さらに転載者は、YouTube側による検知を逃れるためか、本来の動画を無関係な動画の上に重ねるという巧妙な手口まで使用している。こうした悪質な転載行為に対し、クリエイターは何ができるのか。専門家への取材を通じて対策法を探った。
「さすがに酷すぎると強く感じた」
動画制作について、「企画から編集まで、すべて自分一人で行っています。1本あたり少なくとも30時間ほど費やしています」と語るウェブマニア氏。10分程度の動画であっても、「少しでも分かりやすく、少しでも興味を持ってもらえるように、試行錯誤を重ねながら『作品を作る』という気持ちで取り組んでいる」という。
そんな労力をかけた作品が、“丸ごと盗用”された際の心境について、同氏は「無断転載はこれまでも何度か経験しているため、最初に気づいたときの正直な気持ちは『またか』でした」と振り返る。
しかし今回は状況が異なっていた。
「これまでは、動画の一部分だけが使われる程度でしたが、今回は動画を丸ごと、さらにタイトルやサムネイルまでもが、完全にコピーされ、投稿されていました。
しかも一つの動画だけでなく、チャンネル内のほぼすべての動画が転載されていたので、『これはさすがに酷(ひど)すぎる』と強く感じました」
特に懸念されるのが、転載した側からの“逆通報”により本家の動画収益が停止される可能性で、ウェブマニア氏のXには、リプライで同様の指摘がなされていた。
この点について同氏は「一時的に『誤BANされるのでは』という不安はありました」としながらも、「真面目に自分で動画を制作しているという自負があるため、万が一の場合も、YouTubeに直接確認すれば大丈夫だろうと考えていました」と冷静に受け止めている。
「意図的な著作権侵害、悪質性は高い」
こうした悪質な転載行為に対して、法的にはどのような対応が可能なのか。クリエイターやYouTuberに関連する法律に詳しい前原一輝弁護士に聞いた。前原弁護士はまず「YouTube動画やサムネイルは創作性があれば著作物となります」と指摘。
「その著作物に依拠し、類似性のあるものを作成したり、インターネット上にアップロードすれば、著作権侵害となります。
この場合、違法なものを作成・アップロードした者に対して、損害賠償請求や差止請求をすることができます」(前原弁護士)
依拠とは他人の著作物に接し、それを自己の作品の中に用いることをいい、類似性があるというのは、判例上、原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるという意味だ。
また、前原弁護士は「今回のような完全コピーは『デッドコピー』と呼ばれ、意図的に著作権侵害を行っているという意味で悪質性は高い」と続ける。
「転載者が透かしを入れるなどの改変を加えた場合でも、『翻案』という行為に当たりますので、やはり著作権侵害には変わりはありません。また、同一性保持権という著作者人格権を侵害する行為にも該当します。この程度の改変では、法的責任を回避できません」(同前)
プラットフォームの法的責任は限定的
一方で、YouTube側の法的責任は限定的だという。「YouTubeは米国のDMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づいた手続きを用意しており、プラットフォーム側に損害賠償責任が認められる可能性は極めて低いです。
なぜなら、同法では、プラットフォームは『著作権侵害に関する通知が来たら投稿を削除し、異議が来たら復旧する』という手続を、適切に運用していれば責任を負わないとされているからです」(前原弁護士)
また、転載者が本家に対して著作権侵害通知を送る、といった場合についても、「著作権侵害通知に対しては異議申し立てができ、本家が異議申し立てを行って明確に著作権侵害とは判断できない状況になれば動画は復活するので、この流れで収益が停止するという状況は、私の実務上では経験がありません」(同前)と説明した。
法的手段は可能だが…「外国人相手はハードル高い」
加えて、転載者が外国人の場合、責任追及は困難になるという。「仮に、このような転載者の行為によって、本人が収益を得られなくなった場合、転載者に対する損害賠償請求は理論上可能です。ですが、転載者を特定しなければならないのでややハードルは高いかもしれません。
また、管轄の問題から、日本で裁判を起こせるのかどうか、という問題もあります。
ほかにも訴状の送達の問題、判決の執行の問題もあり、容易ではありません。もし日本で裁判を起こせない場合、相手の国での訴訟提起も考えられますが、費用が非常に高くつきます」(前原弁護士)
「迅速な通報が最重、ファンにできることも」
では、クリエイターは、動画の無断転載に対しどのような対策を講じることができるのか。前原弁護士は「転載者を発見した時は、速やかにYouTubeに対して著作権侵害通知を行うことが重要です」と強調。
この点に関しては、ウェブマニア氏も「YouTubeには無断転載を申し立てる仕組みがあり、申請するとすぐに対応していただけているので、大きな不満はありません」と評価している。
また、前原弁護士によると、動画の投稿者だけでなく、視聴者やファンにも無断転載に対して「できることがある」という。
「視聴者、ファンもそのような動画を見つけた際に、動画作成者に情報提供することで、通知を行うきっかけにつながります」
「投稿時点で無断転載を防げるような仕組みを」
ウェブマニア氏はこの件を通じて、無断転載者に対して次のようにコメント。「シンプルに『やめてほしい』というのが率直な思いです。 現状ではYouTubeへの申請も動画単位でしかできないため、チャンネル全体をまるごと無断転載されると対応も非常に大変ですからね」
またYouTube側に対しても、以下のような技術的な解決策を求めた。
「投稿時点で無断転載を防げるような仕組みが整えば、クリエイターの負担はより軽くなると思います。
また、一部の視聴者が転載チャンネルを私の『サブチャンネル』と勘違いしてしまうケースもあったので、転載動画の投稿自体をブロックできれば、そうした被害も防げるのではないでしょうか」