
不同意性交等罪では、性行為における「同意」の判断の複雑さが問題になる。だまして同意させる行為は、当然「不同意」とみなされそうだが、法的にはどう判断されるのか。
不同意性交等罪の成立要件
同意を得ての性行為ではあったが、「除霊のため」やむを得ず相手が同意をしている場合、「同意」があったと認められるのか。「ポイントになるのは、行為が『わいせつなものではないとの誤信をさせること』です」
こう指摘するのは性犯罪や風営法に詳しい、若林翔弁護士だ。どういうことなのか。
「その程度について、法改正前の過去の裁判例では、精神的余裕を失い抗拒不能(※)と言える程度の行為によって性行為をすることが必要としているものもあり、その裁判例では霊感治療と称して性行為をした被告人は無罪になっています。
法改正により強姦(ごうかん)罪・強制性交等罪は、不同意性交等罪となっているので、これらの要件は緩和される可能性もありますが、虚偽(「除霊」など)によって相手の同意を得て性行為に及んだからといって、ただちに不同意性交等罪で有罪になるわけではなく、被告人の言動や被害者との関係なども合わせて検討がなされるかと思います」
※物理的または心理的に抵抗することが著しく困難な状態
一般に「性行為でなければ生き霊をはらえない」と言われただけでは、それを即座に信じるものではないし、心理的に抵抗することが著しく困難な状態には陥らないと考えられる。
しかし、被害者との関係性やそのときの状況(監禁状態で言われるなど)によっては、その言葉が心理的抵抗を著しく困難にすることもありうる。つまり、不同意性交等罪にあたるかどうかは、その言葉の内容に加え、加害者と被害者との間の関係性やそのときの状況などをも考慮して見極められるということだ。
では、今回の件について不同意性交等罪とは別に、詐欺罪には問われないのか。若林弁護士が解説する。
「『除霊のため』という理由が虚偽であり、その虚偽の理由によって金銭交付をさせていれば、「人を欺いて財物を交付させた者」との要件を満たし、詐欺罪(刑法246条1項)に該当します」
今回のケースでは、加害者が「除霊代」として被害者に50万円を支払わせたとされており、詐欺罪も成立する可能性はありそうだ。
性風俗店での「同意」「不同意」の悪用
不同意性交等罪は密室で行われることに加え、「不同意」の認定に慎重さが要求される側面もあり、犯罪成立の判断が難しいといわれる。それゆえに、思わぬ場所でトラブルが発生するケースもある。メンズエステでも思わぬ罠にかかる可能性がある※画像はイメージ(Ushico / PIXTA)
たとえば、メンズエステで、店ぐるみでセラピストに性的サービスを持ち掛ける指示をしておきながら、いざ行為が行われると客に罰金と称し、高額な金員を要求し支払わせるケース。本番禁止のヘルス店舗で、“合意”の上で性行為を行い、後になって、「不同意」を主張し、高額の支払いを請求するケースなど、法律を悪用したような手口で、客から法外の金額をむしり取るケースもあるという。
若林弁護士がこうしたケースにおける注意点をあげる。
「まず重要なのは、女性側の同意なく不意打ち的に本番行為を行った場合には、不同意性交等罪に該当するということです。
実際に、風俗で本番をしての逮捕事例もあります。
万一、不同意性交等罪に該当すると疑われるような行為をしてしまった場合には、弁護士に依頼をして早急に被害者側と示談をすることが重要です。
仮に店側から請求されているお金を払ったとしても、被害を受けたキャスト本人と店側のすり合わせがうまくできていないなどで、後からキャストが『自分はなにも合意していない』などとして訴えてくるようなケース、請求額を支払ったものの、後で別の名目での追加請求が来るようなケースもありえるところですので、しっかりと示談書・合意書を交わして解決をすべきです。
他方で、心当たりがないような場合や、店側が悪質な美人局(つつもたせ)店のようなケースもありますので、そのような場合には、すぐに警察や弁護士に相談して対応すべきです」
専門家への相談など、迅速な事後処理が、事を必要以上に大きくしないためにも必須といえるだろう。
夫婦間でも適用される不同意性交等罪
不同意性交等罪は夫婦間にも適用される。それだけに自宅とて油断はできない。どんなケースが危ないのか。「夫婦間では、その他の関係よりも『不同意』と判断はされづらいかと思います。
もっとも、DVなどの明確な原因がある場合や離婚協議中であるなど何らかの不同意の理由がある場合には、弁護士への依頼や示談なども含めてしっかりとした対応をすべきでしょう。
また、行為前後の夫婦関係の良好性を示すような証拠など、不同意を否定するような証拠があれば、それは保存しておくとよいでしょう」
不用意に罪に問われないための心構え
行為前の「同意」か「不同意」かが重要となる不同意性交等罪により、性行為に対し、より慎重さが求められるようになったといえるが、どんな場面でも、不用意に罪に問われないためにどのような心掛けが必要なのか。「基本的には、明確な同意をとることができればよいでしょう。相手との関係性を考えて、相手の立場にたって考えることが大事なのではないでしょうか。
また、行為前後の関係性を良好に保つことや、その証拠を残しておくことも重要です。社会的に上下関係がある(上司と部下、先輩と後輩等)など、客観的に相手方が断りづらい、断れないと言ったような状況の場合は、特に注意が必要です」
性欲は人間の三大欲求のひとつ。だからこそ、私利私欲に走らず、常に相手のことをおもんぱかる。裏を返せばそうした配慮の欠落が、意思疎通を阻害している。そう強く認識することが、過ちを犯さない最善の心構えといえそうだ。
【不同意性交等罪】
2023年年7月13日に性犯罪をより実効的に処罰できるようにするため、性犯罪に関する規定が改正され、「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」の二つの犯罪が統合。新たに「不同意性交等罪」が創設された。同様に、「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」の二つも統合され、新たに「不同意わいせつ罪」が創設されている。