を開き、2回戦以降の出場を辞退すると表明した。
しかしこの会見が、結果として世の中の反感をさらに招く結果となったことは周知のとおり。問題はどこにあったのだろうか。
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「何のための会見をしているのか分からない」

もっとやり方があったのでは――。
元特捜検事で企業等の危機管理に精通する日笠真木哉弁護士は、広陵高校の会見をこう振り返る。
「最大の問題は、この事案においてもっとも重要であるはずの『被害者に対する謝罪』がすっぽりと抜け落ちていたことにあります」(日笠弁護士)
10日の会見冒頭、校長は「本大会に出場しているチームのみなさま、高校野球ファンのみなさまほか、大会主催者である日本高等学校野球連盟、朝日新聞社、広島県高等学校野球連盟、各方面のみなさまに多大なご迷惑、ご心配をおかけしましたこと、深くおわび申し上げます。 誠に申し訳ございません」と述べ、深々と頭を下げた。
そして、SNSでの反響や誹謗中傷が大会運営に大きな支障をきたしていること、生徒が登下校時に追いかけられた、寮への爆破予告があったとの情報がSNS上で騒がれていることなどから、「生徒、教職員、地域の方々の人命を守ることが最優先」と考え、出場辞退に踏み切ったと説明した。
「会見の目的が被害者への誠意を示すことではなく、SNS上の批判に対する反論に終始していたため、厳しい言い方をすれば『何のための会見をしているのか分からない』状態になっていたように思います。
SNSには学校側が把握している事実とは異なることまで書かれて大炎上しており、学校側としては『このまま言われっぱなしでは気が済まない』という気持ちもどこかにあったのかもしれません。
しかしSNS時代の今、世の中は常に『たたく相手』を求めて手ぐすね引いて待っているような状態です。売られたケンカを買うような対応をすれば、さらなる炎上を招くことは避けられないでしょう」(日笠弁護士)

会見を開いたこと自体は「妥当な判断」だったが…

SNS時代において、炎上し批判されるリスクは誰にでも驚くほど身近にある。会見を開けば、そこでの一挙手一投足がすべて、炎上を招く原因となりうる。
これまでも数々の企業、団体、著名人などがスキャンダルや不祥事を起こし会見を開いてきたが、今回、広陵高校が会見を開いたことは妥当だったのか。
「私立学校とはいえ教育機関であり、かつ甲子園常連校という知名度があることをふまえると、公的機関に準ずる立場に置かれていると言わざるを得ず、会見を開いたこと自体は妥当な判断でした。
時期が遅すぎたことについては今さら責めてもしょうがないですが、感情的な会見になってしまったことは明らかな失敗です。通常、炎上の渦中にいる当事者が冷静な判断をすることは難しく、だからこそ顧問弁護士や、コンプライアンス・危機管理の専門家に相談の上、会見に臨まなければいけません。
今回はこれを軽視した結果、準備不足のまま、行き当たりばったり的な対応をしてしまったのではないでしょうか。あるいは専門家に相談した上での会見だったとしたら、あまりに稚拙だったと評価せざるを得ません」(日笠弁護士)
なお、日笠弁護士は、上場企業や公的機関やそれらに準じる団体等以外は「できることなら会見はしないほうがいい」と本音をこぼす。
「まず、公的な機関は、国民や住民の税金で運営している以上、会見は避けられないでしょう。また、上場企業は株主をはじめとする利害関係者への責任があるため、会見を開いて事実関係などについてきちんと説明しなければいけません。
しかし、それ以外の団体や個人は、会見で何を言おうが批判され、炎上が長引くだけで、当事者にとってメリットはまったくありません。一方、情報があふれた社会では、ひとたび別の炎上騒ぎが起きれば、人々の関心はあっという間にそちらへ流れていきます」(同前)

信頼回復のためには、もう一度会見を開くしかない?

日笠弁護士は、広陵高校が今後、信頼回復のために唯一できることは「早急にもう一度会見を開くこと」だと提言する。
「まずは1回目の会見が感情的なものになってしまったことを認めて、素直に謝罪すべきです。その上で、被害者への謝罪をメインに据えなければなりません。

事実関係については第三者委員会による調査中だと思いますので、曖昧な情報をもとにした発言は控えて、その時点で分かっている事実を述べるにとどめます。いずれにしても学校側が部員たちをきちんと監督できていなかったことに変わりはないので、それを認めて謝罪することも重要です。
そして、今後の対応を明確にすることも忘れてはいけません。『第三者委員会による調査を進めている』など現在の調査体制について説明し、事実関係と再発防止策をいつまでに公表するのかを伝えるべきです」(同前)
報道によれば、広陵高校は今年6月に第三者委員会を設置済みで、現在は事案について調査を進めているところだという。結果を公表できるようになるまでにはまだ時間がかかることが予想され、「その頃にはおそらく、広陵高校に対する世の中の関心は薄れてしまっている」と日笠弁護士は指摘する。
「SNS時代においては、炎上しない会見をすることはほぼ不可能であることや、人々の関心が移り変わるスピードが非常に速いことを前提に、万が一不祥事が起きてしまった場合には初動から冷静に対応していくことがカギとなります。間違っても、感情的になったり、批判に反論するといったケンカ腰な姿勢で臨んだりしてはいけません」(同前)
暴力やいじめは断じて許されることではない。だが未熟な子どもたちを教え導くことは、教育機関に与えられた役割の根幹ではないだろうか。広陵高校を運営する大人たちが今後、不祥事とどのように向き合い、事後処理をしていくのか――。その真価が問われている。


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