
東京・新宿の大ガード交差点を映したライブカメラに残されていた、ショッキングな事故の動画がSNS上で拡散した。
動画を見た人からは、「これは信号無視のモペットが悪い」「乗用車が可哀想」と乗用車側を擁護する声や、「これでも車の過失になるの?」「これで車側が悪くなったら運転できない」とおびえる声が集まった。
実際のところ、今回のようなケースでは、過失割合はどのように算出されるのか。弁護士に話を聞いた。
なお、今回の事故をめぐっては、信号無視をした側を「モペット」(ペダル付き電動バイク)と断定する意見もあったが、動画からはモペットか電動自転車かは判断がつかなかったため、本記事では断定していない。
朝の新宿“赤信号”もスピード直進…
SNSで拡散した投稿・動画によれば、事故が発生したのは、8月8日(金)午前8時半ごろ。赤信号を無視したモペット(あるいは電動自転車)が、横断歩道を渡る歩行者を避けながらスピードを落とさず交差点内に侵入。青信号を直進しようとしていた乗用車と衝突した。
事故直前の様子。赤矢印が電動自転車、青矢印が乗用車(画像はSNSより、矢印は編集部)
両者ともに、右折車が死角となり、お互いの姿を衝突の瞬間まで確認できていなかったとみられる。
拡散された2分ほどの映像には、衝突後、モペットの運転手が飛ばされ地面に横たわる様子と、それを助けようと駆け付ける歩行者、そして一度車を降りて事故を確認した後、交差点の先に乗用車を止めて現場に走って戻る車側の運転手の姿なども記録されていた。
相手が「モペット」か「電動自転車」かで過失割合は変わる
モペット(あるいは電動自転車)の赤信号無視は明らかな違反行為だが、この場合も「車の過失」になるのだろうか。交通事故事件を多く取り扱う鷲塚建弥弁護士は、今回の事故では、赤信号無視をしたのが「モペット」であったか「電動自転車」だったのかによって基本過失割合が異なるとして、両者の法的な取り扱いを次のように説明する。
「2024年11月1日に施行された改正道路交通法での明文化により、モペットは、エンジンやモーターで自走する場合はもちろん、ペダルのみで走行する場合でも原動機付自転車(バイク)として扱われることが明確になりました。
これにより、法的地位がより明確化され、過失割合の判断においてもバイク事故の基準が適用されることになるものと考えられます。
他方で、電動自転車は、あくまで『自転車』であるため、電動であるということだけでは、直ちに過失割合が変わることはありません。
ただし、電動自転車における電動アシストに関しては一定の基準が設けられており、その基準を超えると、名称が電動自転車であろうと、バイクと同様の扱いとなります。
わかりやすい見分け方としては、『型式認定TSマーク』が表示されていれば、自転車の枠内であることが正式に認定されています」(鷲塚弁護士)

型式認定TSマーク(警視庁「『電動アシスト自転車』と『ペダル付き電動バイク』の違いについて」ページより)
相手が「電動自転車」の場合は車側にも過失あり
では具体的に、モペットだった場合と、電動自転車だった場合で、過失割合はそれぞれどうなるのか。「赤信号無視をしたのがモペットであった場合、基本過失割合は、モペット側が100%、青信号の車側が0%になります(別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂5版」161図参照)。
ただ、もし赤信号無視をしたのが(電動)自転車だった場合には、自転車側が80%、車側が20%となることが一般的です(同236図参照)。
対自転車の際に車側に過失が生じる主な理由として挙げられるのは、交差点では常に注意を払う義務があることと、自転車よりも車の方が相対的に危険性が高い車両であることです」(鷲塚弁護士)
見た目では区別がつきにくい「モペット」と「電動自転車」だが、自動車のドライバーにとっては、事故の相手になった場合に、かなりの“違い”があると言えるだろう。
警察庁によると、全国的にモペットによる事故が急増。2022年に27件だったモペット関連の交通事故は、23年には57件発生している。
また、自転車全体の事故が減少傾向にある中、電動自転車が絡んだ事故は増え続けているという。
鷲塚弁護士は「残念ながらモペットを自転車感覚で利用している人や、自身が乗っているものがモペットなのか電動自転車なのか把握していない人もいる」として、自動車のドライバーらに自衛を呼び掛ける。
「『青信号だから必ず安全』という油断はせずに、常に『かもしれない運転』を心がけ、ご自身の安全も守っていただきたいと思います」