喫煙所「空き箱放置」で“前科者”に? 一服後、思わぬ「代償」負う可能性も…愛煙家「知らなかった」では済まない“法的リスク”
2020年4月1日の改正健康増進法施行により、多くの施設で屋内が原則禁煙となって以降、喫煙者にとって、数少ない喫煙所は、憩いのスペースと言える。
たばこは嗜好(しこう)品であり、心穏やかに過ごせる場所でゆっくり一服したいと考える愛煙家は多いだろう。
一方で「ゴミは持ち帰るように」といった張り紙、注意書きがしてあるにもかかわらず、飲み物の空き缶や、たばこの空き箱、箱を包むフィルムなど、灰以外の物が捨てられ、居心地の悪い空間となってしまっている喫煙所は少なくない。
国立がん研究センターの調査(2023年)によると、全人口のうち、喫煙者が占める割合は男性25.6%、女性が6.9%、男女計15.7%となっており、「男性では成人全体、および20歳~70歳代それぞれで減少傾向。女性では成人全体、および20歳、30歳代、および70歳代で減少傾向」にあるとしている。
このように喫煙スペースだけでなく、喫煙者自体も減っていく昨今の状況で、ゴミが放置された喫煙所が増えれば、「喫煙者=マナーが悪い」とのイメージが広がり、ますます「肩身の狭い思い」を抱えることにつながりかねない。

「廃棄物処理法などに違反する場合も」

喫煙所内のポイ捨て行為は、喫煙者の肩身を狭めるだけでなく、法的なリスクも抱えている。
民事事件、刑事事件ともに取り扱う結城将太弁護士は、以下のように解説する。
「ポイ捨てにより他人に何らかの損害が生じた場合は、民事上、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条参照)。
また、軽犯罪法1条27号(※1)や廃棄物処理法16条(※2)の違反、各自治体の条例違反として、刑事責任を負う場合もあり得るでしょう」(結城弁護士)
※1:公共の利益に反してみだりにごみ、鳥獣の死体その他の汚物または廃物を棄てた者(は拘留または科料に処する)
※2:何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない
仮に軽犯罪法に違反した場合、「拘留または科料」に処される。「拘留」とは、1日以上30日未満の刑事施設への収容が科せられる刑罰を指し、「科料」は1000円以上1万円未満の金銭を徴収される刑罰だ。
これらを刑罰として「軽い」と感じる人もいるかもしれないが、前科がつくことを考えれば、安易に喫煙所内で空き箱などをポイ捨てすべきではないだろう。
さらに、廃棄物処理法16条に違反したと認められれば「5年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金」と非常に重い刑罰を受けることになりかねない(廃棄物処理法25条)。
なお、結城弁護士は、喫煙所内の「飲食禁止」や「ゴミは持ち帰るように」といった張り紙、注意書きについて「責任の『有無』の明示化や、紛争予防的な意味合いはあるものの、責任の『重さ』自体を変えるものではないでしょう」とも指摘した。

真夏の喫煙所。
強い日差しに照らされる灰皿の上には空き箱が複数放置されていた(8月中旬 都内/弁護士JPニュース編集部)

法的責任のほか、社内処分を受ける可能性も

先述した法的責任に加えて、働く喫煙者にとっては「社内処分」を受ける可能性があることも、認識しておく必要があるだろう。
たとえば、オフィスビル内の喫煙所で、そこで働く社員が上記のようなポイ捨て行為に及び、それが発覚した場合、「あらかじめ就業規則に『企業内秩序違反行為』として懲戒規定を設けられていれば、相当の処分が下される可能性がある」と結城弁護士は指摘する。
つまり、働く喫煙者の場合、通勤前、あるいは退勤後の喫煙所での“振る舞い”のみならず、勤務時間内における休憩中の一服にも気を付ける必要があるということだ。

省庁や裁判所などが集まる霞ケ関駅近くの喫煙所。お盆~夏休み期間で閑散としていたが、飲み物のゴミが落ちていた(8月中旬 都内/弁護士JPニュース編集部)

「マナーを守って喫煙所をご利用いただきたい」

もちろん、喫煙者に求められるのは順法意識だけではない。
たばこ大手・JT(日本たばこ産業株式会社)の広報担当者は弁護士JPニュース編集部の取材に対し、「灰や吸い殻以外を含めた一般的なポイ捨て行為は、喫煙場所に限られるものではなく、社会全体で対応すべき問題」と前置きしたうえで、次のように述べた。
「たばこを吸われる方の喫煙マナーについては、最終的には個々人のモラル向上によって解決せざるを得ないものではあります。
ですが、当社では『たばこを吸われる方と、たばこを吸われない方が共存できる社会』の実現に向けて、マナー向上の呼びかけや分煙環境の整備等、さまざまな取り組みを実施しています。
当社としては、これからもたばこを吸われる方の喫煙マナー向上に向けた取り組みはもとより、たばこを吸われる方と吸われない方がともに快適に過ごせる共存社会の実現を目指して一層の努力を重ねていく所存です。
皆さまにもマナーを守って喫煙所をご利用いただくよう、お願い申し上げたい所存です」(広報担当者)
喫煙者を取り巻く環境が厳しさを増す中、限られた喫煙スペースを今後も快適に使用していくためにも、マナー違反が招く“重大な結果”を理解し、責任ある愛煙家として行動することが肝要だろう。


編集部おすすめ