
奨学生には母子家庭で育った若者も多いが…
今回発表された「給付型奨学生食糧支援プロジェクトアンケート」は、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が実施する給付型奨学金を受給している奨学生354名を対象に行われた。応募期間は今年7月1日から同月25日まで。その結果によると、「最近の物価上昇について、家計に対する影響はありますか?」の質問には91%の奨学生が「苦しくなった」または「非常に苦しくなった」と回答。これらの回答をした奨学生のうち約65%は食費の支出が以前と比べて「増えている」と回答、約10%は「大幅に増えている」と回答している。
9割以上の奨学生が「物価上昇により家計が苦しくなった」と回答(DxP 提供)
また、「普段の食事に満足しているか」との質問に対しては、約50%の奨学生が「あまり満足していない」、約6%が「全く満足していない」と回答。
さらに、今回のアンケートでは「学校や家族関係、生活やお金に関して困っていること」について自由回答で質問している。その結果をDxPが分析したところ、家庭の経済的負担に関する悩みと、生活費や学費を稼ぐためのアルバイトにより勉学の時間が失われることに関する悩みが特に多かったという。
アンケートに答えた奨学生らはDxPの実施する相談サービス「ユキサキチャット」の利用者や食糧支援の対象者らだ。今井紀明理事長によると、ひとり親家庭の若者が多いという。
自由回答の具体例を見てみると、父親の死亡や離婚によって母子家庭で育った奨学生による、母に経済的負担をかけることを申し訳なく思いながらも物価高騰により生活に支障が出て悩み苦しんでいる声が複数あった。
一方、奨学金を受給しても親に取られて使い込まれてしまうケースもあるという。また、学業やアルバイトを両立させると共に親の介護を担わざるを得ない学生もいる。
「米の品薄は落ち着くのか。先が見えず不安は膨らんでいく一方」
調査結果を発表した会見では、回答者の1人である看護学生の音声も流された。「きょうだいが多く、下に進学したい子もいるからこそ、どうしようかなと悩みながら生活している。
3年生になってから実習や課題が増えた。実習先への集合時間が早く、宿泊しながら実習をすることもあるが、宿泊費・交通費は自分の勉強ということで自費で支払う。ここ3か月ほどアルバイトに全く入れず、収入が途絶えてしまった。文系の大学生に比べても、制限されていると思う。
このまま生き続けてもいいのかな、ということも考える」
また、自由回答欄には、他の奨学生からも以下のような声が寄せられていた。
「アルバイトをしているが現在の勤務時間でも研究活動に支障が出ているため、バイトの時間は減らしていきたいと考えているが、収入状況が変わらなければそれも無理である。今年度は教育実習もあるため、その時間はアルバイトができず収入が減ることも心配である」
「家族から性被害を受けて家を出て、仕送りが全くない状態で一人暮らしをしています。非課税世帯でひとり親家庭のため親にも頼れず、給付奨学金で生きています。
食費が本当に苦しいです。パニック障害になってしまったため、アルバイトは一時休止し、勉学や通院で体調を治すことに専念していますが、薬代も病院代も負担です。生きていくお金がもつか本当に不安です」
「幼いころに父親をなくし、母親に経済的負担をかけてきた。
しかし現在、食費、光熱費などの生きていく上でかかってしまう費用はどんどん値上がりしている。今まで当たり前に食べられていたお米も手に入らなくなり、野菜も高く、スーパーに行くたびにこれといったものは買わずに終わることも増えた。米の品薄は落ち着くのか。先の見えないことに不安は膨らんでいく一方だ」
困窮する学生への緊急給付と「物価スライド制」の導入を提言
物価上昇が続くなか、奨学生への支援が追い付いていない現状がある。高等教育の修学支援新制度は2020年から始まっているが、総務省が発表している消費者物価指数を見ると、現在は2020年に比べて物価が約11.7%上昇している。「このようななかで同額給付を続けていては、奨学金の実質的な価値が1割程度減少することになってしまう」と今井理事長は指摘する。
DxPは、困窮している学生に対する緊急給付、そして中長期的には奨学金の給付額に物価スライド制(物価の変動に応じて、給付額を自動的に調整する仕組み)を導入することを提言する。

5年間で物価は10%以上高騰した(DxP 提供)
「ユキサキチャット」の登録者は年々増えているが、7月は過去最多となる約800名の増加。DxPが行っている食糧支援や現金給付の件数・金額も、急速に増えている。
今井理事長は、国の福祉や社会保障制度にはオンラインでの窓口が乏しく、特に若者にとっては「あってないようなもの」であり機能していないと指摘。
そして「国ができないなら、民間がやるしかない。
また、親や家族に頼れない若者にとって、夏休みは特に孤立が増す時期だ。今井理事長は「若者たちに相談を呼びかけていきたい」と語る。