
同賞は2010年に精神科医・犯罪学者として活躍した故・作田明氏によって創設。
平松氏が盗撮事件の調査活動を開始したのは2000年12月。知り合いの警察官からの相談を端緒に、劣悪な盗撮犯罪の現状を知り、性的な目的で盗撮する犯罪の撲滅と厳罰化を目指す法律の制定などに向けた活動をボランティアとしてスタートさせた。
当時としては唯一の盗撮犯罪防止専門組織として活動を始め、以来25年にわたりこの分野の第一人者として活躍している。
苦難の連続だった四半世紀
昨今は、教員による学校内での盗撮や、駅など公共施設の盗撮事件が連日報じられ、世論の目も盗撮に対し厳しくなったが、活動当初は苦難の連続だったという。「いまや報道されない日がないくらいに盗撮事件が多発していますが、私が盗撮を専門に調査し始めた当時は、“盗撮に関わる”ということだけで私自身に対する偏見も少なくなく、『映像見たいからやってるんだろ』といった嫌がらせや誹謗(ひぼう)中傷なども数えきれないほどありました。それほど盗撮に対する世間の目は冷めたものでした」と平松氏は当時を振り返る。
実際、活動初期はメディアでコメントすれば世間からのバッシングや個人的な攻撃が行われた。ある組織に1年間にわたり監視され、心身を追い詰められるほどのダメージを受けたこともあるという。
盗撮が非接触で直接的な被害が出ない類型の犯罪であることに加え、関連も含めて数百億円以上ともいわれる市場規模から、平松氏の活動により不利益を被る組織や団体などもあり、水面下で妨害行為が行われることも珍しくなかったのだ。
四半世紀にわたる活動の中では心が折れそうになることが何度もあった。それでも苦難やトラブルを乗り越え、盗撮撲滅に情熱を注ぎ続ける平松氏の原動力は「被害者の苦しみを少しでも軽くしたい」という熱い思いだ。
盗撮の被害者支援の必要性を痛感した「ある事件」
平松氏が被害者支援の必要性を痛感した事件がある。その被害者は、顔が映った10代の頃の全裸の姿が5本以上のDVDで販売されていた。
「被害者の奥さまは一つひとつの実態を知るたびに、何度も精神的な苦痛を繰り返しました。家事をしているかと思えば、いつの間にかベランダに閉じこもってしまう。飛び降りてしまうのではないかと目が離せず、旦那さんも食事を摂(と)れない。仕事にも行けない…。結局、そのご夫婦を支えているのは、お互いのご両親でした。
いま、盗撮映像は店舗で販売されているだけでなく、全世界に向けて配信されています。一度拡散された映像は二度と回収できません。どうすれば良いのだろうか…。
水際で食い止めること、つまり海外やインターネットへの流出を防ぐことが重要です。そのためには、機材の販売規制からインフラ整備まで、省庁の壁を越えた総合的な対策が必要です。さまざまな仕組みから犯罪をなくし、少しでも被害者を出さない。
現場を知る人間の声がなければ、対策も無意味
こうした思いが法律制定という考えへとつながっていく。「大事なことは、いかに再発させないかというアプローチだけでなく、盗撮が起こらないためにどうすべきかなんです。従って、法律でカバーするにしても盗撮された後に円滑に被害に対応できるよう逆算して設計されていなければ意味がありません」
2005年には「性的盗撮防止法案」において、意見書を出すなど尽力したが、実を結ぶことはなかった。そして2023年7月、「性的姿態等撮影罪(撮影罪)」が施行される。
この内容について平松氏は、「現場の意向が全く反映されておらず、穴だらけです。本当に盗撮被害のことを分かっていれば到底このような法律にはなりません。繰り返しになりますが、法律で罰することはもちろんですが、起こらないためにどうすべきかが重要。被害者目線がなにより大事なんです」と、その不十分さを指摘する。
この言葉を裏付けるように、撮影罪施行後の2024年の盗撮にかかる検挙数は8323件(撮影罪6310件、迷惑防止条例違反2013件)で過去最多を記録。警察が取り締まりを強化したともいえるが、一方で抑止力としては機能していないことを示している。
盗撮関連の法制度統合などの提言書に込めた思い
こうした過去の経験と現在の法律への懸念から平松氏は再び、自らの思いを提言書にしたためた。その内容は、盗撮に関連する法律(撮影罪、迷惑防止条例、児童ポルノ禁止法など)の一元化を軸とし、具体的な再発防止措置として、日本版DBSへの盗撮・リベンジポルノ等の対象追加、GPS監視措置の導入、医学的措置(ホルモン療法等)、機材の販売規制や追跡のためのインフラ整備なども盛り込まれた。
また、教育機関や企業などで盗撮被害が目立つ現状を踏まえ、企業などへの法的責任の明確化も提言。
さらに再発防止とリンクするような、被害者支援の仕組みも提案されている。
「スマホが浸透した社会では誰でも盗撮が可能です。小型カメラ、極小カメラ、遠隔操作技術などもあり、巧妙に盗撮を行う環境が整ってしまっています。
撲滅することは難しくても、起こりにくくする、起こった後に円滑に対処するなどの体制を整備することは可能です。遅すぎるくらいですが、いまこそ、それらを推進するタイミングだと思っています。
提言書には現場を熟知する者として、撲滅のために必要な可能な限りの施策を盛り込みました。すべてを反映するのは難しくても、一つずつでも取り入れていただければ、盗撮が繰り返されない社会へつながっていくと確信しています」
1日には議員会館を訪れ、旧知の八幡愛衆議院議員に提言書を手渡した。
八幡議員に提言書を手渡す平松氏(左)(弁護士JPニュース)
八幡議員は「なんとか形になるよう、私もやれることは全力で取り組ませていただきます」と平松氏の思いをしっかりと受け止めた。
〈教員が教室で生徒を〉
〈警察官が駅で女性を〉
〈会社員が女児のスカート内を〉…。
もはや報道されない日がないほど、社会に盗撮事件があふれている。それでも、「これらは氷山の一角です」と平松氏。
発生すれば検挙する。