信号待ちの250ccバイクに時速70キロ以上の軽乗用車で追突。バイクの大学生は50メートルほど飛ばされ、全身を強打して4時間後に死亡――。

ひき逃げというにはあまりに残忍な事件は、道路交通法では初めて「重要指名手配」とされ、逮捕へ向け厚い包囲網が敷かれた。警察にはいまも情報が大量に寄せられているものの、犯人・八田與一はいまだ捕まっていない…。
※ この記事は、『読んで震えろ!世界の未解決事件ミステリー』(鉄人社、2024年)より一部抜粋・構成しています。

3年前の6月29日に悪質なひき逃げは発生した

2022年6月29日19時45分ごろ、大分県別府市野口原の県道交差点で、信号待ちをしていたバイク2台に軽乗用車が追突、原付きバイクに乗っていた同市石垣東の男子大学生、福谷登さん(当時19歳)が死亡、250ccのバイクに乗っていた友人の男子大学生(同20歳)が軽傷を負った。
別府警察署は現場に残されたままの車のナンバーなどから、事故を起こした後、救護することもなく逃走した同県日出町の会社員・八田與一(同25歳)を特定。指名手配をかけ、7月4日には顔写真を公開し情報提供を呼びかけた。
実は事故の前、八田容疑者と福谷さんは、現場からおよそ500メートル離れたショッピングモールの駐車場で遭遇していた。福谷さんが原付きバイクで駐車場を出ようとしたところ、音楽を大音量で鳴らしながら歩いてきた八田と目が合い、トラブルになりかけたことを友人が目撃している。
それからわずか1分後、駐車場を出た2人が赤信号で横並びに止まっていると、突然アクセルを強く踏む車の音が聞こえてきた。
サイドミラーで1台の軽乗用車が猛スピードで向かってくるのに気づいたが、避ける間もなく衝突。福谷さんは50メートルほど突き飛ばされ、全身を強く打ったことで心肺停止となり、4時間後に搬送先の病院で死亡。友人は車に乗り上げ地面に叩きつけられたものの、奇跡的に打撲だけの負傷で済んだ。
警察の調べで、八田は制限速度を30キロも超える70キロ以上のスピードを出していたことが判明。
現場にブレーキ痕がなかったことから、故意に追突した殺人の疑いもあるとして捜査は進んだ。

16歳の時、クラスメートを刺し、殺人未遂で逮捕

八田容疑者は石川県出身。小中高校は千葉県で過ごした。
通っていた習志野高校1年、16歳のときにクラスメートに後ろから消しゴムを投げつけられたことに激怒。授業後にナイフでその相手の左胸を刺して重傷を負わせて逃走し、さらに学校から約5キロ離れた大型スーパー前で拾ったタクシーの運転手をナイフで脅し車を奪ったものの、すぐに脱輪したためにまたも逃走。その日の夕方に千葉市内を歩いているところを殺人未遂容疑で逮捕されるという事件を起こしている。
千葉家裁の決定で中等少年院送致となり、その後、何年間、過ごしたかは定かでないものの、少年院を出た後に東京都内の私立大学理系学部に入学、卒業。2021年4月から大分県に住んでいた。
ひき逃げ死亡事故を起こしたのは、それから1年2か月後。なぜ現場から逃走したかについては、八田容疑者は当時、過去に有罪判決を受けた事件で執行猶予中で、刑の執行から逃れるのが主目的だったのではないかと言われている。
行方がつかめぬまま、警察は7月28日、八田容疑者が逃走中の防犯カメラの映像を新たに公開した。それは事件を起こした後、現場からおよそ1.5キロ離れた別府市内の飲食店街を走って逃げる同容疑者の姿で、靴を履いておらず裸足で、交通量の多い国道10号に進み、片側3車線の幹線道路を車が途切れるタイミングを見計らいながら、横断歩道のない場所を渡っていた。
2023年5月26日、警察は知人が撮影した八田容疑者の動画や、防犯カメラの映像を新たに公開。
防犯カメラの映像では事件当日の16時過ぎ、市内の店舗でコップを購入する姿、さらに19時41分ごろの映像では、店の近くのマンション付近で靴を履いて歩いている姿が確認できる。

2023年9月に警察庁は「重要指名手配」に指定

同年9月8日、警察庁はこの事件を全国の警察を挙げて捜査する必要性が高いと判断。八田容疑者を「重要指名手配」に指定した。これを受け、同年9月15日より捜査特別報奨金の対象事件となり、報奨金の上限は800万円に設定された(警察による報奨金300万円、早期解決を願う会による報奨金500万円)。
大分県警によると、2025年8月末までに1万1059件の情報が寄せられており、目撃情報は県外では関東が最多で約4000件となっている。
八田容疑者はどこに逃げ、潜伏しているのか…。現在も大分県警は広く情報提供を募っている。


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