
しかし、客側の反発はいまだ強い。株式会社NEXERが6月に発表した「飲食店のスマホ注文に関するアンケート」調査では、対象者の50%以上が「(スマホ注文よりも)店員に直接注文するほうが好き」と回答していた。
そして、スマホ注文を導入していながらフリーWi-Fiを設定してない店も多々ある。こうした店に対しては「俺のギガに“タダ乗り”しやがって」との怨嗟(えんさ)の声も見受けられるが、スマホの通信料や、充電にかかる電気代を店側に請求することは可能なのだろうか。
普及の背景には「人手不足」
そもそも、なぜ多くの飲食店はQRオーダーを導入しているのか。飲食業法務の専門家であり、自身でも飲食店を経営した経験を持つ石﨑冬貴弁護士は「とにかく採用難への対応と人件費の削減です」と語る。
「大手チェーンで配ぜんロボットも導入されていますが、それと同じです。ハンディーや手書きの伝票に比べて、聞き漏らしや聞き違いなどトラブルがないという効果や、翻訳機能が使えるというメリットもあります」(石﨑弁護士)
前述の調査では、スマホ注文の「改善してほしい点」に関して、「メニューが見づらい、わかりにくい」「スマホの画面操作に慣れていない人への配慮が不足」「通信状況が悪いと利用できない」などの回答があった。このほか、冒頭で述べたように通信費が発生することを負担と感じる人も少なくない。
スマホ注文で改善してほしい点は?(「株式会社NEXERによる居抜きの神様のサポートを受けた調査」から引用)
しかし、導入され始めた当初は「スマホ注文の店は面倒」と敬遠する人も多かったが、最近は大衆店でも一般的になり、消費者側が慣れてきた側面があるため、客足が途絶えるなど店側にとってのデメリットは小さくなっているという。
「素晴らしいサービスを受けたいなら、それを買う必要がある時代になった、ともいえます。
飲食店は、材料費、人件費、家賃、光熱費と全ての経費が上がっている中で、価格転嫁が非常に難しい業界です。
QRオーダーは、人件費をDX化で下げる(少なくともできるだけ抑える)ことで、できるだけ価格転嫁しないようにする方法の一環です。
そのため、仮に客側に通信料や電気代が発生しているとしても、QRオーダーによって店が客に『負担』をかけていると簡単に表現することはできません」(石﨑弁護士)
通信料や電気代を請求することは可能?
QRオーダーの店で客側に発生する通信料や電気代は、法律的にはどのように位置付けられるだろうか。実は、飲食店で行われる「店が客に食事やサービスを提供し、客はそれに対して代金を支払う」という一連の行為は、法律的には「契約」にあたる。
ただし、基本的に飲食店で契約書を交わすことはないため、一般常識やその場の言動などから契約の内容を判断する必要がある。
一般的には「店が場所を提供すると共に食べ物を出す義務を負い、客がその代金を支払う」という内容の契約が、どの飲食店にも共通している。それ以上の内容については、個別に合意することになる。
そして、QRオーダーの店では、通信料や電気代は客が自己負担する(店は負担しない)という内容の合意が成立しているものと考えられる。現実問題として、客側に発生した通信料や電気代などを個別に算定し、店側に請求することは、不可能に近く、そのことを客側も認識しているからだ。
さらに、飲食店の側は客を選ぶことができる。そのため、QRオーダーを嫌がり口頭で無理に注文しようとする客に退店を求めることや、そもそもスマホを持っていない客の来店を拒否することも法律上は可能だ。
ただし、すでに来店している客に退店を求めると「QRということは知らなかった」「時間をかけて店まで来たのに、注文できないのは困る」 などと言われ、トラブルが起こる可能性もある。
トラブルを予防するためには、店側が「QRコードでしか注文できない」という旨をHP・SNS等に記載することに加え、入口に明示することや、入店時に告知することが望ましいという。
「インバウンド客への利便性もありますし、客側に通信料が発生することを防ぐために、フリーWi-Fiは整備したほうがよいと思います。
そのほか、個人情報保護の問題もありますが、一般的には、QRオーダーを提供しているサービス会社がプライバシーポリシーや利用規約などを設定し、情報を管理していますので、店側が特段注意することはあまりないと思われます」(石﨑弁護士)
QRオーダーは、店にとっては人員不足を補い、価格やサービスの安定につなげる合理的な仕組みだ。今後さらに広がっていくことは確実であり、客側としても「負担だ」「タダ乗りされている」と言い続けるわけにもいかない。時代の変化として受け入れて、便利に活用しようとする姿勢が必要だろう。