NPO法人「ストップ結核パートナーシップ」日本や結核予防会結核研究所、厚生労働省は8月26日午後、予防週間が始まるのを前に都内で会見。
「対策・研究に十分な予算確保を」
冒頭、ストップ結核パートナーシップ日本の森亨(もり・とおる)代表理事は、世界の動向を報告。最新の推計によると、2023年には、世界で約1080万人が結核に罹患(りかん)し、そのうち125万人が死亡したという。「特にインドネシアや中国、フィリピンといった日本との往来の多い国々が『多発国』とされており、日本も無関係ではありません。
結核は世界でもっとも深刻な感染症の一つですし、1980年代の終わりから問題になっているHIVと結核の合併症はその危険性から『呪いのデュエット』とも呼ばれてきましたが、この基本的な問題性は変わらぬままです。
化学療法の進歩により、結核は治せる病気になりました。しかし、治療法を誤ると、薬に対する抵抗性が作られ、薬が効かなくなることもあります。この薬剤耐性結核は、途上国を中心に大きな問題になっています」(森代表理事)
こうした状況を受け、森代表理事は「結核問題は政治課題として捉えられていかなければならない」と訴える。
「結核対策や研究のために必要となる、十分な予算の確保を政治の場で考えて行く必要があると思います」(同前)
「高齢者に多く、若年層にも広がり」
続いて結核予防会結核研究所の加藤誠也所長は、日本国内における2024年の結核の発生動向調査結果について発表した。2024年の人口10万人あたりの罹患率は8.1。都道府県別では、大阪府(12.8)がもっとも高く、もっとも低かったのは山形県の4.4であった。
ただし、加藤所長によると「大阪府も結核対策については非常に努力している」と述べる。
「それでも、あいりん地区(西成区)のように社会経済的弱者の集まる地域を抱える場所は、どうしても罹患率が高くなる傾向にあります」(加藤所長)
また、年齢別の結核罹患率の特徴としては「高齢者に多い」点と、「20代から30代の若年層への広がり」があげられた。
「60歳以上が患者全体の約半数を占める一方、近年は留学や仕事で日本に来る若い世代の外国出生者の間でも、結核に罹患するケースが顕著になってきています。
実際、20歳代の結核患者のうち、約90%は外国出生者です。また、日本の全結核患者に占める外国出生者の割合は、2000年には2.1%だったものが、2024年には約20%にまで増加しています」(同前)
「入国前スクリーニング」導入
この日、会見に出席した厚労省感染症対策課の木庭愛(こば・あい)課長は現状について、「高齢者層における罹患率の減少スピードが落ちており、同時に若年層、そのなかでも特に外国籍の方の結核患者の増加によってこれまでのようなペースでは罹患率が下がっていない」と評価。「現在高齢者の方は、かつて日本がまだ結核の高まん延国だった頃に、結核菌の曝露を受けて、現在になって発症しているケースも多く、この傾向をどうにかするのは難しいのが現状です。
しかし、結核対策はできるだけ早期の発見と治療が欠かせません。医療機関やご家族の協力も得ながら、感染症法53条の2にもある通り、定期の健康診断を受けていただき、できるだけ早い段階での受診につなげていくことが重要であると考えております」(木庭課長)
また、政府は今年度からフィリピンやネパール、そしてベトナムを対象に「入国前スクリーニング」を導入。
「中長期、日本に滞在する予定の方は出国前に結核の有無を確認し、もし発症が分かった場合には、治療してから来てもらうよう、確認する制度を導入しました。
ですが、入国後数年内に発症する事例もありますので、今後も検診や事業所等での健康管理が不可欠であり、注意喚起などを進めていきたいです」(同前)
「対策を緩めてはならない」
会見の終盤、加藤所長は「患者数は減少傾向にあるが対策を緩めてはならない」として、次のように警鐘を鳴らした。「労働力の逼迫(ひっぱく)から、今後より多くの外国人労働者が日本に来るようになれば、それに応じて結核患者が増える可能性もあります。
一方、治療の面では、新薬の開発などが進んでいますので、技術革新の大きな流れに、日本が乗り遅れることがないよう、そしてさらなる罹患率低下を目指すためにも、新しい技術の導入にも取り組むことが必要です」(加藤所長)