先月行われた参院選では、移民政策をはじめとする外国人への対応も争点の一つとなった。一方、SNSでは「外国人への生活保護支給」をめぐる真偽不明の情報、デマ、ネガティブな意見も散見される。

外国人はそもそも生活保護を受けられるのか、対象や条件はどれほど厳しいのか。またSNSでうわさされているような“外国人への優遇”は本当にあるのか。
『生活保護と外国人』(明石書店)の著者であり、外国人への生活保護支給に詳しい一般社団法人「つくろい東京ファンド」事務局長の大澤優真氏に取材した。(ライター・榎園哲哉)

外国人の生活保護受給者は全体のおよそ3%

「生活保護受給世帯の3分の1は外国人」――。
参院選さなかの7月、こうした情報がSNSで拡散された。だがこれは明らかな“デマ”だ。
政府統計などを基に有志の研究者らで編集・運営するサイト「移民政策データバンク」によると、すべての生活保護利用者(約200万人、2025年2月厚労省調査)のうち、外国人(外国籍者)の割合は3.25%(約6万5000人、2023年度時点)。この10年間は3%台前半で推移している。
国籍別の内訳は人数の多い順に次の通りだ(2023年度時点)。
  • 韓国・朝鮮50.9%
  • 中国16.3%
  • フィリピン14.9%
  • ブラジル5.3%
この上位4か国で全体の87.4%を占め、以下アメリカ、カンボジア、その他、と続く。
中でも半数を占める韓国・朝鮮籍の人について、大澤氏は「戦前から戦後にかけて渡日、また日本で生まれ育った在日コリアンの高齢者と推測される」と話す。さらにこの十数年、「高齢者」世帯の割合が右肩上がりで増えていることから、「日本に長く暮らしてきた人たちが高齢化によって、生活保護を受けていると考えられる」という。

外国人が生活保護を受給する“条件”は

本来、生活保護は生活保護法1条(※)が示す通り、日本国民であることが受給の前提だ。大澤氏も「(外国人は)そもそも生活保護は利用できない」と説明する。

※この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする
最高裁の判例も、生活保護法の対象に外国人は含まれないとしている(最高裁平成26年(2014年)7月18日判決)。
ただし、一定の類型の外国人については、例外的に「生活保護の取り扱いに準じた保護」を受けられる。
外国人のなかでも「生活保護の取り扱いに準じた保護」の対象となっているのは、「日本人と同様の生活実態を有し、同等の基準により税金や社会保険料の納付義務を負っている人」「人道上の理由または国際協調主義によって日本人と同等の保護を与えられるべき人」に限られている。
1954年5月に厚生省(現・厚労省)が、「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」と題する都道府県知事宛てに送った通知で、困窮する外国人に対しても「一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて(中略)必要と認める保護を行う」と明記し、現在に至るまで、それに基づいて支給が行われている。
大澤氏によると、「生活保護の取り扱いに準じた保護」対象かどうかは、「在留資格の種類によって決まる」という。
数ある在留資格のうち、「生活保護の取り扱いに準じた保護」を受けられる在留資格は、以下の3類型に限られる。
  • 身分系在留資格(永住者、定住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等)
  • 特例法による特別永住者(在日朝鮮人、在日韓国人、在日台湾人)
  • 入管法上の認定難民
このほかの在留資格、たとえば一般的な就労ビザである「技人国」「技能」「経営管理」等は、日本で働くための在留資格であるため、「生活保護の取り扱いに準じた保護」の対象とは認められない。
また、難民認定された人たちは「定住者」と認められるが、認定率は極めて低く、2024年は2.2%にとどまっている(難民支援協会調査)。なお仮放免(日本からの退去強制が出ている人の入管施設収容を一時的に解除する)の人たちは当然、生活保護は受けられない。
なお、上述した最高裁判例も「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得る」ことを明記している。
したがって、よく見かける「最高裁が外国人への生活保護は憲法違反としている」との言説は明白な誤りであり、むしろ最高裁判例を無視した悪質なデマと言わざるを得ない。

外国人受給者「優遇されていない」

上記のような一定の在留資格がある場合、日本人と同じ要件(資産や能力の活用など)の下、生活保護を申請し、自治体によって支給が妥当だと判断されれば保護費を受け取れる。
しかし一方で、先に挙げた厚生省通知はあくまで「行政措置(サービス)」であり、法律上の権利を保障しているわけではない。
そのため、日本人受給者と比べて“制限”されることもある。
その制限の一つが「不服申し立て」をできないことだ。
「仮に支給額を半分にされるなど不利益な取り扱いがあっても、生活保護法違反として訴えることができず、泣き寝入りせざるを得ない可能性がある」(大澤氏)
申請時の要件や支給額の算出方法等は日本人と同等だが、大澤氏は「日本人と比べて外国人が優遇されている実態はない」と話す。
「むしろ、法律で保護されていない分、外国人に対しては制限的な運用がされているとも言える」(同)
また、SNSでは、外国人の困窮者・受給者に対し「困窮しているのであれば母国の大使館を頼ればいい」といった声もある。こうした声に対し大澤氏は「大使館に頼って助けられることはまずない」ときっぱりと答える。
実際、大澤氏はある先進国の大使館から、「そちらで(困窮する同国の人の)家賃と帰国費用を出してほしい」と相談されたこともあるという。

外国人による不正受給「確かめようがない」

その他にも、外国人の生活保護受給をめぐっては、不正受給が疑われるケースが報道等に取り上げられることもある。
その際たるものが、2010年に中国人48人が来日直後に大阪市に「定住者」の在留資格で生活保護を申請し、うち26人に支給された事件である。
しかし、この件では結果的に全員が申請を辞退している。また、この件で入国管理局の在留資格の認定審査に問題があったことなど制度の不備が発覚し、「制度の穴」は完全に封じられている。
参考:中国人48名“来日直後”に「生活保護」申請…行政が「保護開始決定」せざるを得なかった“法制度の欠陥”とは【行政書士解説】
外国人による不正受給の実態について、大澤氏は「不正受給の割合を出していないため統計上は分からない、確かめようがない」としつつ、生活保護費総額に占める不正受給額は約0.3%であり、かつ外国人受給者は生活保護利用者全体の約3%であることを踏まえ、「(外国人による不正受給数は)かなり少数ではないか」と話す。
一方で、「生活保護の取り扱いに準じた保護」を受ける資格がある外国人であるにもかかわらず、経済的に困窮していても受給申請をためらう外国人は少なくない。

その大きな原因の一つとして指摘されるのが、出入国在留管理庁が定める「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」が、公共の支援を受けていないこと(公共の負担となっていないこと)を資格変更や期間更新の条件に定めていることだ(5項)。
この条項には、「在留を認めるべき人道上の理由が認められる場合には、その理由を十分勘案して判断する」とも記されている。とはいえ、「生活保護の取り扱いに準じた保護」を受けた場合に、それを理由として在留資格・期間の見直しが行われるリスクを示唆している。
「在留資格を失えば、(在日外国人にとっては)日本での生活基盤そのものが失われ、自分の居場所が無くなってしまう」(大澤氏)
前述した通り、生活保護を受給する外国人のほとんどは「日本人と同様の生活実態を有し、税金や社会保険料の納付義務を負っている人」であり、中には日本語しか話せない人もいる。
大澤氏によると、両親共に日本人で、ペルーで生まれ、その後来日し働く男性の相談に乗ったこともあるという。
日本人と事実上同等の生活実態をもち、社会の一員として、社会と経済を支えている類型の外国人に手を差し伸べることは、決して「優遇」とは言えないだろう。
また、必要最小限の公共の支援を受けたことを理由に在留資格を取り上げるのはあまりに酷で、非現実的かつ非実利的でもある。本当に支援を必要とする人が制度の外に取り残されないように、大澤氏はガイドラインの見直しを求めている。
■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。



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