8月13日、東京・葛飾区で暴露系アカウントを運営する40代男性の自宅に侵入し、土下座を強要したとして男2人が逮捕された。
複数の報道によると、2人は5月、窓ガラスを割って侵入し、寝ていた男性に「SNSのアカウントのパスワードを教えろ。
今までの投稿について謝罪しろ」と土下座を強要。さらにスマートフォンを電子レンジで加熱して破壊したという。
被害者男性はキャバクラ店員の個人情報や他人の裏話をSNSに投稿する「暴露系」アカウントを運営。約1万人のフォロワーを抱えており、容疑者らの行動は、被害者に暴露話を投稿された人物から、投稿を削除させるよう依頼を受けたことがきっかけとみられている。
いくら「暴露話」によって被害を受けたとしても、他人のスマホを破壊したり、土下座を強要したり…といった行為は犯罪である。だが、もし仮に、自己のプライバシーに関する情報や個人情報等を、「暴露系」インフルエンサーに晒(さら)されてしまった場合、どのように相手と交渉するべきなのだろうか。

「合法的な交渉」を行うには

刑事事件や削除請求に詳しい雨宮和希弁護士はまず「正当な抗議のつもりでも、相手が“恐怖”を感じた時点で、刑事責任を問われる可能性があると理解すべき」とくぎを刺す。
「脅迫罪(刑法222条)は、生命・身体・自由・名誉・財産に対する害悪の告知で相手を怖がらせた場合に成立します。たとえば『家に行く』『家族にバラす』などと告げる行為が当てはまるでしょう。
また、土下座を強制する、脅す、威圧するなどして、削除を強要するなど、暴行や脅迫を用いて、相手に義務のないことを強制した場合は、強要罪(刑法223条)に該当し得ます。
ですので、自分自身が恐怖心を覚えるような言動は避けた方がよいかと思います」(雨宮弁護士)
では「合法的な交渉」を行うにはどのようにすれば良いのだろうか。雨宮弁護士は「相手への正当な抗議や削除依頼として受け取られる必要がある」として、冷静かつ事実に基づき、次のような文面をスクリーンショットなど証拠を添えて相手に送ることを提案する。
「〇月〇日の投稿に、私の本名および××が含まれており、プライバシー侵害にあたります。
削除をお願いできますでしょうか」
「内容に事実誤認があります。名誉毀損にあたる可能性もありますので、削除と謝罪をご検討ください」
また、直接・対面での交渉を避けることや、第三者(弁護士・代理人)を通して連絡することも、トラブルの激化を回避するのに役立つと考えられるという。

交渉以外の「4つの対応」とは?

また、こうした「交渉」以外にも、暴露系インフルエンサーによって被害を受けた場合には法的な手段を含めて「4つの対応が考えられる」と雨宮弁護士は解説する。
第一に、SNSの運営元に対して、本人または弁護士を通じて削除を求める対応だ。雨宮弁護士によると、投稿の違法性が明確な場合は迅速に削除される傾向にあるものの、通常は数日から数週間を要するといい、削除されるタイミングは最終的には運営元の判断次第になるという。
第二に考えられるのは発信者情報開示請求だ。相手が匿名の場合「SNSの運営元へIP開示請求」「プロバイダへの照会」という二段階の手続きを経て相手の特定が可能となり、後述する損害賠償請求等につながる。
しかし、証拠保全と専門的手続きが必要なうえに、2~6か月程度の時間がかかるため、注意が必要だ。
第三に、相手が特定できた場合は、投稿の内容により、名誉毀損等を理由とした損害賠償を求める民事訴訟や示談交渉が可能となる。ただし、「投稿内容や裁判所によって異なりますが、3か月から場合によっては1年以上の時間を要することもある」(雨宮弁護士)という。
第四に、投稿が明らかに違法で悪質な場合、名誉毀損罪等での刑事告訴も考えられる。こちらも数か月~1年以上かかるうえに、「受理されるかどうかは内容次第で、警察がなかなか告訴を受理してくれないケースもある」(同前)とのことだ。

「冷静かつ戦略的な対応が鍵」

この4つの対応とその詳細を見ていくと、制度が複雑かつ時間を要するため、冒頭の事件のように相手側に直接乗り込んでしまう人も出てくるかもしれない。

そこで雨宮弁護士には、個人情報等が万が一晒された場合の「より現実的な対処の流れ」についても話を聞いた。
「まずはスクリーンショットやURL、日時などの証拠保全が最優先です。証拠次第で、その後の動きも変わってきます。
そして、暴露系インフルエンサーによる投稿が続く、もしくは投稿が悪質な場合は弁護士への相談を推奨します。
なぜなら、SNS事業者への削除申請は本人でも可能ですが、開示請求・訴訟などは専門知識が必要になるからです。また、裁判となれば長期戦・費用も発生するため、弁護士を通じた示談交渉での解決も視野に入れることになるでしょう。
いずれにしても、暴露系インフルエンサーに法的に対抗するには、冷静かつ戦略的な対応が鍵になります。
まずは『その投稿が違法かどうか』の線引きが重要です。そのうえで、もし、名誉毀損やプライバシー侵害に該当する可能性があれば、粛々と法的手段を講じましょう」(雨宮弁護士)


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