27年前の大雪の1月、群馬県群馬町(現高崎市)の石井武夫さん宅が血に染まった。犯人は、この家で両親、祖母と同居する長女を、ストーキングしていた小暮洋史。

3人が殺害されたことを知らずに帰宅した長女は、自身も襲われたが、約1時間半にわたり、小暮を説得し、九死に一生を得る。
だが、現場から姿を消した小暮はそれ以来、足取りが途絶え、重要指名手配されているいまに至るまで、消息も行方も不明のままだ。
※ この記事は、『読んで震えろ!世界の未解決事件ミステリー』(鉄人社、2024年)より一部抜粋・構成しています。

惨殺犯はいまも重要指名手配中

1998年1月14日の夜、群馬県群馬町二ツ寺で電気工事業を営む石井武夫さん(当時48歳)宅で、武夫さんをはじめ、妻・千津子さん(同48歳)、武夫さんの母・トメさん(同85歳)の3人が惨殺された。
犯人は、武夫さんの長女(同21歳)にストーカー行為を働いていた運送会社の元従業員・小暮(同28歳)と判明しているが、事件から27年以上が経過した現在も小暮容疑者は逮捕されておらず、警察庁指定重要指名手配被疑者の身にある。

幼少期からコミュニケーションが苦手だった犯人

小暮は1969年、群馬県前橋市に生まれた。幼少期から周囲とコミュニケーションを取るのが不得手で、歳を重ねても無愛想な性格は変わらなかった。
地元の工業高校を卒業後、運送会社に就職、トラック運転手として働き始める。周囲には上手く溶け込めなかったものの、勤務態度は真面目で、上司からの評価は決して低くなかった。
そんな小暮には、爪を噛んだり手の匂いを嗅いだりする特徴的な癖があった。これは子どもによくみられるもので、人間関係のストレスや情緒の不安定さなどに影響されているという。
1995年春、納品先である高崎市内のドラッグストアに勤務する1人の女性店員に出会う。後に両親と祖母を殺害される石井家の長女だ。
高校を卒業したばかりで、仕事にやりがいを感じていた長女の店に、小暮は出入り業者として週2回のペースで訪れた。

薬局で出会った女性に一方的に好意

当初、彼女は小暮に、無口で真面目な印象を持っていたそうだ。対し、小暮が抱いていたのは一方的な好意。
内気な性格ゆえ、思いを打ち明けることはできなかったばかりか、やがてそれは“付きまとい”という歪んだ形で表れる。職場の同僚に誘われ、長女がボウリングに行ったある日のこと、なぜか、そこに配達業者の小暮がいた。
単なる偶然だろうと彼女が挨拶を交わしたところ、小暮は普段とは違い積極的に話しかけてくる。「車の運転が好き」と口にしたのも世間話の一つだった。
しかし、それからほどなく、小暮は長女が格好いいと言っていた日産・シルビアを購入。ドラッグストアに乗り付け自慢げに見せつけた。彼女の中に漠然とした違和感が生まれる。

長女の困惑に気づかない小暮は、店に訪れるたび積極的にドライブデートに誘った。何度断っても、あきらめない小暮。そのうち、仕事帰りの長女を待ち伏せして後をつけるようになった。
自宅を突き止めたうえ住所から電話番号を調べ、しつこく電話をかけてくる。
現在なら警察が介入すべき案件だが、当時、ストーカー規制法はなく(施行は2000年11月)、彼女は警察に相談する発想すらなかった。
どころか、あまりのしつこさに根負けしたのか、小暮の誘いに応じドライブに一度だけ付き合ってしまう。早く時間が過ぎることを願っていただけの長女に対し、小暮は思いをより深くし、以来、毎日のように電話をかけてきて、さらには金品を貢いだり、自宅に押しかけてきたりするようになる。
さすがに恐怖を感じた彼女は勤務先の店長にこれまでの経緯を打ち明け、小暮が仕事で店を訪れる予定の日は、事前に身を隠すなどの対策を講じる。結果、ドラッグストアで2人が会うことはなくなり、自宅への電話も徐々に減っていった。

エスカレートしたストーカー行為

しかし、それは一時的なものに過ぎず、小暮は勤務外で店を訪れるようになる。
そんな小暮に店長は「彼女が怖がっている」と注意したものの、本人に伝わることはなかった。
ストーカー行為はエスカレートしていき、自宅への電話も以前より増え、時には長女の車のワイパーに「また会いたい」と記した手紙が挟まれることもあった。
彼女の両親は小暮に激怒し、娘に近づかないよう直接、警告したものの、それは結果的に逆効果となってしまう。
ストーカー行為が始まって1年半が過ぎた1998年の年始め、小暮が店を訪れる予定だったその日、現れたのは別のドライバーだった。なんでも、小暮は1月4日付けで会社を辞めたのだという。もう、あの男に会わずに済む。素直に安堵した彼女が悪夢に襲われるのは、それから10日後のことだ。

大雪の1月、女性宅を訪れ、両親らを殺害

大雪となった1月14日19時ごろ、小暮は石井家を訪れる。このとき家にいたのは祖母のトメさんだけ。長女と両親はまだ仕事から戻っていなかった。小暮にとっては彼女の家族は、自分を邪険に扱う敵だったのだろう。
家に押し入ると、祖母の首を絞めて殺害。ほどなく帰ってきた両親を包丁で刺殺し、遺体を押入れに隠した後、屋内に潜んだ。
21時ごろ、長女が帰宅すると背後から襲い、玄関脇の和室に引きずりこんだ。彼女は激しく抵抗し、興奮した様子の小暮を約1時間半にわたってなだめた。
観念したのか、小暮は「家族は薬で眠らせている」と言い残し、姿を消した。22時半ごろ、長女が110番通報。彼女が、家族3人が殺されたことを知るのは警察が到着した後のことだった。
群馬県警は直ちに小暮容疑者の逮捕状を請求。
逃走に使用したとみられる黒色の日産・シルビア(ナンバー「群馬33も8670」)も判明し、逮捕は時間の問題と思われた。
しかし、1月21日深夜、群馬県みどり市笠懸町周辺での車両の目撃情報を最後に、現在までに行方につながる有力情報は得られていない。小暮容疑者はどこに消えたのか。犯人確保、事件解決を願ってやまない。


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