ガソリン税「暫定税率」廃止でも解決せず? 消費税“二重課税(Tax on Tax)”の問題…「少しでも多く税金を」政府の“都合の良い解釈”とは
8月1日、立憲民主党など野党は、臨時国会(5日閉会)にガソリン税の「暫定税率」を廃止する法案を提出した。与党の自民党・公明党も、暫定税率を年内に廃止する方向で合意しているが、代替の財源確保等の問題をめぐり調整が難航することも予想され、先行きは不透明といわざるを得ない。

また、仮に暫定税率が廃止されたとしても、その他にも、ガソリン税を含むガソリン価格全体に「消費税」がかかるという「Tax on Tax(タックス オン タックス)」の問題は残る。
このような、いわば「税金の上からさらに税金が取られる状態」が、なぜ1989年の消費税導入以来36年間にわたり正当化されてきたのか。税法理論からみて問題はないのか。
税法理論に詳しく、YouTube等を通じ、納税者の側に立って税金・会計に関する情報発信を行っている、黒瀧泰介税理士(税理士法人グランサーズ共同代表、公認会計士)に聞いた。

法理論上はTax on Taxを「正当化できなくもない」が…

ガソリンを購入すると、ガソリン税が『1リットル53.8円』かかる。そして、ガソリン税を含むガソリン価格全体に10%の消費税が課税される。
資源エネルギー庁によればガソリン価格は8月18日時点で1リットル174.7円。50リットル給油したらガソリン価格は8735円、うちガソリン本体が6045円、ガソリン税が2690円。ここに消費税(10%)873円がかかるが、うち269円がガソリン税2690円の上にかかっていることになる(【図表】参照)。
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【図表】Tax on Taxの構造

1989年に消費税が導入されてから36年が経過したが、その間、なぜこの「Tax on Tax」の状態は、たびたび問題として指摘されながら温存されてきたのか。法理論的にどのように正当化されるのか。
黒瀧税理士は、その理屈として、ガソリン税と消費税が、いずれも納税義務者と税負担者とが分離する「間接税」であるという「法形式」に着目することが考えられると指摘する。
黒瀧税理士:「私たちは日頃、ガソリンを入れるときに『ガソリン税を払っている』『消費税を払っている』という認識を持っています。
しかし、これは厳密には異なります。
ガソリン税と消費税の法形式に着目すれば、それらの納税義務を負うのはガソリンの販売業者であり、消費者ではありません。
『ガソリン税相当額』『消費税相当額』を価格に上乗せするか否かと、いくら上乗せするかは、納税義務者である販売業者の側が自己責任で決めています。極端な話、消費税相当額を価格転嫁せず、自分が負担するという判断もあり得るのです。
したがって、その是非は別として、法形式論上は『消費者は消費税を納税していないから、Tax on Taxにならない』という理屈も、一応は成り立ち得ることになります」

実態とかけ離れ、「インボイス制度」導入時の説明とも矛盾

しかし、黒瀧税理士は、この説明は実態とかけ離れていると指摘する。
黒瀧税理士:「ガソリン販売業者がガソリン税や消費税を自己負担しているという例は見聞きしたことがありません。また、そのようにする経済合理性も乏しいといわざるを得ません。
したがって、ガソリンの販売業者のほぼ100%が、ガソリン税相当額、消費税相当額を価格に上乗せしているとみられます。
結局、『形式』ではなく、最終的にガソリンを購入する国民が、ガソリン税相当額と消費税相当額を負担しているという『実質』に着目しなければ意味がありません。
そうすると、ガソリン税に消費税がかかるTax on Taxの状態が生じているといわざるを得ません」
また、法形式のみに着目する理屈は、政府が消費税のインボイス制度(※)を導入する際に同制度を正当化するのに用いたロジックと矛盾するという。
※事業者が、消費税の納税額の計算上(売り上げた時に受け取った消費税額-仕入れの時に支払った消費税額)、自身が仕入れの際に支払った消費税の額を証明する資料として、取引先から決まった様式の「適格請求書」(インボイス)の発行を受けなければならないという制度
黒瀧税理士:「政府は、インボイス制度を導入する際に、消費税が『預り金的な性格を有する』と強調していました。
これは消費税を『誰が納税するのか』ではなく『誰が負担するのか』という実質に着目したものです。
もし、政府が法形式論を根拠として『二重課税』を正当化する理屈を採用しているならば、国民から税金をたくさん取るために、法形式論と実質論を都合よく使い分けていることになります」

政府の立場は「税金を少しでも多くとる」で一貫?

消費税のインボイス制度は、インボイスを発行できるのが課税事業者に限られることから、年間売上高1000万円以下の中小・零細の「免税事業者」に対して酷な制度との指摘がなされてきた。

すなわち、インボイス制度の下では、免税事業者と取引した相手方は、免税事業者からインボイスを受け取れないため、消費税を納税するときに消費税の額を納税額から控除できなくなる。それにより、免税事業者との取引が避けられるおそれがある。
しかし、このような問題が指摘され、かつ野党の多くが反対したにもかかわらず、政府・与党は、2023年10月にインボイス制度の施行に踏み切った。その主な理由が、「消費税は『預かり金的な性格』を有するから」というものだった。
これは、消費税の最終的な負担者が消費者であるという「実質」に着目したものといえる。
黒瀧税理士:「前述したように、消費税法の仕組み上は、『消費税相当額』を価格に上乗せするかどうかは、納税者である販売業者が自己責任で決めることになっています。
そして、免税事業者の場合、従来は事実上、消費税相当額を価格に上乗せしてこなかったという実態があります。なぜなら、消費税の納税義務を負わないのでその分を価格転嫁する必要性が乏しいうえ、もし価格転嫁すれば競争上不利になるからです。
それなのに、インボイス制度により、従来の免税事業者は、免税事業者のままでいようとすればインボイスを発行できず、取引先から取引を避けられるリスクを負います。
他方で、免税事業者をやめてインボイス発行事業者になった場合、消費税相当額を価格転嫁するべく取引先と交渉し直すことは容易ではありません。結局、中小・零細事業者は苦しい立場に追いやられています。
消費税が『預かり金的な性格を有する』という実質を強調しておきながら、免税事業者の実態を踏まえない。
しかも、ガソリン税との関係では実質ではなく法形式を強調する。国の姿勢は一貫性を欠くといわざるを得ません」
結局、政府の立場で一貫しているのは、「税金をより多く取れるかどうか」という“都合”だけであるようにも見える。
今後、国会では、ガソリン税に関する諸問題について、活発な審議が行われることが想定される。野党の多くは消費税のインボイス制度に対しても批判的であり、審議においては、暫定税率の問題だけでなく、Tax on Taxの問題やインボイス制度との整合性についても、厳しく問われることは避けられないだろう。


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